第29話

 やがて注文した肉と野菜が次々にテーブルに搬ばれた。それを見て妻が友一に好物の肉を食べさせようと金網の上に肉を放射状に並べてゆく。弓削はビールのジョッキを片手にしながら友一の顔と金網の上で身悶えする肉とを交互に眺めていた。そして同時に友一との会話の糸口を手さぐりの状態で捜す。挙句やっと見つけたのが、「しっかり食べろよ」と、取ってつけたような言葉でしかなかった。

 その後も色々と話題を見つけようと努力をしたのだが、どうも頭の中が空廻りばかりして自分自身に対して腹立たしく思えた。やっとのことで捜し当てた話題を投げかけてみるのだが、変わらず返ってくる友一の返事はきわめて短いものでしかなかった。

 妻と肩を並べるようにして無心に焼肉を口に搬ぶ友一。ほどなくして胃袋に満足感が詰め込まれると、今度は母親と小声でぼそぼそと何やら話しをはじめる。烟を吸い込む音が邪魔をして弓削のところまでは聞こえてこない。

 無理に話の間に入り込むのもわざとらしいと思ったが、やはり気になった。

「何話してんだ?」

「ううん、こっちの話。パパには関係ない」

 妻が返した言葉は、味も素っ気もないものだった。

「ふうん」

 仕方なく焼け焦げた肉を口に放り込み、ビールで咽喉の奥へ流し込んだ。爪はじき同然の弓削が、それでも友一と目を合わせながら話ができたことは、わずかながら罪の償いができたように思えた。

 一時間半ほどかけて食事をすませ、焼肉店を出たときにはすっかり夜のとばりが降りていた。店から少し離れたところでふたたびタクシーを拾った弓削は、運転手に自宅の方向を告げると、後部シートにずしりと躰を沈めた。

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