ポンコツ新米女神セレス02
俺は昨日クリアしたRPGの2周目をプレイするため、今日の授業が終わるとすぐに学校を飛び出していた。
持っているスマホならいつでもゲームはできるけど、俺は断然据え置きゲーム派だ。
やっぱり帰宅部は気楽でいいなと思いながら、横断歩道の信号が青に変わるのを待っていた時だった。
道路を挟んだ横断歩道の向かい側に、
女の子のただならない様子に、一体何があったんだろうかと思っていると――。
信号が赤のままで、1台の車が横断歩道へと迫っている。
それにも関わらず、女の子は周りの状況が見えてないのか、そのまま横断歩道を渡りだした。
「危ない!! 車が来てる!!」
気がつくと俺は車の存在を叫びながら、女の子を突き飛ばして助けようと、反射的に道路へ飛び出していた。
平凡な俺が漫画やアニメの主人公の様な行動を取った事に自分でも驚きながら。
そして、身体を激しい衝撃と痛みが襲い、俺はそのまま意識を失った……。
「そうか……俺、車にはねられて死んだのか…」
俺の呟きに、セレスが無言で頷いた。
ようやく自分が死んだと実感が
「あの女の子は失恋をしたばかりで
セレスの言葉を聞いて、自分が死んだにも関わらず、ほっとした気持ちになった。
そうか、あの女の子は助かったのか。俺が必死に呼びかけたおかげで……。
ん? 必死に呼びかけたおかげで?
俺は女の子を突き飛ばして助けようと、道路へ飛び出したんだぞ?
「あの、俺が女の子を突き飛ばして車から助けたんじゃなかったんですか?」
俺が疑問を口にすると、セレスが気まずそうな表情を浮かべた。
「確かにあなたは道路へ飛び出しました。ですが、女の子のいる所までは届かなかったのです……。女の子が助かったのは、あなたの呼びかけで車の存在に気づき、
「え、ちょっと待って下さい。じゃあ俺はどうして死んだんですか? 車にはねられた感覚は間違いなくあったんですけど」
「……道路に飛び出した時に、あなたの右側から別の車が走っていたんです。あなたは女の子に届く前に、やって来た車にはねられてそのまま……」
そう言うと、セレスは俺を直視できないとばかりに顔を横に背けた。
ということは……。
俺は呼びかけさえすれば問題なく女の子を助けられたのに、道路へ飛び出したせいで無駄に死んだのか?
記憶を改めて
状況を理解した瞬間、俺は脱力して膝から崩れ落ちる。
必死になって女の子を助け、その代わりに自分が死んだ。
しかし、実態が余りにも間抜け過ぎる。
「あ、あなたの行動で女の子の命が助かったのは事実ですから、そんなに落ち込まないで下さい……」
落ち込む俺を、セレスが必死に
「こんな間抜けな形で死んでどうするんだよ……」
そうつぶやいた所で、肝心なことに気が付いた。
「俺はこれからどうなるんですか?」
「ええ、今からお伝えします」
セレスが改めて俺の目を見る。それに合わせて天使も俺の
「ヨシムラマサヤ、これからあなたを……」
──えっ、まさかこれって異世界に転生するっていう、黄金パターン?
「元の世界に蘇生させます」
「生き返れるんですか!? 異世界へ転生するんじゃなくて!?」
「ええ、私は元々この世界で死んだ勇敢な人間を異世界に転生させる役割を負っているのですが、今回は……その、あなたを異世界へ転生させるには問題がありまして」
そう言うと、セレスがまた俺から視線をそらした。
「……俺が異世界に転生すると何か問題があるんですか?」
別に異世界に転生したいわけじゃないが、問題があると言われたら気になってしまう。
セレスの反応からして、何か嫌な予感がするけど。
「はい……。このまま異世界に転生させますと、あなたを車で
「あっ」
そういえばそうだった。
俺が女の子を助けようと道路に飛び出したせいで、無関係だった人がこの騒動に巻き込まれたんだ。
「あなたを
「嫌だ!! それ以上聞きたくない!!」
女の子を助けるどころか、罪のない家庭を崩壊させる事態を招いた事実に俺は
「大丈夫。私があなたを怪我一つ無い状態で蘇生させますから、これで丸く収まりますよ」
「ありがとうございます……本当に、ご迷惑をお掛けします……」
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、力なく返事をした。
「それでは……今からあなたを蘇生させますね」
セレスが両腕を広げると、周辺に黄金に輝く光が現れる。光の輝きはだんだん強くなりセレスが両腕を天に掲げると、光はセレスから離れて俺を包み込んだ。
ああ、これで生き返れるのか。生き返ったら、何から始めればいいんだろう……。
俺がぼんやり考えていると、目の前の光景が段々白く染まっていく……。
そして……。
「あっ!? 間違えた!!」
セレスの口からとんでもない発言が聞こえてきた。
「間違えたって何をだああぁぁ!!!!」
ちょっと待て!! 間違いで俺は異世界行きになるのか!?
セレスの返答が聞けないまま、俺は意識が遠のいていった。
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