第7話ルクシオ・クルーゼという男の本気1

里一番、崩壊の危機迫るとされた家が完全修復された話は瞬く間に広がり、ルクシオの思惑通り、エルフ族の様々な課題の解決に駆り立てられた。


農業、鍛治、建築、修理に至るまで、ルクシオは里に貢献し続けた。


「おはようございますガルドさん!」

「おっきたか。おはようルクシオ。里の皆がお前の事を口々に褒めてだぞ?」

「そんな。俺は大した事してないですよ」


今日はガルドさんの家にやってきている。


ガルドさんは里一番の狩人で、リベア討伐作戦では中核を担う存在。


つまりは主力だ。


この三日間、里のあらゆる事業に貢献し続けたルクシオの腕前を知り、昨晩「自分の武器の修理を頼みたい」と直接依頼を受けたのだ。


「お前は本当に器が大きいな。フィアナが認めるのも納得だ」

「やめて下さいよ気恥ずかしい。それより依頼の事についてなんですが」


「おうそうだったな」と殊更言いながら、ガルドくらいの背丈に匹敵する大剣を見せてきた。


「これが、ガルドさんの相棒ですね」

「そうだ。名をグラディウス。結構な名剣だ」

「でしょうね。細かなところまで配慮された華奢なデザインに刀身の質感。そこらの剣とはまるで違う。でも……確かに少し痛んできてますね」

「ああそうなんだ。前回のリベアを退ける時に大分無茶してな。里の鍛冶屋にも頼もうかと思ったんだが、少々値がはるらしく、すっかり放置してた訳だ」

「成る程。……少し見せてもらってもいいですか?」

「構わんさ」


ガルドさんに許可を頂き、剣を確かめる。


両手にずっしりとした重さが加わり、思わず前屈みになる。


想定していたよりずっと痛んでるな。

これは刀身の部分丸ごとやった方が良さそうだ。


「……どうだルクシオ。出来そうか?」

「はい、問題ありません。今すぐやりますね」

「分かった、頼むぞ」


一旦家の外に出て、名剣グラディウスと対峙する。


剣の良し悪しは刀身で決まる。


どれだけ気勢良く、真になって鍛錬できるか。


とある英雄が「剣とは己の分身である、剣だけは人を裏切ってはならない」と言ったように、剣は人だ。


生半可な思いでは、質は格段に落ちる。


「……ふぅ〜」


肺に溜まる肺腑を吐き出し、心を清く保ち、剣と対話するイメージ。


右手の五指が刀身部分に撫でるように触れ、なぞる。


前回同様、ルクシオの右手は淡い青い光を放つ。


素材は希少なミスリル鉱石。


鉱石の鍛錬はそのままスキルで行い、完璧に刀身を再現する。


熱してまた鍛錬。


この反復が極めて重要。


「イメージ反復」


それから数時間、剣とルクシオは神々しい圧力の光に呑まれた。




***




ルクシオの剣の修復が始まり約2時間。


剣の修理の進捗度合いに気が気でなかったガルドが我慢できないといった様子で、そわそわとしながら外に姿を現した。


(剣はどうなったかな。ルクシオの目や手つきから、剣の事をそれなりに知っているようだったから心配はないと思うが。あれは名剣。そこら辺の剣とは訳が違う)


心配というのは勿論だが、それは建前で、実際は唯ルクシオの腕前に疑念を拭い切れていないからだった。


家の門を曲がろうとしたその時。


思わず目を瞑り体を仰け反るくらいの光が暴発したように辺りに広がった。


(なんだッ!これは……只事じゃないぞ!)


ルクシオと剣の身を案じ、光が止むとすぐにルクシオの元に向かう。


「ルクシオ!……はッ!?」

「ああ、ガルドさん。無事に修復、終了しましたよ」

「なッ、なッ……!」


思わず口調がスタッカートを刻み出すガルド。


やりきったと言わんばかりに清々しく笑みを称えるルクシオの足元には、目を疑うほど刀身が美しく生まれ変わった相棒が横たわっていた。


(なんだよ……その光沢)


それは、ガルドが名剣グラディウスを初めて見にした時より、数倍輝いて見えた。


装飾は一切変わっていない。


鈍だった剣が、燦然と光を輝かせている。


驚異のビフォーアフターだ。


「どうですか?これ……自分でも何が起きたかよく分からないないけど、結構上手く出来たと思うですが、どうでしょうか?」

「あッ、ああ。そうだな」


ガルドは俄かに高鳴る鼓動を抑えようとして

声を出したのだろう。


その筈が、返ってにべもない硬質な声になってしまった。


剣の出来栄えを喜んでもらえなかったと感じたルクシオは、露骨にうな垂れた。


「ダメ……でしたか?」

「はっ!いや違うんだ!そんなんじゃない。というかこの出来栄えの良さはなんだと、驚いてたんだ。決して、ダメ出しをしているんじゃないぞ……本当に何だその美しい刀身は?」

「さッ、さあ?俺も何がなんだか?」


どうやら彼も理解できないくらい、超常現象のようだ。


「剣、振って見ます?」


そう言いルクシオはおずおずと剣を両手で持ちガルドに渡した。


奇怪な物でも見るように全体を見た後、ガルドは剣を一振りする。


剣先が描いた軌跡は、輝いているように錯覚する。


「明らかに、切れ味が格段に上がってる。お前本当に何をしたんだ?」

「俺は、唯単に鍛錬と修復をしただけですが?」


首を傾げて言うルクシオ。


いや首を傾げたいのは俺だとガルドは言いたかった。


「まぁ、すげぇ剣に生まれ変わった!って事なんだろよ!ありがとなルクシオ!」

「いえいえ。お役に立てたならよかったですよ」


ルクシオは本当に普通にやったつもりだった。


だか、今の彼には知る由もなかった。


彼が、己のスキルの特性を真に理解していない事に。


そして……これから起こる事も。




カンカンカンカンカンカン!!


「この鐘は!?」

「魔獣の出現を知らせる鐘だ!」


緊急非常時にしか鳴らない鐘の音に二人とも困惑していると、直ぐに知らせが入った。


「ルクシオ様!大変です!」

「フィアナ?どうしたんだ?」


大分飛ばしてきたのだろう。


血相を変え息を切らしながらフィアナがルクシオの元にやってきた。


「何があったフィアナ、この鐘の音と何か関係が?」

「はぁはぁ、今……直ぐに、里の広場に武器を持って、集まってください」


フィアナは荒れた息を整えて、厳然といった。


「来週討伐予定だったリベアが、再び現れました!」

「「何!」」


まさかのリベアの奇襲。


事実を知った二人は、急いで里の広場に向かった。

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