第7話 あたいは破滅型人間だよ

 ちわっす、あたいだよ。


 ねえ、聞いてよ。昨日さあ、ほぼ絶食したのに、さっき体重を測ったら五百グラムしか減ってないの。なんか意味ないね。今日は食べよっと。


 突然だけど、松永弾正久秀って戦国武将を知ってる? 世間的にはかなりの極悪人で、主家である三好家を乗っ取ったり、将軍足利義輝、剣豪将軍で有名な人ね、これを殺したり、戦さの途中で、成り行き上なんだけど、奈良の大仏を燃やしたりしているの。戦国三大悪人の筆頭格よ。あとの二人が誰かは知らないけど。


 その久秀も織田信長の勢いには勝てなくて、降伏した。誰もが切腹か斬首を命じられると思ったのよ。ところが信長はあっけなく許しちゃて、部下にしたの。もっとも大きな要因は、久秀が信長に秘蔵の茶器を贈ったからだと言われているけど、そんなもの強奪すればいいじゃない? ああ、この頃って異常なほどの茶道ブームで、有名な茶道具は国一つ分の価値があった。バカな話だけど、今だって、端から見れば、くだらないもんに大金が払われるじゃない。それと一緒。

 久秀が助かった本当の理由は有能で男前だったということ。ようは実力本位の信長好みだったってことよ。

 実際、信長の下で、久秀は結構な働きをしたのよ。だから誰もが、久秀は安泰だと思っていた。でもねえ……


 信長があるとき、結構な有名人(誰だったかは忘れたよ)に久秀を紹介したとき、こう言ったの。

「こいつは他の人間が出来ないような悪事を三つもしている。主家を乗っ取った。将軍を殺した。大仏を焼いた」

 信長としては、キツめのブラックジョークのつもりだったらしいんだけど、久秀は赤面して、顔があげられなかったらしい。


 で、城に帰った久秀は謀反を起こした。ああ、日本で一番最初の天守閣を城に造ったのは久秀よ。

 信長はびっくりして、絶対に許すから降参しろって何度も使者を送ったけれど、久秀は頑として、それを受け付けなかった。

 それで、信長も仕方がなく制圧軍を送ったのだけど、久秀は最終的に天守閣で火薬に火をつけて、ドカーンと爆死したんだ。


 なんで、あたいが松永弾正久秀のことを話したかというと、あたいも久秀も破滅型の人間だってことよ。人間には何事も穏やかに済ませられる人がいる一方、幸せを一気にぶち壊しちゃう人もいるってこと。他人から見れば、愚かに思えるでしょうが、あたいらからすれば、持って生まれた性質だから、どうしようもないのよ。

 ほら、あたいの場合、双極性障害だから上下の振り幅が大きいのは自明の理だけど、実は左右にも大きく揺れるのよ。よくいえば柔軟、悪くいえば変節者だね。極端なのさ。中間があんまりない。変な例だけど、あたい、結婚した人とはものすごく仲が悪かったの。喧嘩もしょっちゅうしてた。でもある朝、目覚めたら「今日はあの人と飲みに行かねばならない。絶対に」って思ったの。夢の続きでも何でもなく、起きた瞬間、脳に浮かんだんだ。天啓かね? で、その日のうちに告白して、結婚しちゃった。まあ十年後に離婚するけどね。


 ああ、破滅型の話とずれちゃた。あたいはねえ、仲がものすごくいい、友だち的な人と、なぜか絶対に大喧嘩して、最長一年近く、精神戦に入っちゃうのよ。これがほぼ百パーセントだから、すごいでしょ? 理由はね、たぶん無意識にあたいが相手を怒らせちゃうみたい。口が悪いからね。でもね、あたいはそうなっても全然平気なの。腕っ節の喧嘩は弱いけど、ジリジリ長期の精神戦に持ち込んだら、引き分け以下なんてあり得ない。泣いて許しを請われたこともあるわ。ただね、進退の重要な局面では意地っ張りが裏目に出て、まあ、この有様よ。つまり、破滅型人間だからこうなっちゃうのは必須の道だったのね。いまだって、心に核爆弾が仕込まれているわ。他人を巻き込んで、自爆するのよ、いつかはわからないけどね。だから、安全なとこまで走ってお逃げよ。

 はい、さようなら。

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