休暇の思い出 ②

 それから数日後。

 ツカサはある返済の催促のために街の裏通り沿いに向かうことになった。


「いやー今日は素直なお客さんで助かったなぁ!」


 ツカサは上機嫌で裏通りを後にしようとしていた。

 いくつかの通りを抜けた時、いつもは全く人のいない裏通りで人混みができていた。


「……なんだろ?」


 ツカサは足を止めて首を傾げた。


「こんな若いのになぁ……」

「指が……なって……」

「一体誰が……」


 ツカサが人混みに近づくと、人々は近くの人同士で会話していた。


「すいません。通してください。何が……」


 人混みをかき分け前に進むと、何が大きな麻布から人の足がチラリと見えた気がした。

 その色が褐色だったことで、ツカサの額から汗が噴き出した。


「まさか……まさかそんな……」


 ツカサは人混みから飛び出して麻布の前に立った。


「あんた何するつもりだい、衛兵が来るまで触んない方が……」

「……知り合いかもしれないんです」


 ツカサはしゃがみ込み、どうか違ってくれと願いながら麻布をめくった。

 そこにはボサボサの輝きを失った銀髪。

 顔はあらゆる場所が殴られたのか肥大し、まぶたの上も肥大していたため、白目は充血し、淀んだ黄色の瞳である事を確認するのも困難を極めた。

 そして彼女の衣服は何か所も破られ、開かれており恥部を隠すことができなくなっていた。

 身体中もあざの跡があり、その暴力の凄まじさを物語っていた。

 そして何より彼女の右手のひらから先、そこには指がなかった。


「……なんで……誰がこんな事を」


 ツカサはこんな無残な殺され方をした知り合いを初めて見たため衝撃を隠すことができなかった。

 そして遅れて犯人への憎しみが湧いてきた。


「誰か!犯人を目撃された方はいませんか!?」

「そんな奴がいたらとっくに通報してるよ……」


 ツカサの質問に人混みの一人が答えた。


「なら……見るしかないか……」


 ツカサの右目が金色に変わる。

 そしてポッピの記憶を探り始めた。





 ここはポッピの死の直前。

 景色は暗く、どうやら夜のようだった。

 そこでツカサに渡された竜の鱗の名刺を見つめるポッピ。


「はぁ……でも確かにスリを続けても家族を養い切れないし……私じゃどこでも働かせてもらえないだろうし……」


 ポッピの思考は少しづつ竜の鱗で働く方向に傾きつつあった。


「明日になったら、行ってみようかな」

「がははは!こりゃしばらく金にゃこまんねぇや!」


 ポッピがそう呟いた横で、酒に酔った体格のいい男が叫びながら通り過ぎる。

 その発言からポッピは男が金を大量にもっていることを確信した。


「よし……これで最後にしよう」


 最後のスリと決意したポッピが男の後方からぶつかった。


「んあ?」

「ごめんなさい」


 男がぶつかられた事に意識を向けている隙に、ポッピは男の財布を盗んだ。


「なにすんだよこのクソガキがっ!」

「きゃあっ!」


 しかしポッピにとって誤算だったのは男が酒を飲んでるとはいえ軽くぶつかられた程度で逆上するほど短気だった事である。

 財布を懐に収め、通り過ぎようとしたポッピの肩を掴んで、男は彼女を壁に押し付けた。


「てめえ!俺様にぶつかっといてごめんなさいで済むわきゃねぇだろ!」

「かはっ!!」


 ポッピは肩を掴まれ逃げられないようにされた所に腹部を殴打された衝撃で意識を失いかけた。


「なんだ……お前女だったのか。げへへ……少しものたりねぇけど遊ばせてもらうか」


 ポッピが意識を失っている隙にボロボロの服を破いて弄り始めた男。


「……な、なにして……あ、や、やだ。やめて!許して!」


 朧げながらに意識を取り戻したポッピ。

 自分がなにをされようとしているのか自覚したので男から離れようとする。

 しかし、両脚の間に割り込み、腰を押さえつけた男の手から逃れることはできなかった。


「あ!あぎっ!あがっ!あっ!」


 男が動くたびにポッピの顔が苦痛に歪んだ。

 口元を押さえつけられたポッピは大声を出すこともできず、僅かに声を上げることしかできなかった。


「あーいいじゃねぇかクソガキぃ!あとで金ならくれてやるからよぉ!最後まで楽しませろやぁ」

「あ……あっ……かはっ……」


 ポッピは涙を流しながらひたすら苦痛と気持ち悪さに耐えるしかなかった。




「はぁ……まあそこらの娼婦に比べりゃイマイチだったが悪くなかったぜ……はぁ……さ、金を……あれ?」


 男は財布を探したが見つけることができなかった。

 そして汚され、震えていたポッピの方を見つめた。


「おめぇあのぶつかった時に財布を……く、くっそがぁあああああ!!」


 全てを理解した男はポッピに馬乗りになった。


「がはっ!あがっ!がへっ!」


 一切の抵抗を見せないポッピの顔面を何度も殴りつけた。


「このっ!このガキっ!殺すっ!ぶっ殺すっ!」

「ぎっ!いぎゃっ!がへっ!へぎゅ!」


 男は立ち上がりポッピの全身を何度も蹴り飛ばした。


「はぁ、はぁ!そうだ!その指が悪いんだよなぁ!げへへ!」

「!!」


 男はナイフを取り出した。

 何度も立ち上がろうとして折れた手足をばたつかせるポッピに男はゆっくり近づいた。

 そして彼女の指にナイフを突き立てた。


「ぁあああああ!!」

「ほらほらぁ!まだ四本も残ってるぞぉ?我慢しろよ!」


 男はポッピの口に猿ぐつわを付けて声を出せないようにしたあと、ゆっくりと残りの指を切り取った。


「ひゅー……ひゅー……」


 ポッピの顔は真っ青になっていた。


「そんじゃ最後に……」

「……ひゅ!ひぎゅ!」


 男はポッピに再び馬乗りになるとポッピの首を掴みゆっくりと力を入れていった。

 猿ぐつわの口元からかすれるような息を吐くポッピ。


「げへへ……このまま死ねぇ……」

「ひゅ……ひ……」


 ポッピは手足をばたつかせ抵抗したが、だんだんそれもなくなり、一切動かなくなった。


「っはぁ!……財布は……ここか……」


 男は首を絞め終えるとポッピの懐から財布を取り出し街の中に消えていった。












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