第17話 リアス大森林を探索しよう1

「フィアナ、ルミナ。俺、リアス大森林を探索したい」

「それはまた、急にどうしたのですか?」

「ほんと唐突ね」


まだ、太陽が完全に世界を照らさない、暁の時。

俺はフィアナやルミナに、そんな提案をしていた。


理由は簡単。


この伝説の森、探索しないとか馬鹿なのか!?


この理念の下による行為だった。


子供は、大部分の子供達は、御伽噺や伝説のお話、英雄譚に憧れを抱くだろう。

15歳となった現在、流石にその思いを暴露する事はできない。

誰もが、所詮それは御伽話だと、断じるから。

その年頃の、立派な子供が、未だその様な事を口走っていたら、周囲の方々から「あの子、大丈夫なのかしら?」「きっと大丈夫さ!まだ夢を見ているだけだ」「イタイ子だな」と有らぬ誤解を招く事請け合いだ。


だが、ならば。


それが御伽話ではなく、現実の話ならどうだろうか?


伝説のお話が現実なら、それを追い求める行為は、決して妄想ではなく、確固たる現実を求める行為になる。


まぁ要約すると、「伝説が伝説でなくなった場合、それを追い求める行為は他人から何も言われる事はない」

こうなる筈だ!


ならば、探索したい!

この、幼き日に抱いていた憧憬を、現実にしたい!


(概要:ルクシオ・クルーゼは、世間では言うところの、○二病予備軍である)


「頼む!流石に俺1人じゃリアス大森林を彷徨う事なんてできない。だから、土地勘のあって、更に戦力としても申し分ない2人に頼みたいんだッ!」


俺は誠心誠意、心からの土下座を敢行した。


「ちょッ、そこまでしなくても!」

「ルクシオ様、頭をお上げください!」

「頼む!俺の頼みを聞いてくれ!」


フィアナやルミナだって今は多忙の日々を送っている。

2人には、里に新たに設備した、畑や神樹の管理を任せている。

迷惑をかけている事は理解している。

でも、この気持ちだけはどうにも収まらない。


俺の深奥から、無尽蔵の欲求が疼くんだ!

(○二病は現在も侵攻中)


「どうする、フィアナ」

「どうしましょうか?」


フィアナとルミナは困り果て、互いに見つめ合った。


ここで一つカミングアウトすると、この2人はルクシオの願いなら例え何がなんでも遂行する所存だ。

例えば、ルクシオが「夜を共にしたい」と言ったら、二人は動揺しながらも、夜を共にするだろう。それ程に2人にとって、最も大切で、守りたい存在であるルクシオ。


そのルクシオが、あろう事か、このリアス大森林を探索したいと言い出したのだから、2人にとっても、「はいそうですか」と承諾はできかねない。


リアス大森林が危険で溢れている事を、この二人は良く知っているから。

ルクシオの強さを目の当たりにしたフィアナでも、流石に怖いのだ。


もし、今回の事で、ルクシオが、何が取り返しのつかない事態になってしまったら。

そう考えてしまう。

何よりも大切だから。


かと言って、「無理です」と断った場合、決心を諦めきれないルクシオが、今度は二人に相談なしに探索をしだすかもしれない。


それは最も避けたい。


ルミナも同様だった。


二人はそれぞれの顔を互いに見つめ合ってしばしば、意を決っしたらしく、ルクシオの方へと向き直って言った。


「あまり気が進みませんが、分かりました。行きますよ」

「まぁ、仕方ないわね」

「本当か二人とも!よしそうと決まれば行こう!すぐに行こう!」

「ちょっと待ってルクシオ様!まだ時間は早いです!里の皆にもまだ何も!」

「はぁ〜、本当に子供なんだから」


英雄の夢を見た少年のように、綺麗な碧の双眸を輝かせながら飛び出したルクシオを、必死に追おうとするフィアナ。

それを傍で、呆れるルミナ。


しかし、ルクシオの、そんな生き生きとした姿を見る事が、二人にとって、一抹の幸せでもあった。


***


「さて、探索とは言っても、何処にいくつもりですかルクシオ様?」

「気分次第です僕は」

「無駄にダンディズム刻みながら何を言ってるのよ」


リアス大森林。

あまりの規模、壮大さ。

何より、御伽噺や伝説に語られる、魅惑の森。


「でも実際、リアス大森林の地図はないだろ?探索なんだから、目的地は定めない。気の赴くままに行くさ」


伝説の森林を歩くだけでも、他の森と大差ない景色でも、僅かに高揚する。

これだけでも、満足だ。


「やっぱりルクシオ様は不思議ですね」

「違うわよフィアナ。不思議とかじゃないの。これはただの阿呆よ」

「それとなくディスるのやめません?」

「ディスりではないわ。事実を述べただけだもの」

「そこは、気を利かせて直接は言わないよう努めるところでは?」

「私にそんな教養はないわ」

「エルフなのに?15年しか生きてない人間の俺でもそのくらいの教養があるのに?……あの、ルミナさん?どうしました?なんで何も言わないんですか?あの、怖いので無言のままにじり寄ってこないで欲しいんですが……イテテテテテテテッ!折れる!折れる!」

「そこの二人、戯れあってないで歩いて下さい。魔獣に襲われても知りませんよ?」

「ちょっとフィアナさん!この事態を無視とか酷くないですか!」

「流石に今のは擁護できません」

「人でなし!」

「覚悟はいいかしら、ルクシオ!」


結論。


体を無闇に変な方向に曲げようとすると軋む音が聞こえる事が分かった……。

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