第23話 糸を張らない蜘蛛は地獄に落ちたあたいを救えるの?

 ちわっす、あたいだよ。


 あたいは、ご存知のような性格だから、あたいに敵対する者や、エチケット・マナーを守らない人間には冷淡だよ。殺せと言われればためらいもなく殺せちゃうかも。

 でも、赤ちゃんやヨボヨボのお年寄り、いっしょくたんにして悪いけど、虫や動物には優しいよ。もちろんさあ、蚊とかゴキブリ、ゲジゲジの類、毒持ったやつ、あとネズミはダメ。幕張のあいつすらイヤ。


 前に、知り合いが親戚の畑を借りて「あんた、ヒマだろ? 手伝えよ」って無理やり連れ出されたら、たぶん、ゲジゲジの類に足首あたりを刺されて、痛いし跡が残るしでたいへん。ずいぶんと経っても跡が全然消えなかったよ。関係ないけど、その畑ってひどい土地で、普通の畑の土ってサラサラ、ふんわりしてるでしょ。でも、そこは「もしかして、舗装されてる?」ってくらい固いのよ。さらに木で出来た鍬って重すぎて、蒲柳の質のあたいには持ち上げられない。知り合いも力がないから、全然、耕せなかったの。そうしたら、道具小屋に一本だけ軽いアルミ製の鍬があったのよ。もう、取り合いの喧嘩さ。

 そんなあるとき、何気なく小屋の前に置かれていた発泡スチロールを持ち上げたら、あたいは絶句したわ。なんと、アリの巣になってたの。あたいもびっくりしたけど、もっと泡を食ったのはアリたちで、そこにはアリの卵がびっしり並んでいたんだけど、アリたちは総員集合で下の方に卵を移動させたの。すごいチームワーク。あたいは感動して、見入っちゃった。生命の神秘ね。知り合いがそれを見たら、多分卒倒したはず。


 なんか、ウチにいつの間にか、ちょっと大きめなクモが住みついたみたいなの。あたいは昔から「クモは家を守ってくれるから殺さない方がいい」って思ってるので(誰に聞いたかは覚えてないのよね)、放置してたの。まあ、これがセアカゴケグモやタランチュラだったら瞬殺して、保健所呼ぶけど。そういう感じじゃない。なんか、色は薄いし、か細い感じ。だいたい、糸を張ったりしないで、じっとしてたり、ささっとどこかに行っちゃうの。

 そいつが昨日、浴室の床にいたから、あたいは諭したの。「ねえ、あんたがここにいたいならいてもいいけど、ご飯食べられてるの? 生活は苦しくないの? もしそうなら、外に出してやるから言いな。でも、あたいとあんたは意思の疎通が出来ないから、言いたいことがあるなら、あたいの夢に出ておいで。おい、でも化けて出てくるなよ。そしたら殺す」ってね。

 でも、夢には出てこなかったわ。じゃあ、好きにしな。


 ほとんどの生物の赤ちゃんは可愛く見えるように出来てると思うの。あたいもちっこいの大好き。でも、捕食者にとっては可愛いじゃなくて美味しそうに見えるのよね。自然って残酷。毎週『ダーウィンが来た!』を観てるからさ、よくわかんの。

 はい、さようなら。

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