Live.18『共闘戦線、ソレゾレの戦い ~HE IS THE LAST SUPPLIER~』

《うぐぐ……、このォ!》

《マリカっち! 離せこんにゃろぉ!》


 幾数十ものドレスを前に、流石の鞠華たちも苦戦する。

 特殊な力は持たない様子ではあるが、何よりその数が圧倒的だ。さしずめ数の暴力というのがこのドレスの力と捉えるべきか。


 僅かな隙を突かれると羽交い締めにされ、動きを止められる。振り払ってもなお、ゾンビのように次々と襲いかかってくる。

 百音の機体が助けてくれるものの、それにすらどこまで頼れるかも分からない。危機的な状況に陥っていた。


《モネさん、ありがとうございます!》

《いーのいーの。アクターは助け合いでしょ? なんてね♪ ……でもこの状況は流石に二人だけじゃキツすぎかもね……》


 状況は芳しくない。それはアクター自身もとっくの昔に理解は出来ていた。

 このまま作戦遂行に支障が出れば、出現したエターナルによる文字化が始まってしまう。


 バーグの見立てでは、エターナルが自ら現れる時はすでに文字化させる分のエネルギーを貯め込んだ状態にあるという。なので、なるべく早い内に奴を虚空の中から引きずり出し、撃破せねばならない。



 それが阻害されている今、ただ相手の準備が出来るのを待つしかない。それだけは何としても避けなければならなかった。

 だが、勿論予想外の展開が起きた際の対処まで用意していないわけがない。鞠華はノベライザーに通信を入れる。


《……っ、バーグさん、聞こえてる? やっぱりそう上手くいきそうにないから、救援をお願い!》


『やはり作戦通りにはいかないみたいですね。状況は確認しています。雑魚敵のドレスと大将の“ブラック・ローゼン”の出現は匠さんに任せてください。行けますか?』


《問題ない。今、そちらへ向かう》


 救援の要請を入れるとすぐさま反応。この状況を打破するために、匠が操るゼスティニーが送られる。

 そして──ものの数十秒を経て、幾数にも及ぶらがどこからともなく出現。それらによる圧倒的物量の砲撃にアウタードレスは一掃されてしまう。


《す、すごい……! あれだけあったドレスが一気に……》


《ああ、これが我が機体“コマンド・ゼスティニー”の固有能力ドレススキル“コンバットタンク”の力だ。我が軍勢の前に仮初めの力を与えられたドレスなど塵に等しい。この力の前に葬り去られよ!》


 不意に割り込む匠の声。彼のドレスによる殲滅力は本物で、鞠華らを苦しめた無数のドレスは一気に片付けられていく。

 今は味方とはいえ、アーマード・ドレスの六号機とそのドレスの性能に圧倒される。敵同士に戻った時のことを考えると、この逆転劇は微妙に嬉しくない。


 しかし──その進軍は途中で停滞を余儀なくされる。理由は言わずもがな。

 空から無数の稲妻の矢が降り注がれる。それは戦車コンバットタンクやアーマード・ドレスはおろかアウタードレスまでもを巻き込み、ゼスティニー並の殲滅力を見せつけた。


 大河のドレス“ブラック・ローゼン”のアウタードレス。かつての仲間が着ていたドレスは、あからさまな敵意を匠へと向けていた。


《……っ! あのドレスは敵に回すと厄介だな。逆佐鞠華、星奈林百音。ここは任された。お前たちは作戦通り歪みから目標を引きずり出すことに集中しろ》

《でも一人でやるの!? いくら戦車で倒せるからってあの量のドレスに加えて大河のドレスまで相手にするのは分が悪いよ!》

《聞き分けの悪い男も私は嫌いだよ。そもそもお前と私は敵同士だ。仮にやられたところでオズ・ワールドにとっては都合も良いだろう? ……さっさと行くがいい。私の気が変わる前にッ!》


 ゼスティニーは軍刀を抜くと、空に浮かぶ“ブラック・ローゼン”へ攻撃を仕掛けにいく。

 さらに再度召喚された“コンバットタンク”。それと同等の性能を持つ戦闘機の形をした“コンバットファイター”までもを呼び出し、雑魚のドレスを駆逐していく。


 敵に背中を押された鞠華は、その意味を理解しないほど愚かではない。意を決して振り返り、ゼスモーネと共に歪みへと向かう。

 すでに歪みから敵は出ていない。守護者たる“ブラック・ローゼン”もゼスティニーの相手でここにはいない。今がチャンス。


《モネさん。ボクが腕を突っ込んで奴を捕まえます。もし引きずり込まれそうになったらお願いします!》

《オッケー☆ 補助は任されたっ!》


 予定にはないが削られた時間を省みるともはや猶予はない。覚悟を決め、ゼスマリカは危険を承知で歪みの中にその腕を突っ込ませた。

 その中で腕を大きく回し、まるで釣りのように獲物をおびき寄せる。


《ほォ~ら、お前の大好きなヴォイドの塊で出来た服が中の人ごとここにいるぞ! 早く来い……ッ!》


 聞こえているかはともかく、挑発を口にしながら闇の中をかき回す。

 すると──その手に違和感。その直後にゼスマリカの機体の上半身が一気に顕現兆候アドベントシグナルの中に引きずり込まれてしまった。


《き、来たッ! モネさん!》

《あいよー! 大間のエターナル一本釣りじゃあああああああい!》


 待機していたゼスモーネ。餌役ゼスマリカの両脚を掴み、全出力を以て引っ張り出す。

 機体の関節が悲鳴を上げても気にしない。とにかく全力で力一杯に引いていく。そして──


《おん……どぉぉりゃあああああッッ!》



 ────キャアアアアァァァァァァァ……!!



《つ、釣れたッ……!》


 百音の全力を尽くした引っ張りは見事に目標の出現につなげた。

 甲高い悲鳴のような鳴き声を上げ、餌役を勤めたゼスマリカごと東京の空を駆け巡る。

 第一段階は何とか成功。エネルギーが貯まりきる前に叩き出すことが出来た。


 しかし今度は鞠華が危うい状況に陥る。エターナルに捕まり、このままでは爆発攻撃の餌食となってしまう状況下におかれてしまった。

 が、そこに現れる二つの巨影。それぞれが青と白のパーソナルカラーをした二機がエターナルの前に立ちはだかる。


《まりかを──!》

《離しやがれぇッ!》



 ──キャアアアアアッッ!!



 刹那──繰り出される二重の斬撃。刀と鋭爪による強烈な一撃はエターナルの先端を狙い振り下ろされる。

 ヴォイドを使った攻撃は効きにくいが、それ以外の攻撃は通じる──バーグがそう結論付けていた通り、ただの強攻撃は効いたようだ。


 くわえていたゼスマリカを離し、地面へと落下。初めて明確なダメージを与えることに成功する。


《大丈夫か、鞠華?》

《うん、大丈夫。紫苑もありがとう。助かったよ》

《えへへ。あとは休んでていいよ。ここからはぼくたちの出番だから》


 助けてもらった礼を言うと、そのままゼスランマとゼスシオンは第二段階の作戦へ移行。

 すでにエターナルは体勢を整え空を移動中だ。そのまま攻撃を続けながらゼスタイガの下へと誘導する。


《俺に着いて来いよ白いの。遅れんなよっ!》

《ふふふ、そっちこそぼくに着いてこれるかな?》


 お互いに挑発混じりの健闘を交わし、エターナルの後を追う。作戦の成功は、もう目の前だ。











『……良い感じです。多少のハプニングはありましたが、全員のおかげで何とかなりそうです』

「本体はそう強いっていうか、耐久は特別高いわけじゃないんでしょ? それじゃあ捕まえたら──」

『はい。メディキュリオスフォームの剣で細かく裁断してやりましょう』


 バーグたちは戦況を見ながら出番が来るのを待っていた。

 ノベライザーと“カンゴク・ゼスタイガ”によって造られた対エターナル用の捕獲装置。そこでゼスシオンとゼスランマが獲物を誘導してくる様を見守っている。


 だが、それだけではエターナルを倒すことは出来ない。

 大量に供給されるヴォイドを止めなければ捕獲に成功しても、文字化爆弾となって強行突破される可能性があるからだ。それの対抗策の準備が整うのを待っている。


《──バーグさん、カタリくん。例の作業、完了しました》


『ナイスタイミングです。ではカタリさん、私たちは支社に向かいましょう』

「うん。大河さん、僕らがいない間に来たら、その時はお願いします」


《……分かってるっつーの。さっさと行きなさいよ》


 レベッカからの通信。どうやら例の作業は完了した模様。

 そうと分かれば早速目的地へと向かう。カメラが回らないと気分の悪さを隠さない大河に装置の起動役を任せると、ノベライザーはこの場を離れる。


 向かうはオズ・ワールド支社。そこの私有地に建てられた仮設の建物だ。




「……来たネ。バーグくん、カタリくん。例の被害者総人数132人の収容が完了した。それにしてもだが──本当にこれが奴の弱体化に繋がるのかネ? 今更ながらに疑問に思うのも変ではあるのだが……」


 到着するとウィルフリッドがレベッカと共に出迎えてくれていた。そこを目印にノベライザーはゆっくりと着陸する。


 一応支社周辺も避難区域に指定しているものの、LSBとして放送されている以上はここにいなければならない。社員全ての命もこの戦いにかかっているのだ。


 そんな支社長だが、この作戦を目の前にして、戸惑いを隠せずにいた。

 それも当然で、説明通り仮設の建物の中にはエターナルによる追い剥ぎ被害者が集められている。いくら作戦のためとはいえ、エターナルの影響で弱っている人々を危険区域に留めるのはどうかと考えてしまう。カタリとてそれを考えなかったわけではない。


『心配はご無用です。アウタードレスは媒介者ベクターを通してヴォイドを供給するのなら、解決策はただ一つ。その元栓を閉じればいい、そうでしょう?』


「それはそうだが……、決して少ないとは言えない人数なのだヨ? そんな大量の媒介者ベクターを別の世界に送ることで供給を止められるのかネ?」


『はい。一つ一つ蛇口を閉めに行くより、貯水場から直接繋がるパイプを取っ払った方が手っ取り早いです。今からそれをするだけなので問題ありません』


 これからやろうとしていることは、被害者全員をこの世界とはまた別の空間──裏世界に移動させ、エターナルの影響を無効化、そしてヴォイド供給を遮断するのだ。

 バーグ曰くでは世界に必ず存在する裏世界という空間は、基本的に外部からの影響を受けることはないのだそう。


 勿論ノベライザーなどの例外もあるが、通常エターナルに裏世界へ干渉する能力はない。故に媒介者ベクターを移動させると供給が閉ざされるのだという。


『エターナルの撃破後、被害者らには元の世界へ送り戻しますのでご安心を。ではカタリさん、トリさん。お願いします!』

「この建物だよね。百人以上も同時に送るのは初めてなんだど……」


 今までは自身を含め一人か二人程度の頁移行スイッチしかしてこなかったため、初めての大人数の移動に緊張するカタリ。

 そして能力を起動。ノベライザー、そして仮設の建物は一瞬にして消え去り、会社の土地だけとなる。


 すると元いた場所にノベライザーが再出現。無事に裏世界へ建物を送り届けることに成功した。


『これでよし、と。では私たちは戻ります。支社長さんやレベッカさんも二次被害にはお気をつけて!』

「行こう、バーグさん。皆が待ってる! 絶対に世界を終わらせやしないっ!」


「ああ、行きたまえ。我々も映像越しに君たちの活躍を見ている。改めて健闘を祈っているヨ!」


 大事なミッションを終え、ノベライザーは戦場へと復帰する。それを見送るオズ社員たちは、その行く末を見守っていた。


「世界の終わり……か。カタリくんやマリカくんらはやってくれますかね……?」

「やってくれるハズだヨ。故にワタシたちに出来ることは、それを信じることだけだ。そうだろう」


 数十キロ離れた先の戦場。その上空に浮かぶのは黒い顕現兆候アドベントシグナルだけでなく、“ブラック・ローゼン”による固有能力ドレススキルで生じた分厚い雲が支配している。

 この先に待つ未来は破滅か存続か。多くの人々はそれを知らずに注目している最終決戦。


 クライマックスは──近い。











 時は僅かに遡り──ゼスタイガ。

 ノベライザーが裏の作戦のために移動をした矢先のこと。


 大河は作戦の概要を復習しながらエターナルの誘導を静かに待っていた。動画映えしないとは分かっていても、内心気になり続けている気分の悪さを少しでも抑えるために言葉をなるべく発さない。


 少し遠くを見やると二機のドレスが黒い繊維束のような化け物を攻撃しながら気を引きつけつつ、こちらへと向かってくる。

 作戦は順調といったところ。もう間もなくそれらはやってくる。


《……ッ! タイガ、準備はいいっ!?》

《また気分悪いとか抜かすんじゃねぇぞ! 大トリはお前何だからな!》


 あの二機から通信。紫苑も嵐馬もだいぶ消耗していることが声で分かる。

 ノベライザーはまだ帰ってこない。だが、それは想定内。

 何故ならこの罠はゼスタイガの起動によって発動するため、居なくても閉じこめている間に来てくれれば問題ないからだ。


《──さぁ、そのアホ面さらして見てなさいマリカス、そして可愛いアタシの下僕ども! アタシの新しいドレス“カンゴク・ロック”でそのココロも身体カラダも縛り上げてヤるわ!》


 大河とてウィーチューバー。カメラがこちらに向けば気怠げ状態から本番モードへスイッチが入る。

 一瞬にして†ぶらっくタイガー★ちゃんねる†の主の姿となり、向かい来るエターナルを拘束するための技を発動する。



《“裂キ捕ラエル黒薔薇ノ大蔓フリーエンウンメークリヒ・ファーベルゲン”──……づぅッ!?》



 しかし──発動の瞬間、大河の心臓はドクンと大きく脈打つ。

 同時に身体の内側から何かを感じる。これまでの体調不良による気持ち悪さとは別物の、形容し難い不快感。


 痛みさえ覚えるそれに、ゼスタイガの技は不発。そのまま前のめりになって倒れてしまう。



《あ……がッ……》



 機体から“カンゴク・ロック”は弾け、霧散した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る