第5話 ダンジョンを攻略したい


 ダンジョンを造り出すことに成功し、思う存分に楽しんでやる。


「そんなふうに思っていた時代が俺にもありました……」


 アパートに戻ってきた田助はボロボロだった。


 理由は簡単である。


 ダンジョンを造り出したのはいいものの、そこに出現したモンスターにまったく歯が立たなかったのである。


 廃病院をダンジョンにしたからか、スケルトンとかソンビといったアンデッド系モンスターが多かった。


 何とかなると根拠もなくそう思い込んで、そこら辺に落ちていた棒きれを片手に挑んだが、ものの見事に返り討ちに。


 危うくHPがゼロになるところだった。


「ヤバい。俺のダンジョンライフがマジでヤバい」


 あと、家に帰ってきて落ち着いたことで冷静になることができた。


 廃病院ダンジョンからモンスターが溢れたら大騒ぎになるんじゃね?


 大至急、何とかする必要がある。


「要するに手っ取り早く俺のレベルを上げればいいわけだが……どうすればいいんだ?」


 異世界ストアに何かいいアイテムは売ってないか、探してみた。


「おお、これなんかよさげだな。経験値ポーション! 飲むだけでモンスターを倒すことなく経験値を得ることができる不思議なポーション、か」


 他にもいろいろと書いてあった。


 経験値ポーションのおかげで彼女ができましたとか。


 経験値ポーションのおかげで夜、妻がとても喜んでくれるようになりましたとか。


 経験値ポーションのおかげでお金持ちになりましたとか。


 何より気になったのは最後の一文だ。


「すべて個人の感想です――ってダメなやつじゃねえか!」


 元よりダンジョンコアを購入するために全財産を投入してしまったので、買うことはできないのだが。


「地道にモンスターを倒してあげるしかないんだろうけど……俺一人だときついよなぁ」


 田助はレベル1。ベビースライムを倒すのにもあれほどの苦労が必要だったのだ。


 現時点でスケルトンやらを倒せる日が来るとは、とてもではないが思えない。


 だが、とにかく手を打つ必要はある。


「どうすりゃいいんだ………………ん?」


 その時、異世界ストアを検索していた田助の目がとまった。


 奴隷のページだった。




「奴隷か……」


 WEB小説のおかげというのも何だが、田助に奴隷に対する忌避感はない。


 出てくる奴隷の少女たちがみんなかわいいからだ。


 で、実際、異世界ストアで売られている奴隷たちの中にはかわいい子もいた。


「奴隷を買って、パーティーを組むっていうのもありだよな……」


 むしろそうしない未来はないだろう。


 だが、一番安い奴隷でも100万円近くする。


 それだって身体欠損があったりして、回復系チートスキルを持たない田助が購入しても、何の役にも立たないだろう。


 なので、五体満足である程度戦うことができ、なおかつかわいい奴隷となると、金額が一気に跳ね上がって一億円近くになった。


「ぐっ、絶対に手が出ねえ……」


 だが、田助は欲しいと思った。


 そこに映っている――金髪の美女奴隷が。


 一目惚れだった。




 とりあえず金髪美女奴隷を手に入れるためには金がいる。


 一億円というのは途轍もない大金だ。


 ダンジョンコアを購入していなかったとしても手が出ない。


 だが、諦めるという選択肢は田助にはなかった。


 どうにかして金を作る。絶対に。


 そう覚悟を決めた時だった。


 部屋の外から、ドンッ!! という鈍い音が聞こえてきた。


「何だ?」


 部屋を出て、外を見てみれば、道に人が倒れていた。


 しかも赤い水たまりの中に。


 赤い水たまりはどう考えても血だった。


 さっきの鈍い音は人が車に轢かれる音だったのだろう。


「ああ、頼む……! 死なないでくれ……!」


 スマホを取り出し、通報しようとしたら、そんな声が聞こえてきた。


 田助の知っている声――このアパートのオーナーの声だった。

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