第39話 球技大会開始
そうして迎えた球技大会当日。
現在、俺のクラス2-Dの男子がバスケットボールの試合でコートを駆け回っている。
バスケットボールはやはり人気で、多くの生徒が選手に向けて声援を送っている。そこから少し離れたところではゆかり先生も試合を見物して時折黄色い声を上げていた。
……ゆかり先生の視線が、ボールを奪い合っているゴール下での攻防よりも、ディフェンスで押し合いへし合いをしている男子達の方に向けられているように見えるのは気のせいだろうか。
試合が2-Dの勝利で終わると、クラスメイト達の歓声が沸き起こる。
そうしている内に俺達の試合が始まる時間になったので指定されたコートに向かった。
さっきまで俺がいたコートでは、次のバスケットボールの試合が始まるところで、多くのギャラリーは向こう側に集まってきている。それに対して俺達の試合のギャラリーはわずかしかいない。
まあ、こんなもんだよな。
そう思っていたら、ギャラリーの中に三浦が混ざっているのを見つけた。
前に言ってた通り、俺の練習した成果を見にきたのか。
俺が三浦に顔を向けていると三浦が俺にヒラヒラと軽く手を振ってきたので、とりあえず軽く手を上げて返事代わりにする。
いよいよ本番だ。俺は一度深呼吸をしてからコートに入った。
球技大会で行われるドッジボールは競技性を高めるために、普段とは違うルールで進められる。
試合は内野4人、外野3人の構成で始まり、選手は全員ハチマキを着用。
内野がヒットしたら、その選手はハチマキを外して外野に移動、まだハチマキを着けている外野が残っていれば代わりに内野へと入る。
一番違うと思ったのは、外野が内野をヒットさせても復活できないという点。つまりメンバー全員が1度ずつヒットすれば負けになるわけだ。
5分の試合時間までに7人全員をヒットさせるか、試合終了までにハチマキが残っている選手が相手チームよりも多ければ勝ちとなる。
内野のメンバーは本人たっての希望で沢村、次に沢村と一緒に練習していた俺、内野になった俺に合わせて
両チームがそれぞれ配置につくと、審判がホイッスルを吹いてボールを上に向かって投げる。
「もらい!」
坂本のジャンプが遅れて、相手にボールを取られてしまった。
もっとも距離の近い俺をめがけてボールが飛んでくるが、沢村が投げるシュートに比べたらずいぶんと遅く、問題なくキャッチできた。
「吉村!! パスしてくれ!!」
「よしきた!!」
俺からボールを受け取った沢村が大きく振りかぶる。
「どうりゃああ!!」
沢村が全力で投げたボールの勢いはすさまじく、狙った敵をたやすく打ち取った。
「す、すげえ!!」
沢村のシュートを目の当たりにしたギャラリーから驚きの声が漏れ、敵陣営には動揺が広がる。
「まずはあいつから狙え!!」
敵が沢村を狙おうとするが、そうはさせない。
俺は攻撃を終えた沢村の前に立ちはだかった。
俺が敵のシュートを受け止めると、すぐさま沢村にパスをする。
沢村がボールを投げ終えるとすぐさま俺の後ろに下がり、相手の攻撃が当たらないようにする。
昨日、俺が提示した作戦は単純なものだった。
俺は沢村に攻撃が当たらないようにカバーして、ボールを受け止めたら沢村に攻撃を任せるのをひたすら繰り返す。
単純だがゲームで敵にやられると地味に嫌な戦法だ。
ただ、この作戦は守備役の俺が攻撃をどれだけ防げるかにかかっている。
もし俺が落ちれば、守備がガタガタになって総崩れするのは間違いないから、絶対にヒットを取られるわけにはいかない。
相手チームがいったん右の外野にパスして、側面から沢村を狙ってきたが、その前に俺がカバーして飛んできたボールを受け止める。
「くそっ、守りがうざってえ!!」
相手の嫌がる声が聞こえるが俺にとっては誉め言葉だ。それだけ守備役として活躍できてるってことだからな。
「
「沢村との練習の成果だよ。俺が伸びたのは守備ばっかりだけどな」
相手チームは俺と沢村を落とせないと判断したのか、途中から俺がガードしていない
「よっしゃああ!! やったぜ吉村!!」
沢村が大喜びしながら俺に両手で力いっぱいハイタッチをしてくる。
「ここまで作戦が上手くとは思わなかったよ。これなら次もいけるかもな」
「おう!! 次も勝つぞーー!!」
意気込む沢村に対し、坂本、上条、清水、関口の4人は試合に勝ったことに加え、俺と沢村のやり取りを見て困惑している。練習に来なかったあいつらからすれば、今の状況は想像がつかないよなあ。
「一緒に練習してた時は俺と同じレベルぐらいだったのに、この1週間でこれだけ上手くなるってすげえなあ……」
一方、
俺からしてみればセレス目当てとはいえ、死に掛けるダメージをどれだけ受けても練習に付き合うのを止めなかったし、失敗したら命が無かったのに、セレスの防御魔法無しで必殺シュートを近距離から受けたお前の方が凄いんだけどな。
コートから離れようとしたところで、三浦が俺と沢村の所にやってきた。
「お疲れ様! 2人とも凄かったよ! 沢山練習してたものね」
「そ、そうかな……?」
三浦からストレートにほめられた沢村が照れ臭そうにしている。
とはいえ、俺も内心では同じなんだが。
「まあ、何にせよ練習した成果が出せて良かったよ」
「じゃあ、私もバレーボールの試合を頑張るから!」
そう言うと三浦は別のコートに向かっていった。
そういえば、三浦のバレーボールの試合はこれからだったな。次のドッジボールの試合とは被ってないし、見に行こう。
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