第44話

 占い師は弓削の懊悩をよそにして脱衣カゴにすべてを脱ぎ置くと、何かを隠すように急いで浴室に姿を消した。

 弓削は煙草を揉み消すと、肚を括ったようにジャケットを脱ぎ、ポロシャツのボタンを外しズボンを脱ぐとトランクス一枚の姿になって、もう一度ソファーに腰掛けた。もし香織と一緒だったら、躊躇なく香織のあとを追って浴室に跳び込んで行ったに違いない。しかし、相手の違ったいま自分自身でどう振る舞っていいのか皆目見当がつかなかった。

 そんなことを考えているうちに浴室の扉が開いて占い師が出てきた。そして用意してあったベージュ色のバスタオルを素早く身に纏うと、

「あんたも早くシャワーを浴びてきたら?」

 占い師はほつれた髪を撫でつけながらカガミに映る自分に向かっていった。

 弓削はソファーから立ち上がって、いま浴室から出てきたばかりの占い師のすぐ横で下着を脱いで脱衣カゴに放り込むと、濡れた浴室の床を気にしながら浴室の扉を閉めた。

 ――簡単にシャワーで汗だけを流してベッドルームに戻ると、すでに部屋の灯りが調光されていて、目が慣れてないせいもあってかほとんど闇に近い状態だった。その中にあって占い師はひとりベッドで上向きになって弓削を待っていた。

瞬間に見たその姿はやけに色っぽく感じた。

 弓削は同じ色のバスタオルを腰に巻き、そろりとベッドの端に腰掛けた。首を廻して占い師を見ると、目を見開いて天井のある一点を凝視している。弓削はバスタオルを外して占い師の横にもぐり込んだ。どの切っ掛けで挑んだらいいものか悩んでいたとき、それを察したのか突然占い師が向き直って弓削の胸の辺りに手を伸ばしてきた。

 それが機会となって弓削が左腕を占い師の首の下に滑り込ませると、待っていたかのように占い師が両手を背中に廻してきた。薄暗い中で顔を見合わせたふたりが、好いた者同士というわけではなかったために自然に唇を重ねることができなかった。

 弓削は唇を合わせる代わりに首筋に唇を押し当て、軽く吸いながら鎖骨へと移して行く。弓削は右手をはじめての躰を確かめるように腋窩から脇腹へ、そして臀から太腿へと滑らせた。占い師がどんな表情をしているのか見てみたかったが、顔がすぐ横に貼りつくようにあるので覗うことができない。

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