第6話 実現できても困りもの
――小さい頃、漫画やアニメにある、光線を出して敵を攻撃する必殺技に憧れていた。
俺も同じ必殺技を出したいと思い、何度も何度も叫びながら必殺技を撃つ真似をした。
親からうるさいと怒られたのも、1度や2度じゃない。
何で自分は必殺技を撃てないんだと、本気で悔しがったりもした。
でも今になって分かったことがある。
――必殺技なんて撃てない方が良かったんだ。
「……昨日午後4時頃、東京都T地区上空で謎の大爆発が発生しました。この爆発による怪我人はいませんでしたが、政府は他国によるミサイル発射の可能性があるとして、
必殺技を撃ったらこんな全国ニュースになったんだからな!!
俺がうっかり超必殺技をぶっ放してしまった次の日。
首都の空中で大爆発が発生したと全国ニュースで大騒ぎになり、新聞一面にも大きく取り上げられていた。
海外の方でも相当話題になっているらしい。
どうしよう。本格的に日本政府が動いちゃったよ……。
死人や怪我人は出なかったとはいえ、自分が凶悪犯罪者になった気分だった。
騒ぎの規模がでかくなりすぎたこの状況で「この事件の原因は俺なんだ」と両親に言えるわけがない。
塀をぶっ壊した件といい、言えないことがどんどん積み重なっていく……。
「T地区って言ったらウチの近くじゃない。怖いわね……」
「ああ。日本は平和だと思っていたのに、まさかこんな大事件が起こるとはな……」
父さんと母さんがニュースを見ながら、深刻に話している。
ごめんなさい。平和を乱した原因は俺なんです。
「聖也、今日元気無いけど、アンタもやっぱり心配してる?」
「うん……そうだね、心配かな」
……この騒ぎがどれだけ大きくなるかが想像できなくて、メチャクチャ心配です。
それと捜索が入るって、俺に関する物証が現場で見つかったりしないか、不安で仕方がありません。
握った石は全部粉々に砕いてたから、指紋とか採取されない……よな?
待てよ、足跡とか調べられないために、履いてた靴とか処分した方がいいんだろうか……。
不安の余り食欲も無いし、爆発の件が話題の中心になっているであろう学校にも行きたくなかった。
しかし学校に行きたくない理由を話せるわけもなく、俺は無理やり朝食を胃に詰め込むと。重い足取りで学校に向かった。
「これ絶対俺のせいだよな……」
学校に向かう最中に、パトカーと数多くすれ違ったし、普段めったに見ない自衛隊の車両も時折見かける。
今回の騒動のせいで、思った以上に
一体どれだけ世間に迷惑を掛けてしまったのだろうか。
騒動がどれだけでかくなるかという心配と、身バレの不安、そして数多くの人に迷惑を掛けた罪悪感で、俺の精神はガリガリとすり減っていった。
× × ×
「なあ、昨日T地区の上空で大爆発が起きた時の動画を見たか?」
「動画どころか、この目で見たぜ。空で何か光ったと思ったら、すっげー音立てて大爆発が起こってさー、爆風が俺のいた所まで来たから超ビビッたわ。今思えば爆発が起きた所に何か落ちてないか見に行けばよかったなー」
「そんなのんきなこと言ってる場合!? 空で爆発したから良かったけど、もし地面で爆発してたら、私たちが死んでたんだよ!?」
案の定クラスでも昨日の大爆発の話題で持ちきりだった。
その中でも事件を面白がっている生徒と、深刻に
その口論の原因が自分だと思うと、すげえいたたまれない。
「塀が壊されたと思ったら、今度は大爆発か。本当にエラいことになったよな……」
「あ、ああ。そうだよな……」
もし全ての元凶が俺だと知ったら、コイツは俺をどう思うんだろうか?
俺を化け物と見なして
何にしても良い感情は持たれないだろう。
どうしてこんなことになってしまったんだろうか。
下手したら大勢の死人を出していたのだから、うかつな行動だったと言われれば否定はできない。
せめて能力の
心細さがだんだん怒りに変わっていった。
いくら生き返らせてもらったとはいえ、あんまりじゃないか。
「吉村君、ちょっといいかしら?」
もう少しでチャイムが鳴る時間になり、机に座ろうとしたら、三浦が話しかけてきた。
「……今度は何さ」
ただでさえイラついているんだから、これ以上気を
「後で吉村君にちょっと見せたいものがあって」
「見せたいもの?」
どう考えても嫌な予感しかしないんだが。
返事をしぶっていると、三浦が昨日と同じように俺の耳元に顔を近づけて、ささやいた。
「吉村君の能力が発動した時の動画」
三浦の言葉聞いた瞬間、全身から血の気が引いた。
「え……、何言って……」
ごまかそうにも、まともな言葉が出てこない。
「とにかくこの授業が終わったら、屋上まで来てくれる?」
そう言うと三浦は自分の席に戻っていった。
能力が発動した時ってまさか昨日の……? いや、まさか。でもそれ以外に何がある?
それに三浦は俺にその動画を見せてどうするつもりだ?
何が待ち受けるかという不安でいっぱいになり、授業時間中ずっと、精神的に真綿で首を締められている気分だった。
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