九十九%りばてぃ~We love銀色クリアデイズ~

陽夏忠勝

第1話、プロローグと言う名の遠い回想






僕は、ヒーローになりたかった。



誰からも好かれ、愛されて。

大切な人みんなをずっと好きだって言い続けられるような、そんなヒーローに。


それなのに。

僕の信念とも言うべき『剣』は、弾かれてしまった。

手の届かないところへと滑り、それを取りに行こうにも、僕の首筋には相手の剣先がぴたりと添えられていて、身動きができない。


―――チェックメイト。


僕の負けだった。

これでもう、僕はヒーローにはなれない。

多分それは、その刃によって首を落とされることと同義で。

きっとそれ以上に悲しく、無念なこと、だったんだと思う。


だって、負けた僕は、全てを忘れさせられてしまうのだから。




ずっとずっと、今までヒーローになるために頑張ってきたのに、

僕はそのたったひとりにはなれなかった。



世界のための犠牲になるヒーローには、たったひとりしかなれない。

そのひとりになれなかった以上、僕はそんなヒーローによって救われる世界に帰り、何思うことなく惰性に生きていく一般人、その他大勢に組み込まれていくしかないのだ。




「どうして本気、出さなかったの……?」


目の前の、たった今、たったひとりのヒーローになった人物が呟く。



どうして、だって?

何を今更、僕にそんな事を聞くんだろう?

少なくとも僕は、親友で、愛すべき人でもある君に、本気で斬りかかることなんできるわけないって、僕以上に言ってる本人が良く分かってるはずなのに。




「どうして僕ひとりが世界のために犠牲にならなあかん? そう考えたら、何もかも馬鹿らしくなってな」


敗者となった以上、僕の言葉はどんなものだろうと、言い訳にしかならないんだろう。


だから僕は、嘘をついた。

そんなヒーローの役目を、君に取られてしまったことが悔しくて。

守りたい、守らなければならない君に、その役目を背負わせてしまった自分がふがいなくて。

何よりも、君にそう言われたことが悲しくて。



「……そっか、うん。そうだよね、それでいいんだと思う。だってあなたには、生きていてほしいから」


君の嘘と悲しい顔が、心に痛かった。

君に全てを背負わせるわけにはいかないという気持ちと、そのために君へ刃を向けなくてはならなかったという、そんな矛盾。


それこそ血を吐く思いで、僕は僕なりの本気で立ち向かったのに。

僕は、負けてしまった。


だから。

口から出る言葉も、心のうちの想いも全て、言い訳にしかならないんだと思う。

どんなに努力しても結果がついてこなければ、意味がないのと同じように。




「生きて欲しい……か。分かったよ。どうせ僕は全てを忘れるんや。せいぜいだらだらと、生きていってやるわ。お前が救った世界でな」


ぶっきらぼうに答える僕。

その声は震えていたかもしれない。

悔しくて情けなくて、認めたくなくて、この後に及んで駄々をこねる子供みたいに、そんなの嫌だって今にも叫びだしたかったから。




「……うん、約束だよ」


でも、君は僕のそんな気持ちに気付かない。

だって君は、自分を犠牲にすることに、何の疑問も持たない人だから。

君が犠牲になることが嫌だって、泣き出したいこの感情も、分からないんだと思う。


そう思うと、余計に悔しくて悔しくて。

あまりにも悔しかったからなのか、僕は今更ながら気付いたんだ。



負けたからって、どうして勝者の言うことに、従う必要がある? って。

全てを忘れるということも、君が世界のために犠牲になることも、考えてみたら馬鹿げた話じゃないかって。


―――多分、それに気付いたときから、僕の本当の戦いが始まってたんだと思う。




「ああ、約束……やな」


だから僕は天邪鬼の笑顔で、約束の指切りをした。

どんな手を使ってでも忘れてやらねぇ。

お前の犠牲で世界を救われるくらいなら、その世界で生きる意味なんて僕にはないんだって、そんな意味を込めて……。



             (第2話につづく)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る