異世界でも!借りたお金は返しましょう! 〜担保はスキルにステータス〜

ひろ。

我儘の対価

「すまん……お前から借りた金は酒と女、博打に使っちまった!」


 そこは質素な宿屋の一室。

 机の上には食い散らかした酒瓶や飯の痕跡、ベッドの乱れ具合からも昨夜はお楽しみでしたね状態だったことは明らかだ。

 頭を下げていた巨漢は心の中で、目の前の背丈なら自分の半分くらいの男が自身の発言を聞き、逆上して襲ってくるのを待っていた。

 そうすれば巨漢は身を守るという建前で相手の男を殴り殺す事が出来て借金をうやむやにできるからだ。


「うんうん……じゃあ今日中に金は返せないね」

「は?」


 男の軽い返事に思わず巨漢は顔を上げてしまった。

 彼の表情は笑顔で、手帳を取り出すと何かを書いているようだった。


「……はい。じゃあもう帰らせてもらうよ」

「ほ、本当にいいのか?返すものも返してないのに」


 しばらくして男は手帳を閉じると巨漢の部屋から出て行こうとした。

 巨漢は思わず確認を取ってしまった。


「もらうものはもらったから」


 男は巨漢に聞こえない程度の声でそう呟いた。

 巨漢の部屋の扉がゆっくりと閉じられていった。


「は……ははは……あいつもしかして俺様の腕っ節にビビってかえっちまったのか!?」


 扉が閉まってしばらくすると巨漢は笑ってしまった。

 自身の思惑通りならあの男はかなりの小心者だということになる。

 巨漢は椅子に座り込んで机の上にある酒瓶を探って酒が残ってないか調べた。

 中身のわずかに残っている酒瓶をみつけ、嬉々としてそれを飲もうとした巨漢。


「あ?なんかこれ重てぇな……んぐっ」


 酒瓶の重さに違和感を感じながらもそれを気にせず酒を飲んだ。


「あーつまんねぇ……誰か脅して金奪ってから女でも抱くかー」


 男は宿屋から出て行った。

 しばらく歩くといかにも遊んでそうな男二人が酔っ払っていたので、今夜はこいつらで良いやと巨漢は二人を脅すことにした。


「おうおう楽しそうだなお前ら。俺金ねぇんだよ。ちょっと恵んでくれや」

「は?何行ってんだあんたぁ!?」

「こっちは二人いるんだぞぉ!」

「は?俺様に向かって随分偉そうじゃねぇか!!」


 いつもなら自分を見ただけで怯えて金を工面してくれそうなやつらだったが、どうも酔いが回ってるのか反応が悪く、巨漢は逆上した。


「ざけんな!これでもくら……え?」


 巨漢は二人組のうち一人の胸ぐらを掴み殴りかかろうとして自身の腕を見て驚愕した。


「なんだやんのかぁ!」


 驚いてた巨漢は掴みかかった男に殴り飛ばされ、その衝撃に改めて驚いた。


「い、痛え……」

「このやろっ!」

「あっがっ!ひぎぃっ!」


 殴り飛ばされ地面に倒れてしまった巨漢に追い打ちをかける二人組。


「う、うわぁあああ!」

「まてこらぁ!」

「逃げんなぁ!」


 巨漢はなんとか袋叩きを逃れて逃げ出した。


「はぁっ……はぁっ……何がどうなって……」


 その時巨漢の脳裏に踏み倒した金貸しの一言が浮かんだ。


『もらうものはもらったから』


 つぶやくような声で巨漢は気にしなかったが今にして思えばあの一言はおかしいと巨漢は感じた。


「あ、あいつが何かやったんだ!くそっ!」


 巨漢は金貸しの所へ向かった。





「おい!金貸し!」


 巨漢は金貸しの居る部屋のドアを勢いよく開けた。


「お前俺に何をした!?なんだこの身体!」

「契約書にも書いてたじゃないですか。返せない場合はその代わりになるものをいただくと」


 ほくそ笑む金貸しの前には筋肉質だった巨漢の姿はどこにもなく、やせ細った男がそこにいた。


「いただいたんですよ。あなたの『筋力』を。あなた今まで多くの金貸しから金を借りてはその腕っぷしで踏み倒してきたそうですね」


 革張りの椅子にゆったりと座る金貸しは手帳から多くの借用書を取り出し机の上に広げた。


「それがどうした!お前にはちょっと借りただけじゃねぇか!」

「全てうちで預かることにしたんです。あなたの代わりに他の業者の借金は我々が返して、改めて我々が返済要求する事に」

「……は?」

「そして返済不可とわかりましたので代わりにあなたの『筋力』を返済分だけ頂きました。どうやら一般人以下になってしまったようですが」

「ふっ……ふざけんなぁ!!」


 ほくそ笑む金貸しに怒りを隠せなくなった元巨漢は我を忘れて金貸しに襲いかかろうとした。

 しかし元巨漢は逆に金貸しの片手に胸ぐらを掴まれ、全身を軽く持ち上げられた。


「なっ!?お、お前のどこにそんな力が」

「あなたの力ですよ」


 金貸しは軽く元巨漢を放り投げると説明を続けた。


「このままここに居るようなら俺が追い出さないといけないんですがね」

「ヒッ!」


 元巨漢を睨みつけた金貸しの目は人間の目をしておらず、命の危機を元巨漢に感じさせた。


「ひぇええええ!!」


 元巨漢は金貸しの部屋から全力で駆け出していった。


「ふぅ……あ、いらっしゃい。いくらを希望ですか?」


 新たな客が金貸しの前に現れた。

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