第14話 貴女だけじゃない(雪視点)
女子テニス部の活動が終わり部室棟更衣室で制服に着替えて先輩達に挨拶をして下校した。
既に外は薄暗い景色。
人気も余りなく静かで時折まだ活動中の何処かの部活動中の声が下校する学生が少数だからなのかな自分しかいないのかなって思っちゃう。
校門抜けた時、私の肩をポンと一回後ろから軽く叩きそのまま隣に並ぶ半袖白シャツと学校ジャージズボン姿の幼馴染の一人、
「よ!」
「今日は早いね」
「いつも遅いみたいに言うなよ」
「遅いじゃん」
「雪こそ今日は遅いと思うけど」
「女子には色々あるの」
「着替えるだけなのに」
デリカシー無い発言にイラッときた。
殴ろうとも思ったけどその部分が痛くなるから我慢した。だから言葉で殴る。
「あっ、ファンガールズ」
「ひっ!」
樹は異常な反応で慌て出す。トラウマだね。一発にしてはお釣りが来たかも。
「冗談♪」
「冗談にしては度が過ぎてるぞ」
「ごめん。でも放課後に来た事なんて一度もないじゃん」
「それも、そうか」
他愛ない会話をしながら駅に着き改札口を通過。
ホームには私服やスーツ姿の社会人。一番多かったのは部活帰りの実乃鐘高校の生徒。
私と同じ制服姿と樹と似たようなジャージ姿(全員男子)の生徒の二択。
『まもなく一番ホームに17時丁度発○○快速○○行き電車が到着いたします……』
メロディーとアナウンスが流れ、電車が到着して降りる乗客がいなくなってから一番車両に乗り込んだ。
出発した電車が安定した時嫌なものを見た。
社会人も普通にやってる事。優先座席に座る事。
私は四人の男が優先座席に座る瞬間を見た。しかも同じ学校。
別に何処にも優先者がいなければ座ってもいいとは思う。
けど妊婦さんやお年寄りの人達がいて気づいていても譲らないのが許せない。
そして今がそれ。お婆さんが座ろうとしたのに四人は座った。そしてそれを当たり前と思ってる空気が嫌い。だから今ケラケラ笑っている四人の所に歩み寄る。
「ねえそこ優先座席だからと退いたら」
会話で盛り上がり笑っていた四人は黙ってこっちを睨んできてその内の一人が話しかける。
「は?俺達の他にもいるだろ」
「そうだけど優先座席にあなた達が座る前に今私達の目の前にいるお婆さんが座ろうとしたよね。あと電車で喋るなら最低限のボリュームにして迷惑だから」
男子達は立ち上がり距離もそんなにないのに近づいて来た。
「何なんだお前」
「あなた達と同じ高校の生徒ですけど」
言ってることは間違ってない筈なのに不快で『ワケわからねぇ』みたいな表情と苛立ちを男子達は顕にする。
「はあ?」
「あなた達は規則も守れない集団なんですか」
「わけわかんねぇ」
「高校生なら犯罪起こさない程度に少しくらい規則守れって事。同じ学校の生徒として恥ずかしい」
「言わせておけば―」
「殴るならどうぞ。どうにかされるのはそちらだと思うけど」
「……ちっ」
四人は周りを見渡し苛立ちながら別の車両に行こうとした。
「おい、お婆さんに謝ったらどうだよ」
樹は四人に謝罪させてから行かせた。
いつの間にか優先座席に座っていた人達は吊り革を握って立ってる。同じ目に会いたくないから。
それから20分程して降りる駅に着いてホーム降り改札を抜けて家のある住宅街に向かって歩く。
「それにしても樹、本当に変わったよね小学生3年生くらい迄ひねくれてたのに」
「唐突に何だよ。そういう雪は変わらないからヒヤヒヤした」
「私は樹が殴らないかヒヤヒヤしたけど」
「殴らないよ」
「アハハハ」
言いたいことははっきり言う方だと私は思ってる。心掛けてもいるから尚のこと。だから幼稚園の頃の私は男の子との喧嘩が絶えなかった。
私達が6,7歳くらいの時の事。
私は三人の男の子に喧嘩を吹っ掛けられて
た。
「なあおまえ」
「なに?」
「おれらがやったってせんせにいったのおまえだろ」
「ヒーローきどり」
「なまいき」
その時の一人が樹だった。樹が時々口が悪いのはその名残。
そして、男女っていうのは私の顔が少年よりだからだ。
弄られてた辺はいちいち構ってられないからいつも聞き流していたと思う。
「なにそれ。それにおんなのこがわるものをやっつけるアニメのほいがいまはいっぱいなの。えっと…じだいおくれってやつだね」
「うるさい」
そして樹は幼稚園の頃から柔道をやっていてその技で大外か小内か忘れたけど。
私はそれでこかされて体に
反撃はできず一方的に殴られた。
先生は助けに来ない幼少期の頃の身長だと見えない場所だったから。
「そういえば蓮と出会ったのもその時だよね」
「ぶふ、そうだった」
樹が突然吹き出して笑った。
「ははは。あれは面白かったよなぁ」
「蓮に怒られるって…ぷ」
今思い返せば後々が面白い思い出話なんだよね。
二度と先生に何かあっても言わないことを約束にちょっかいをかけないと言われた。
私は否定した。
その時後ろから声を上げて止めに入って走る少年。
殴り合いを見ていた男子二人も樹も殴るのをやめて私も声の方に振り向いた。
「けんかはやめべっ」
盛大に
カッコ悪って思った少年が蓮だった。
これが私達の出会い。
転けた蓮は立ち上がって樹を私から引き離して私達の間に立った。
「なに?」
「いじめは、やめろよ」
半泣きだったから、その時私は君の方がいじめられない?なんて思ってたと思う。
今思えばだけどね。
「いやだ。こいつがせんせになんもいわなかったらこんなことにはならないんだ」
「このこはまちがってなぶぃ」
話の途中で痺れを切らした樹が蓮の顔を殴った。卑怯というか最低。思い出したらイライラしてきた。
「樹、蹴るとスカート捲れるから一発殴っていい?」
「何で!?」
冗談として置いておいて。
殴られた蓮は手で抑えようとしながらもそれを我慢してた。
「だいじょうぶ?」
「ん、んぐ…」
蓮はそのあと頭突きを樹を食らわして、それから二人の殴りあいが始まった。
あのとき取り巻きの二人も私も只呆然と見てた。
最悪な出会い方だった。
暫くして先生が駆けつけ喧嘩は終わり、事情を聞かれて、両親呼ばれて叱られた。
でも蓮のお母さん、水樹さんは蓮を誉めては謝って、怒る不思議な光景を今もよく覚えてる。
「確か喧嘩が終わったのは鈴奈ちゃんが先生を呼びにいったからなんだっけ」
「あの頃から鈴奈ちゃん、蓮にベッタリだったよね」
「そこまでは覚えてないけど今もそうだしな」
翌日。樹が謝りに来て「もう二度としない」って言ってちゃんと仲直りしてからはよく遊ぶようになってた。
家も大分近くで驚いた。蓮とは隣だったし。
小学生に上がってからも友達関係が続いてた。小学三年生位まで樹は喧嘩売られては買って蓮が止めに入っては二人の喧嘩になってた。
喧嘩するほど仲が良いっていうけど一期一会の方があってるかも。
出会い方は本当に最悪だけど。
そんな思い出話をしてたらいつの間にか住宅路にいた。
「ねえ」
「何」
「何で柔道やめたの」
「愚問だね。喧嘩に使ってたから」
「そっか」
一つ謎。蓮地何であんなに喧嘩強かったのか。
それがちょっと不思議だったけど知ったことを思い出してクスッと私は笑った。でも同時に胸がチクッとした。
「俺からも質問いいか」
「何?」
もうすぐ私は右、樹は左に別れる十字路に着いた所で樹は足を止めてさっきまでの楽しい雰囲気じゃなく真剣な雰囲気が漂ってた。
「何で蓮地に告白しなんだよ。好きなんだろ」
「……や、やだなぁ当たり前の事言わないでよ。幼馴染…」
「俺が言ってるのはそういう意味じゃねぇよ!!」
何でそんな事聞くの聞かないでよ。
嫌だよ。嫌、嫌、嫌。
それ……ずっと必死に我慢して隠してたのに。春咲蓮地を恋愛対象として異性として……好きな気持ち。
中学一年後期、私と樹は蓮地が休み時間や部活中に時々何かをしていることに気づいて聞くと恋愛の手助けをしてるって言われた。
私は質問してみた「そんな暇あるなら自分の恋を見つけてみたら」って。
その時、蓮は諦めと申し訳なさに満ちた何処か哀しい表情をした。
私は気になって何でそんな顔になったのかを聞いてしまった。
蓮は元からはすつもりだったのかな。直ぐに
自分の恋愛に全く興味が無いこと話してくれた。
私の恋はその瞬間終わった。
どうしたら力になれるか分からなかったから受け入れることだけしか出来なかった。
でもあの子は違った。
江菜は蓮の事情を聞き受け入れて私と違う選択をした。〝彼女〟になる選択をした。
蓮からそれを聞いたとき、蓮が好きな気持ちが再び花開いたのを感じた時より気持ちが強くなっている事も気づいた。
日曜日の昼に私は前に行ったショッピングモールで行き損ねた夏物がある店を探してたときに様子が変な二人を見た。
少し前に騒動があって中心が蓮達だとあとで知った。
翌日。上の空状態の蓮に詳しく聞いてみた。
その時に水樹さんが昔レディースで総長だったと知ってビックリした。
…一概に言えないけど。
でもそれで蓮が喧嘩強かったのが分かった。
それからの一週間江菜は音沙汰無しだった。
だから普通でいられた。江菜を心配する気持ちを優先出来た。
言ってしまえば気持ちから逃げていた。
なのに今日江菜が転入してきた時凄く気分が悪くなった、吐きそうになった。
我慢はできた。
嫌な気持ちになるよりは楽だったから。
昼休み、蓮と二人で江菜に校内を案内することになった。
この時は二人にした方がいいと思ったからその場を離れた。
また逃げた。
二人が一緒にいる光景が辛かった。喧嘩してだって思った。
でも飲み物を買いに行って屋上に向かってるときに階段の踊り場で見た二人はいい感じになってた。
音沙汰無しだったのは転入試験の勉強を頑張っていたかららしい。
出会ってまだ日は浅いのに私よりも江菜が蓮を分かってる気がした。
だから聞きたくない。
「雪、お前が異性として」
私の気持ちを代わりに言うな。
「蓮地を」
「やめてよ!!……言わないでよ」
私の目から涙がぽろぽろと流れ落ちる。そんな私を無視して樹は話を続けていった。
「蓮地だって気づいてる。様子がおかしいって意味でだけど」
蓮は自分への好意に告白されないと気づかない。だから、江菜を意識してる。私と違って。
「見てられないんだよ。幼馴染として。それにお前中学の頃に蓮地の恋愛感情の事知ってから時々見る顔が辛そうなんだよ」
知らなかった。そんな顔を私してたなんて、でも言えない。
「できないよ、だって今の蓮には江菜がいるもん」
「…そうだな。だからって告白しないのは違うと、俺は思う。それに言いたいこと言わない雪は雪らしくない」
何かの定番シーンみたいなんて事一瞬浮かんでしまった。でもすぐに消えた。最後の一言と必死に私を説得する顔の樹。その樹の思いが何故か少し私の心を軽くした。
「…困ってたりしたら見て見ぬ」
ハッと私は樹の言葉により耳をたてる。
その言葉を知ってる。そのあとの言葉も。
私達は他の皆とは違う部屋で親を先生と待ってる時に樹のお母さんがすぐに来て帰った後に私と蓮だけになった時に聞いた言葉だから。
「あのね」
「何?」
「どうしてたすけてくれたの?私、君のことしらないのに君も知らないでしょ」
「はるさきれんじ。ぼくのなまえ」
「れんじ、れんじ…じゃあれん!よびやすい」
「…まあいいや」
蓮はぽかんとしながらも呼び方をOKしてくれた。
「きみは」
「こばおりゆき」
「おりゆき?」
「…ゆき」
「ゆき。わかった」
歯を出して蓮は笑った。そのあと改めて何で助けたのか聞いた。
「「困ってたりしたら見て見ぬふりをしたくない。だから助けただけ」 」
意味はこの時六歳くらいで知らない言葉もあったし蓮自身が言った事をわかって無かったと思う。でもその言葉を言う時とても嬉しそうだった。
そしてその言葉は私を現実と記憶の間で樹の言葉と重なって聞こえた。
「小学生の頃に蓮地から聞いたものでさ。この言葉で俺は喧嘩をやめていける事ができたと思う。理由は今もわからん。
でもその言葉があったから俺は、蓮地と雪の力になりたいって思った。
あと多分だけど江菜ちゃんも気づいてるんじゃないか雪の気持ち」
「江菜なら気づいてそう。何となくだけど」
私も蓮の事言えないかも。勝手に気持ちを消そうとしてた。けど消えないよね。
春咲蓮地が好きな気持ち。
持つべき者は幼馴染だ。まあその幼馴染の一人に対して悩んでるんだけど。
「もう大丈夫か」
「大丈夫かって言われると違う気がする。でもありがとう。私、明日告白する」
「急だな」
そう言いながらも樹は安心したのかホッとして小さく微笑んでた。
「まあがんば…いや、言いたいこと言えよ」
「うん」
江菜ごめんね。私やっぱり嘘はつけない。
だから明日の花見で蓮に告白する。
好きなのは江菜だけじゃないんだよ。
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