第二話「全部、貴方のせいだから」彼女目線:杏奈(あんな)


1月27日。

無事、結婚式は行われた。

「悠真、杏奈、おめでとう!」

「おめでとう!」

(今日から悠真さんの奥さんになるけど、形だけの結婚式だってこと忘れたらいけないんだ)


「杏奈」

「悠真さん」

「ずっと前から話してたが、これは形だけの結婚式だ。俺たちは籍を入れて、本物の夫婦になるが、同じ苗字である限り、君は俺の妻だ。まさか…まだあいつの方が好きなのか?」

「まさか…そんなことないよ?」

戸田悠真。私の夫。旦那さん。

そう。今日から私は戸田杏奈になった。旧姓は小林だった。


お互いの両親が親友同士だという事で、お互いの子供を結婚させたいというわがままな両親。

仲良いのは分かってる。

だけど、私たちには、かつてそれぞれの恋人がいた。

親の言いなりで結婚した二人。

愛のない恋だった。

愛のない繋がりだった。

愛のない二人が結婚してしまった。


「君を愛してる」

(嘘だ)

「愛のない言葉を呟くのは、得意ほうだぞ?」

「なんて男なの?」

「フッ冗談だ」


よく見たら、夫の顔はすごくかっこよかった。

サラサラとした黒色のラフツイストに、黒のスクエアと太めのテンプルを掛けていて、長くてキリッとした黒い眉毛に、優しい漆黒な眼差しに、厚い唇の顔立ちの男性だ。

身長もそこそこ高いし、体重もそんなに太ってなくて、痩せている。

筋トレもする健康的な体型だ。


「悠真さん」

「なんだ?」

「私みたいな人と結婚して、後悔しないの?」

「しないよ。できる限り、君を愛するから」

「矛盾してるわね」

(できる限り…か)

「ルールを決めようか?」

「え?ルール?」

「そう、ルールだ」

「なんで?」

「形のない愛を持つ人間と結婚すると、色々辛いからな。それでいくつかルールを考えたんだ」

「お互いの事について干渉しない事だ」

「え?じゃあ、夜の営みは…?」

「なし」

「じゃあ、結婚した意味ないじゃない?いつか『早く孫の顔を見せてよ!抱きたいわー!』って散々色んな人たちから言われるわよ?」

「そうなる前に離婚するか?」

「卑怯な男ね」

「そろそろ寝るからな。おやすみ」

「おやすみ」

(結婚なんてしなきゃ良かった)

(そしたら、今頃は一番幸せな人生が過ごせるのに…)

「私だって、親の言いなりになりたくないわよ」

「結婚まで無理やり押しかけて、夫婦になる事って、幸せじゃなくて、不幸なんじゃないの?」


夫婦になったのに、恋人同士ではない。

夫婦なのに、愛し合ってない。


私は…また元カレに会うことを決意した。

この寂しさを埋めてくれる人は、愛してくれる人は、ただ一人しかいない。

だから、愛されたい。愛したい。

それが例え、『不倫』だとしても…。


『はい、松本です』

「博征?私、戸田杏奈です」

「今から会えませんか?」

『どうしたんだ?急に』

「私…悠真さんとは愛し合えないの」

『寂しいのか?そんなに』

「寂しいというよりか辛いの。すごく、すごく辛いの」

『じゃあ、俺が相手にしてやるよ』

「いいの?」

『ルールがあるんだろう?知ってるよ。昔、悠真から教えてもらったんだ。だから、君の寂しさを埋めることができるなら、どんな所にいても、すぐ駆けつけていくから』

「ありがとう」

優しい笑顔が見たい。

優しい恋がしたい。

優しい愛が欲しい。


「杏奈!」

1ヶ月ぶりの再会。

1ヶ月ぶりの元カレ。

大好きな彼に会えた。

会えた瞬間、彼が抱きしめてくれた。

「ひ…博征?」

「会いたかった」

「うん、私も」


あるホテルに着いた。

「また同じ場所でするの?」

「君が結婚する前の夜はしてなかっただろ?」

「それで、ルールを聞いて、どうなったんだ?」

「それが…」

「そうか。夜の営みはないなら、結婚した意味はないな」

「そうね」

「結婚して、後悔してないのもおかしいし、何か企んでるんじゃない?」

「そんなことあるわけ…」

「杏奈。君はこれでいいのか?」

「愛のない偽りの夫婦を演じるのは苦労するぞ」

「知ってる。親のせいでこうなったの」

「親のせいにするより、二人にも問題はあるよ」

「そうね、籍入れる時まで、彼と大喧嘩したんだから」

『親の言いなりにはなりたくない。博征とずっと一緒にいたい』

『俺だって、和子と一緒にいたいんだ!仕方ないだろ!?』

『じゃあ、籍入れますか?入れませんか?』

『お互いの両親の希望に答えるしかないだろ?』

『不倫しても?』

『ああっそうだ』

『めっちゃくちゃな夫婦だって思われるわ。世間にどう思われるか知らないからね』

『お互い様だ』

愛のない形。

透明で脆い愛情。

「全部、全部、貴方のせいだから」

ギュッと唇を噛み締めて、泣くのを耐えられなかった。

「俺たち三人は幼馴染だ。だから、こういう関係にはなりたくなかった。だけど、君を愛してるのは俺だけだ。君と悠真はただの幼馴染で、君と俺は元カレ、元カノの関係で、不倫してる関係だ」

「ごめんな。こんなふうになってしまって…」

「ううん、私も悪い事したから、お互い様だよ」

「分かってる。だからこういう関係になる気があったんだ」

「え?そうなの?」

「うん。その気がなかったら、こうして、会ったりしないだろ?」

「そうだね」

ベットに押し倒す。

シュルルッと素早くネクタイを外す。

私にゴムを咥えさせて、服を下ろして、ブラジャーが見えるようにした。

「さあ、禁断な恋を始めようか」

この日から、私たちの関係は恋人に戻れた。

また、愛し合える関係になれた。

だけど、それは『不倫』という背徳感が溢れる恋だ。

「んっ」

「ゴムも付けないと…」

丁寧に両手で、ゴムを片方に寄せて、袋から取り出し、硬くなった剛棒の根元まで巻きおろした。

「キスして」

「言われなくても、飽きるほどするかな?」

「んんっんあっ」

人肌が寂しくなる季節には似合う雰囲気だ。


「杏奈、愛してる」

「私も愛してるから」

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