第17話  4

 遅くにベッドに入った弓削は、様々な思いが浮かんでは消え、消えては浮かび、それらがなかなか頭の中から離れることがなく、とうとう朝方まで寝付くことができなかった。

 やっとのことで夢の中に引き込まれそうになったとき、すでに起きる時間になっていた。鉛をぶら下げたような重く気怠い躰を起こしてベッドから起き上がったときには、隣りのベッドに寝ているはずの妻の姿はすでになかった。

 首を二、三回左右に振り、頭の中のもやもやを振り払おうとする。しかし、躰の芯にへばりついた澱みはそう簡単には離れることがなかった。今度は後頭部を掌で二、三回叩いて気合を込めると、重い躰を引き摺るようにして寝室を出た。

 ダイニングテーブルの上には決められているかのようにいつもの場所に朝刊が置かれ、弓削に開かれるのを待ち望んでいるかのように見えた。

 弓削はすぐにでも開きたい気分だった。はやる気持を抑えつつ洗面所に足を向ける。洗面所の鏡に映る少しくたびれた自分の顔をしげしげと眺めながら歯ブラシを動かすのだが、心はそこになかった。

 ダイニングに戻っておもむろに新聞を開く。この前のような猜疑の気持はまったくといっていいほど見当たらなかった。煙草を咥えたまま目的のページを開く。そこには間違いなく昨日占い師が予言した数字が並んでいた。

「7・8・3」

 今度は六種類すべての組み合わせがすべて当選している。素早く暗算をしたところではざっと二十万円近くの当選金が懐に入る計算になった。もう一度数字に目をやる。当選数字を語呂合わせすると、「ナ・ヤ・ミ」と読むことができた。いまの自分を象徴しているようだった。弓削は知らず知らずのうちに苦笑いを浮かべていた。

 相変わらず妻は朝食の準備と子供の弁当を拵えるのに集中している。その後ろ姿がいつもと違っているように見えた。肚の底のほうから得もいわれぬわくわくとした気持がせり上がってくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る