第2話 始まりの協力

 僕は恋愛を応援したり助けたりと他人の恋愛には興味がある。

 でも、自分のとなると何故か興味がないのです。

 まあそれはとりあえず置いておいて。

 僕がこういう依頼という形で他人の恋愛を助ける用になったのは中一の後半あたり。

 きっかけになったのは入学から3ヶ月程たったくらいでした。



 放課後、外は暮れ始めて夕陽があたっていました。僕も帰るために、リュックを背負って教室を出て階段を下りると。

その先に一人の眼鏡をかけたショートヘアの学年がひとつ上の女性先輩が靴箱前で手紙の入った封筒を持って、入れるか迷っていたところを見たからです。

 ラブレターですね。


 先輩という理由は今年はネクタイが1年は赤、2年は青、3年が緑となってるから。


 その光景を見た時から、ああ駄目だ。あの人片想い中の男性とは会話もしたことない初対面の人にラブレターを渡すつもりだ。

 失敗するなと思った。

 見てしまったことで性格なのか癖なのかその女子先輩に声をかけていました。

 しかも第一声が「片思いで会話もあまりしたこと無いならやめた方がいいですよ」でした。


 勿論先輩はビクッとなってふりかえりました。――


「ななななな、何?誰?」


「あっ、すいません僕は一年の春咲蓮地といいます」


「へ?後輩」


 先輩は目をぱちくりさせて、ぽかんとしていた。少しして意識が表に戻ったみたいでそこで漸く口が開きました。


「ねぇ何で?何でってわかったの?」


「……何となくです」


「嘘!」


「嘘じゃないですよ!」


 嘘ではなく本当に何となくそう思っただけどなんですけど、


「あえて言うなら」


「言うなら?」


 ジッと見られると緊張するのでやめてもらいたい。

「…前に何度か友達のそういうのを解決したことがあるからです、かね?」


「!、春咲君だっけ?ちょっと時間あるかな?」


「はい、丁度帰るところだったので」


「ならちょっと来て!」


 そう言って先輩はラブレターを入れたあとすぐに帰ろうとしてたのか外靴を既に履いていて僕の手を引っ張って外に出ようとしたんですが。


「先輩、僕に靴履かさせてください」


「ご、ごめん」


 先輩は慌てて僕の手を離してくれて、僕は自分の靴箱に行って靴を履き替えました。

 先輩は僕のちょっとした悪戯めいたセリフに気づいてない様子だった。


 ◇◇◇


 鈴丘中学校は名前の通り丘の上にあり僕と先輩は丘を下った先にある商店街の中にある喫茶店にいます。


「そういえば私は名前言ってなかったわね。私は菱実恵ひしみめぐり、よろしく春咲君」


「はい。よろしくお願いいたします」


「一つ聞いていいかな?」


「は、はい」

 凄い威圧感と強気な口調。でも、それだけ真剣とも取れる。


の経験はしたことある?」


 なるほど、確かに先輩は女性だし男性より女性の相談の方が参考にはなるのかもしれないですね。


「あります、2回」


「そう!」


 先輩は「ある」という僕の言葉で肩の力が抜けさっきまでの威圧感とかが消えた。


「それでね、初対面でこんなこと…お願いするのもなんだけど」


「いいですよ」


「まだ何も言ってない!」


 察しがついて先に返答してしまった。悪い癖です。


「協力してほしいんですよね」


「う、うん。でもいいの?初対面だよ!」


「協力して欲しいから、その人が好きだからお願いしたんですよね。それにいいと思いますよ」


「何が?」


 何か分からず先輩は首を傾げる。


「協力者を作ることはいいと思います。相談にも乗れますし何かあったときのフォローも少なからずできますから」


「なるほど」


「それに相談とかなら


 関心して頷いていた先輩はまた首を横に傾げました。


「先輩の前で言うのもあれですが、女性って恋愛事には興味深く食いつきますよね」


「そうね。わたしもそうだし、………」

 先輩は顔を赤くしてそのあとの言葉を濁らして何かを言ってました。


「なら、先輩が「もし好きな人ができたて距離を詰めたい」という話題をふれば」


「そっか!皆と会話として参考として自然に聞けるわけね」


 気づいた先輩の言葉に僕は頷く。


「では、本題に入りましょう」


 先輩が好きな相手は同じ学年で同じバスケ部の桐谷浩太きりたにこうた先輩。

 菱実先輩はそのマネージャーをしているそうです。

 桐谷先輩の名前は聞いたことがあった。

 バスケのエース、ではないそうですがシューターとしてかなりの実力があるそうではす。

 残念ながら今年の全国大会、惜しくも逃したみたいですが、桐谷先輩の時間ギリギリでのスリーポイントシュートで決勝戦まで行ったと聞きました。


 初対面という予測は外したなぁ。


「彼ね、皆が帰ったあとにこっそり体育館に戻って練習してるのを私偶然見ちゃって。で、外しても諦めずに続ける姿にその、…好きになったの」

 先輩は体をモゾモゾ動かしながら話してくれました。


「なら、菱実先輩はその努力に沿えるようにその恋の努力をしましょう!」


「うん!でも具体的にどうするの?」


 僕はニヤっと微笑み、続けて話しました。


「先輩にはまず桐谷先輩と仲を深めてもらいます。桐谷先輩は同じ部のマネージャーという認識で他は何も知らない。ですので一度近づいて仲を深めてもらいます」


「む、無理よ!私引っ込み思案だし」


 顔をブンブンと横に振って言いました。

 なら何故?


「先輩はバスケが好きで男子バスケ部のマネージャーになったんですよね」


「うん。鈴丘の女バスが無くなったって一年の頃に知った時はショックだったけど、けどバスケ好きだから男バスのマネージャーでもいいからバスケに関わりたかったの」


「バスケに関しては先輩前のめりじゃないですか」


「そ、それは」


 その要素だけで十分です。


「そこで先輩には桐谷先輩と仲を深める際にそのバスケで深めてもらいます」


「どうやって?マネージャーだから練習そのものには入れないし、校内だと」


 引っ込み思案の性格が出てますね。しかものに気づいてない。


「先輩は桐谷先輩の放課後何を見てますか」


「それは自主練だけど。…え、もしかして」


「そうです。きっかけを作るのは放課後の桐谷先輩が練習してるときです」


「駄目だよ。練習の邪魔になるだけだと思う」


 まあ、その反応は理解してました。でもだから諦めるのかという気持ちでは無いことは分かったし。


「大丈夫ですよ練習に付き合うことは邪魔になりませんし、むしろ練習になります、無理なら差し入れとかするというだけでもいいです。あくまでこれはということなんですから」


「なるほど、確かに!」


 感心して僕を真っ直ぐ純粋に見つめる。


「それに『思う』ってことは腕には自信あるんですよね」


 先輩はコクンと頷いて答えた。


「では、明日それを実行してください。進展していったら連絡がほしいので、先輩COMINEはやってますよね?IDかQRのどちらか教えて下さい」


「わかったわ」


 進展報告の連絡の為に先輩とCOMINEのアカウントを交換しました。

 その後は喫茶店を出て別れました。

 先輩は自分が払うと言ってましたが、高校生ならともかく中学生で奢るのも奢られるのも良くないということを説明して先輩も納得して、それぞれ自分の頼んだ飲み物代を払うことになりました。


 この後、菱実先輩、助言通りバスケで仲を深めていき、二人で出かける事ができる所まで行って、そこからCOMINEでの助言をすることにしていき人気ボウリング場スポッチでボウリングやバスケなどのデートを重ねて3ヶ月後―


《春咲》先輩ついに告白の時期です


《恵》き、緊張するわ


《春咲》大丈夫です。あれから引っ込み思案なところも改善されて前のめりとまででなくとも前向きはなってます。あとは勇気です


《恵》そ、そうね


《春咲》Let`s I Love you!(ハッピー顔文字)

「好きです」スタンプ


《恵》恥ずかしいからやめて!


《恵》でも、いろいろありがとう。何か肩の力抜けた気がする。これからも何かあったら相談していい?


《春咲》駄目です桐谷先輩に相談してください。

 先輩、頑張って下さい。――



 その後菱実先輩は桐谷先輩に告白して付き合うことになったそうです。

 ちなみに当時のCOMINEの名前は普通に春咲でした


 ◇◇◇


「告白したかな」

 なんて事を考えながら日暮れの中、夕焼けに照らされる街並みを見渡しながら帰り道の歩道を歩いていると珍しい車が視界に入った。


 ブロロー


「リムジン珍しい。猫!?」


 突然、道路に猫がリムジンの前に飛び出しました。

 運転手の人も気付いてブレーキをかけたけど、


 間に合わない。


 そんな事を考えている時既に僕自信が一番驚きを隠しきれない行動をしていました。

 ヒーローもののアニメやゲームでよくある『体が勝手に動いていた』が発生していたのです。


「掴んだ!よっと」


 ガッ、パキパキ


 助けれたけどなんとも格好がつかない感じです。

 後ろに飛んだのは良かったのですが、そのあとガードレールの柵に踵が引っ掛かり落ちた。そのせいで歩道側に植えられていた木の枝がいくつか折れました。


「いてて」


「ニャー」


「はぁ、良かった。もう二度飛びしたら駄目だからな」


「ニャー」


 猫は道に下ろされた後すぐに裏路地の方に駆け出していった。ああ、服ボロボロです。


「君!大丈夫ですか?」


 声をかけてきたのはテレビでよく見る執事の格好をした人。

 リムジンの方をチラッと見ると前の扉が空いていたのでこの執事さんが運転手だと分かりました。


「はい、大丈夫です」


「ですが」


「服がボロボロになっただけで、怪我はないですよ」


「そうですか」


 執事さんは肩の荷が軽くなったのかストンと下に落ちた。


「それじゃあ失礼します」


「あの君は」


「名乗るほどでもありません」


 言えた。一度いってみたかったんですよね、これ。

 多分平然に顔を保とうとしてるけど、僕の頬は緩んでますね。口角がピクッピクッと動いてます。


 でもこの出来事が僕の今までの恋愛を応援助力する側から恋愛をしていく側になるきっかけになるとは思いもよらなかった。


 当たり前、だぁ。



 後日

 朝学校に着いて靴を履き替えようと靴箱のドアを開くと二枚の手紙が入ったいました。


『初めまして、二年の○○ ○○といいます。

 菱実ちゃんから好きな人がいるなら一度君に相談したら良いってことでこの手紙を書きました。


 もし良ければ放課後に喫茶店で待っています。』


 菱実せんぱぁぁぁい。

 まあこの人の好きな人が誰か気になるしいいんですけど。

 でも、何で僕の靴箱の場所知ってるの?

 その事を考えながら二枚目を読んでみると。


『靴箱のことは菱実ちゃんが初めて知り合った日に知ったみたいでそれで靴箱に入れました。』


 あのときかぁぁぁぁぁ。


 こうして僕はまた相談兼助力をすることを決めるんですが、この時にはまだ相談を受ける条件を自分の恋愛事に僕が関わった事を言わないという事だけでした。関わった事は口外されてはいない。

 でも相談として男女ともに少数だったけど次々と広まり知る人ぞ知る恋愛助っ人依頼人としてやっていくことになったのです。

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