新人と足手まとい

 一方は返済をしてもらえない新人。

 一方は組織の利益にならない形で返済を完了する足手まとい。

 二人が一つの仕事をした時どうなるか。


「ツカサ!お前ほとんど金銭回収できてねぇじゃねぇか!能力回収はお前の利益でしかねぇし!」

「そんなぁ!俺の能力でしかできない返済もあるじゃないですか!」

「とはいえ通常回収できねぇって足手まといにも程があるぞ!」


 ここはスケイルの部屋。

 呼び出しをくらったツカサはスケイルに説教されていた。


「おおっと!お待たせしたっす!」

「?」

「おせぇぞ五分遅刻だ!」

「も!申し訳ないっすぅ!」


 急にドアが開き事務服の上からでもわかる肉付きの良さ、少し癖のある栗色のショートヘアに栗色の瞳をした女性が飛び入ってきた。

 女性はスケイルに遅刻を咎められている。


「まあいい……今回はお前ら二人組で借金の取り立てをしてもらう!」

「え?」

「っす?」

「ツカサは能力の使用を禁止する!」

「えぇ!?」

「トリス!」

「は!はひっ!?」

「お前はどんな手段を使っても返済させろ!」

「り、了解っす!」

「今回の取り立て対象だが……博打のやりすぎで返済が滞ってる、まあ典型的な債務者なんだがこいつが逃げ上手でな……よその金貸しではお手上げだとうちに依頼が来た」


 ツカサと女性ことトリスはスケイルに説明を受けた。


「もうよその借金はうちが預かっちまってる。いいか?絶対取り返せ!」

「「はい!!」」


 二人はスケイルの部屋から出て行った。






「とりあえずトリスさん?は取り立て初めてな訳ではないんでしょ?」

「ああトリスでいいっすよ。多分年も近いし!確かに取り立ては初めてではないんすけど……どうもダメで……」

「なんで?」

「すぐ負債者に同情しちゃって返済期限を先延ばしにしては逃げられるって感じっす……」


 ツカサとトリスは会話しながら歩く。

 自身の過去を語り肩を落とすトリス。


「俺は……まあ似たようなもんかな。金は取り返せてないな……お、ここか」

「そうっすね」


 ツカサ達は街の裏路地にある少し古びた家にたどり着いた。


「すいませーん!竜の鱗っすー!取り立てにきたっすよー!」

「馬鹿!正直に言ったら……」


 トリスが家の扉をノックして名乗るとツカサが注意した。

 その直後家の裏側から物音がした。


「!!あいつ家の裏から逃げるつもりか!」

「なんですって!?追いかけなきゃ!」


 ツカサとトリスは大急ぎで家の裏に回った。

 すると向かいの通路を逃げていく人影が見えた。


「ちょっと追っかけてくるっす!ツカサさんは後から来てください!」

「は?何言って……」


 トリスはツカサにそう言い終えると凄まじい速度で駆け出していき人影を追いかけて行った。


「はっ!?速え!!じゃねぇ俺も……って能力禁止か!」


 ツカサも追いかけようとするが能力禁止だったので普通の速さで走って追いかけた。

 しばらく走っていると何やら話し声が聞こえたので、ツカサは通路を抜けて確かめようとした。


「そうなんすねぇ……」

「そうなんだよ大変でよぉ……だから待ってくれねぇか!?」

「でもなぁ……」


 そこには拝み倒す中年男と頭をかきながら悩むトリスがいた。


「はぁ……はぁ……トリス!早く捕まえろ!また逃げられるぞ!」

「大丈夫ですってこの人金を借りた大変な理由があって……」

「そんなの嘘に決まってるだろうが!」


 肩で息をするツカサと嘘八百を信じ込むトリス。


「じゃ……じゃあ俺はこれで……」

「また逃げようとしてるぞ!トリス!」

「はいっす!待ってくださいっすー!」

「は!離せぇ!」


 再び逃げようとした男をツカサの指示で捕まえたトリス。


「嫌だぁ!鉱山労働なんかしたくねぇ!」

「おおっ!暴れないでくださいっす!」

「なんだぁ?うちのシマで随分楽しそうな事してんじゃねぇか竜の鱗さんよぉ?」


 暴れる男を抑えるトリス。

 するとその声を聞いたのか裏路地のならず者達が集まってきた。

 ツカサを睨んでいたり薄ら笑いを浮かべながらトリスの生脚を見ていた。


「あんたらは関係ないでしょう。さっさと散ったほうが身のためですよ」

「おーおー随分偉そうじゃねぇかガキ!こっちは十人以上いるんだぞ!」

「取り立てに関係ないなら能力使ってもいいよな?」


 ツカサは脅してみたがならず者達は完全に調子に乗っていた。


「トリス!しばらくそいつを押さえつけといてくれ!」

「は!はいっす!」

「こっちも能力使えなくてイライラしてたんだ。発散させてもらうぞ!」


 ツカサは能力で奪ったスキルとステータスで自身を強化した。


「お前ら行くぞぉ!」

「「うおぉおお!!」」

「せりゃあ!」


 ツカサは真正面にいた男を死なない程度の力で殴り飛ばした。

 男は明後日の方向へ吹き飛び地面に体を打ち付け転げて行った。

 さらに自分の後ろにいた男を蹴り飛ばした。


「や!やめるっす!離せっす!」


 一部の男はトリスに襲いかかっていたので、ツカサは眼前の敵を殴り飛ばしながらトリスを襲っていた奴らを蹴り飛ばした。


「おおっ!す!すごいっす!」

「大丈夫か?」


 それを見ていた残りの集団は蜘蛛の子を散らすように逃げ出して行った。


「さ、帰りますか」

「ありがとうっす!襲われた時はどうなるかと思ったっすよ……」

「いいっていいって。それより凄い脚力だな。あっという間に追いついた時は感心したよ」

「自分足の速さには自信あるっすよ!それ以外はからっきしっすけどね!」


 ツカサ達は裏路地から竜の鱗の屋敷に帰っていった。






「お前らやればできるじゃねぇか!しばらくコンビ組むか?」

「やめときます。俺の取り立てには危険なことも多いし守れる自信がありませんよ」

「じ、自分は組みたいっすけどそういうことなら仕方ないっすね……」

「ん?そうか。まあ今日はもう遅いから早く寝ろ」

「「はい!」」


 ツカサとトリスはスケイルに認められた。

 特にツカサが伝えたいトリスの活躍にスケイルは満足しているようだった。


「ツカサさん?この後食堂いかないっすか?夕飯まだっすよね?」

「ツカサでいいよ。年も近いし。でしょ?」

「くふっ!そうっすね!じゃあ行くっすか!」

「もちろん!」


 スケイルの部屋を出て行ったあとトリスはツカサを夕食に誘った。

 これ以降トリスはツカサをよく食事に誘うようになった。

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