竜の目 前編

 人は孤独を感じた時なにをするだろうか。

 人がいるところに行く。

 友人に来てもらう。

 愛する人に……。


「すごいですよねーその『竜の目』ってやつ!なんでもお見通しなんですから!」


 ツカサが竜の鱗の屋敷にある自分の部屋でくつろいでたところ雑用係のミーファが甲高い声で彼に話しかける。

 彼女、まだ女性というには幼くもしたたかな彼女は、最近ツカサの竜の目にご執心だった。

 金髪ミドルに青眼の彼女を横目で見ながらツカサは話を続ける。


「あぁ、これは俺が始めて手に入れた能力だったか……俺が返済不可な相手のスキルやステータスを奪うことができるのは知ってるな?」

「はい!そもそもそんな能力がどうすれば手に入るのかを知りたいんですが?」


 ツカサの質問に机に飛び乗り顔を近づけながら答えるミーファ。

 彼女の眼には黒髪短髪の茶眼であるツカサが写っていた。


「それは俺にもよくわからないんだよ」

「またーそうやって秘密にするんだからー!」


 秘密を教えないツカサにミーファが頬を膨らましながら睨みつけるも、可愛らしさしか感じられないそれはツカサを笑顔にした。


「ははは!まあ能力の話はともかく……あれは俺がスケイルさんに部屋へ呼び出されたことから始まったんだそこには……」






 そこには触れれば滑り落ちそうな程滑らかな布地でできた礼服を着た金髪金眼の紳士が、対照的な実用性のある事務服に身を包んだスケイルと一緒にいた。

 ちなみにスケイルは大柄な赤髪赤眼の褐色男性である。


「おう、よく来たなツカサ。で?こいつでいいのか?」

「あぁ、彼だからこそだよスケイル君」


 ツカサが自室に来たことを確認したスケイルは改めて紳士に確認を取った。

 するとわずかな笑みを浮かべ紳士はツカサを見た。


「ど、どうもツカサって言います。まだ新入りですがよろしくお願いします」


 ツカサは紳士に軽く頭を下げた。


「私の名はスルート。よろしく頼む」


 紳士ことスルートは滑らかな布地でできた手袋を外し、握手を求めてきた。


「あ、はいどうも……!!」


 ツカサは握手をしようとした手をみて驚いた。

 スルートの手は白銀の鱗で覆われ黄金の爪が伸びていた。


「スケイルさん……このお方は!?」

「あぁ……自称エンシェントドラゴンのスルートさんだそうだ」

「エンシェントドラゴンっていうとなんだっけ……たしか竜の身体能力を持ちながら人知を超えた魔法を扱い数多の言語で話すことができるという……」

「そりゃ覚えてるよな。このために昨日教えてやったばっかなんだからよ」


 ツカサはスケイルに質問するとスルートの正体が明らかになった。

 エンシェントドラゴンについてツカサは教わったばかりだったので問題なく答えることができた。


「いかにも……そして今私が必要とするものを集められるのはここしか無いと聞いた」


 スルートは握手できなかったことを微塵も気にする様子はなく、手袋をはめ直し席に戻った。


「その……必要なものってのはなんなんでしょうか?」


 ツカサはスルートの正体を知ってから背筋が凍るような感覚を難度も感じていた。

 特に彼の人ならざる瞳と目があった時、全てを見透かされているような気がした。


「金銀財宝、それも私の住処を埋め尽くす程に」

「……は?」

「ツカサ。どうやらこの方、マジみたいだからなんとかしてくれ。うちには物を揃えることは出来ても担保になる物が無い」


 スルートの要望を聞きツカサは困惑し、スケイルは頭を抱えながらツカサに説明した。


「だからさっきから言っておるでは無いか。我が片目をくれてやると」

「……竜の目か……しかもエンシェントドラゴンの物となると国家レベルの財宝だ。今度はこちらが貰いすぎている。それだけの品物はこっちにゃ用意できねぇ」


 スルートは軽い口調で自身の片目を対価にすると言ったがスケイルがそれを了承しなかった。


「……そこの、たしかツカサだったか。彼なら我が力の片鱗のみを奪い去ることもできよう。どうだ?竜の目が欲しくは無いかツカサ?」

「そ、そんな急に言われても」


 ツカサは迷った。

 たしかに自分の能力なら過不足なく竜の目の力を支払い分だけ奪うことも出来る。

 しかしそれはいままでの人間から力を奪う程度の所業ではない、人外への一歩では無いかとツカサは感じていた。


「そもそも私が財宝を返せば返済の心配は無いのだから安心するといい」

「……わかりました。契約書を作ります!しばらくお待ちを」

「やってくれるか!流石ツカサ様々だぜ!」


 スルートの駄目押しに応じて借用契約を行う事を決意したツカサ。

 スケイルはツカサが引き受けてくれたので大喜びだった。







 スルートの住処はトアル国の外れにあるスルート山の山頂にあった。

 彼の自称も山の名からとったものだったのだろう。

 山そのものは険しくもなく登るのには苦労しなさそうな傾斜だった。

 しかし樹木はおろか草木一本生えないその山はやはり恐ろしいものをツカサや荷運び、それを守る戦士たち全員に感じさせた。

 彼等はモンスター一匹でない山を不審に思いつつも歩みを進めていった。






 山の奥地にはいつ建てられたとも知れない宮殿があった。

 門の前には白い礼服を着たスルートが立っていた。


「よく来てくれた。さあ、財宝を運び入れてもらおうか。

「はい!みなさん!配置の方はあっちの白い服を着た人に聞きながらお願いします!」

「「「「あいよ!!」」」」


 スルートの挨拶に元気な返事をしたツカサは荷運び、戦士、その他全員に指示を出した。







「その水瓶はそこに……そうそこ……ああ!鏡はもう少し上向きにしてくれ」


 数週間後、宮殿には金銀で出来た装飾品や武器、一般的に財宝と呼ばれるものがありとあらゆる場所で金色にきらめいていた。

 足元には金貨や銀貨が足の踏み場が見えないほど散りばめられていた。

 宝石は全てが巨大で手のひらに収まらないものも見えるだけで数多あった。


「いやーだいぶ散らかってますけど本当にこんな配置でいいんですか?」

「このほうがいい。このほうが自然だからな」

「それでこんなに財宝集めて何するつもりなんですか?」


 ツカサは今更になってこんな乱雑に財宝を置いてどうするつもりかを聞いてみたくなった。


「あぁそれはだな……」

「……!!」


 ツカサは今までで一番背筋に凍りつくような感覚をスルートから、その眼から感じてしまった。


「ここに人間をおびき寄せるエサにしようと思っている」


 スルートはツカサを竜の目で見つめながらニヤリと笑った。

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