第26話 伝説は幻想

「ハハッ!成る程成る程ッ!つまりお主は、迷宮攻略に必須である浄化魔法の使い手をパーティーに加入させる事を忘れて、英雄譚などと淡い幻想を抱いてあろう事かダンジョンに挑んだ訳かっ!」


古の悪魔デビル•アースとの思わぬ邂逅に焦燥と緊迫感を感じていた数刻前。

それが今ではどうだろう。


なんとその大悪魔と俺は、テーブルを介してお茶会をしている。


順を追って説明するのも億劫なのだが……。

まぁ改めて理解させられた確固たる真実が一つある。


伝説とは所詮幻想に過ぎない・・・・・・・・・・・・・という事だ。


デビル•アースは、ハッキリ言って伝説のでの字も感じさせない程の阿呆であった。


昔々、古の大戦は、熾天使長ウリエルによって終戦を迎え、表面上終戦に帰した。


だが、それだけでは、各種族が長年募らせた憎悪と軋轢は解消はされない。

中でも、悪魔族を統括する最大勢力の【八雲】はその傾向が強く、悪魔族の絶対的指導者の【魔王】に戦争再開を訴えた。


悪魔族は他種族よりも残忍で残虐な気性があり、無論それを統括するリーダーは、まさしく悪魔族リーダーに値する程のザディスティックだと想像するだろう。


だが……ッ!



***



『え〜、やだよ戦争なんてめんどくさい』


魔王にあるまじき、怠慢発言をかましたそう。


【八雲】の面々、まさに寝耳に水であった事だろう。


彼等が敬愛する魔王は、デビル•アース曰く、鼻糞をほじりながらそう宣ったらしい。


『そもそもさ〜。戦争ってなんで始まったか分かる君ら?それがさ……聞いてくれよ。

この理由がマジで阿呆なんだわ〜。俺達異種族の王達って、実は結構仲良かったんだよね〜。ここだけの話さ、何度も秘密裏に遊んだのよ〜。……でもその際にさ、人族の王とオイラが……』


魔王は感慨深く、何故かニヒルに回想し始めた。


『おい待て魔王、その酒はオレのだ』


『おいおい何寝ぼけてんだよ人族の王。これは俺のだ。俺の方が近い位置に置かれてるからな』


『そんなもんただ近くに置かれてただけだろっ!いいから寄越せッ!』


『あぁ〜しまったぁッ!誤って俺の鼻糞が酒の中にぃッ!』


『貴様ぁッ!殺す!』


『貴方達、いい加減にしなさいな。折角のピクニックでしょう?』


『うるせぇぞ神!』


『そうだッ!これは許してはならん!こいつ絶対わざとだッ』


『言いがかりだッ!』

『お前笑ってただろうが!』


『そんな、下らない』


『あっ悪ぃ。お前の酒にも鼻糞入っちまった』


『あっ、俺も』


『死ねこのクソガキどもがぁッ!』


『テメェがなッ!』 


『んじゃあ、戦争起こすべッ!』


……そうして古の大戦は始まったらしい。


『『『『なんだそりゃあッ!』』』』

『だから、もう君達、勝手に好きな事してていいよ。どうせなら世界中回って遊んで来なよ。……まだ世界は美しいからね』



***



「すべてはこういう経緯だったのだ」

「「「舐めてんのかッ!?」」」


一同見事なシンクロを見せる。


「まぁ私も、争いを恋い焦がれる戦闘狂ではない。魔王からの言質も取った訳だし、この際豪遊しようと旅に出た。そこで、このダンジョンだ」

「いやここでダンジョンだとか言われても訳分からんが。何がどうなってこの状況になるんだ?」

「簡単な事だ。私も、こう見えて貴様と同じロマンチスト。偶然にも遭遇したダンジョンに運命を感じ、その勢いで突入してしまったのだ。しかし、悪魔族の中でも生粋の男前の我が浄化魔法を使える訳もなく…‥。だッ」

「だッ、じゃねえよッ!お前、仮にも【八雲】の一角が何阿呆晒してんだよッ!」


この悪魔も俺と同じ同類であった事には驚きだが、それよりも古の大戦の勃発の経緯が訳わからなさ過ぎで発狂しそうだ。


あの大戦で死んだ多くの人達は、よりにもよってこんな、子供の小競り合いみたいな阿呆な理由で死んだのか……。


「お前ら、杜撰すぎないか?」

「おい待て。何故我まで罵倒されねばならん」

「そんな阿呆でくそったれなリーダーに付き従ってた時点で大概なんだよッ!」

「我をあの阿呆共と一緒にするでないわ小僧ッ!我はな、悠久の時を生きる伝説の悪魔だ。貴様の心の内だって透けて見てるのだぞッ!」

「はッ!そんなハッタリ通じるとでも思ッ」

「……あぁヤベェ、そう言えば最近ぬいてな」

「マジで勘弁してくれッ!」


嘘だろ?なんでこいつ俺が考えてる事分かったんだ!?


……フィアナさん。これは違うんだ。

デビルの野郎が勝手に吹いてるだけだ。

なぁ?俺を信じてくれよ。

おい何故お前達までそんな目で見てくるんだ?


「流石に今考える事ではないわよあんた」

「ルクシオって案外馬鹿だよね〜」

「流石にあかんな」

「……」

「見事に人望のない小僧だ」

「この姑息な悪魔めッ」


伝説は所詮幻想……か。

にしても世の中は世知辛い。

ダンジョンで出会ったのはこんなロクでもないクソ悪魔だし、古の大戦の経緯は阿呆過ぎで呆れるしで、今日だけで、一体どれだけの夢と希望が潰えただろうか?


「よし、そろそろ帰るか」

「ん?もう行くのか?」

「あぁ、里を出て結構時間が経つからな。早く戻らないと」

「そうか……。これは提案なんだが」

「断る」

「まだ何も言っていないが!?」


そうして俺達は、なんとも遣る瀬無い思いを燻らせながら、里へと帰還したのだった。




***



「そう言えば、大戦の勃発の経緯。神と魔王と王の小競り合いとか言ってたけど、もしかしてネーレやレインは知ってたのか?」

「「……私は何も知らない」」

「お前ら伝説はロクでもないのしかいないのかっ!?」


いっそ世界は滅ぶべきだった……。

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