第18話 厨二心をくすぐるソードの魔法♪

 

 十八



 魔法初心者を装うボクは、マイア先生の唱えたフレイムボールの呪文を一言一句間違えずに唱えました。呪文を唱える際、右手人差し指を一本だけ伸ばし、杖に見立てています。

 そして、ここからは慎重な魔力操作が必要です。とは言っても、放つべきフレイムボールの威力のイメージは既に出来ています。後はイメージ通りの威力で放てるかどうか、ですが……


 呪文を唱えた後、ボクの体内では強制的にマナの移動が始まりました。どうやら呪文とは言霊の様な物みたいですね。

 これならば例え魔力量が少なくても、ある程度の魔法を誰でも放つ事が出来そうです。

 誰でも……とは言っても、個人の魔力量によって威力や規模、それに魔法の成否などが変わって来るとは思いますが。

 ともあれ、ボクの右手人差し指の先からはの魔力が迸り、その後イメージ通りの直径20cm程の炎の玉が出来上がりました。


 後はマイア先生のマジックシールド目掛けて放つだけですね!



「ちょ、ちょっと待って〜!? い、色が違う! それに、込められたマナの量も桁違いよ〜!? マジックシールドだけじゃヤバいかもっ! 『我が体内を巡りしマナよ。全てを防ぐ、堅牢なる堅盾となれ! 魔法障壁マジックバリア!』」



 ボクがフレイムボールを放とうとした矢先、マイア先生は更に防御魔法を唱えてました。それも、二つ。



「まだ無理そう! 『我が体内を巡りしマナよ。炎を無に帰す水壁となれ! 水の障壁アクアバリア!』……こ、これなら防げる……かな〜?」



 マジックシールドの直ぐ後ろに、マジックシールドに良く似た魔力障壁が張られ、更にその後ろには水流そのものといった障壁が張られました。

 三つのシールド魔法を唱えたマイア先生ですが、ボクのフレイムボールの威力はイメージだとそんなに警戒する程高くは無いですよ? 大袈裟ですね。

 とにかく、マイア先生の準備は整ったみたいなので、フレイムボールを放つとするです!



「……行くです!」



 人差し指をマイア先生目掛けてクイッと曲げてフレイムボールを放ちました。イメージ的には、冷蔵庫の様な名前の某宇宙の帝王のデスボ〇ルですね!



「速いっ!? しかも何これ!? 普通のフレイムボールじゃないわ!!」


「……おや!?」



 ボクの放ったフレイムボールは、10m程離れたマイア先生のマジックシールドに一瞬で着弾してました。

 そこまでは良かったですが、その後がイメージとは違ったです。

 ボクのイメージだとそのまま軽く爆発した後に軽く炎上して消える筈でしたが、着弾と同時に直径が1m程に膨張し、マジックシールドの一層目を容易く破壊してしまったです。



「まだ足りない! 『我が体内を巡りしマナよ! 全てを飲み込む水流と化せ! 水流衝波アクアウェイブ!』」



 ボクのフレイムボールは二層目のマジックバリアも破壊すると、三層目のアクアバリアをも炎に飲み込もうと、より一層激しく燃え上がり、瞬く間にアクアバリアさえも破壊したです。

 このままだと流石にヤバいと思い、フレイムボールを解除しようとしましたが、マイア先生が最後に放ったアクアウェイブがフレイムボールを飲み込み、そこでようやくフレイムボールは消滅したです。



「あ、危なかった……っ! 私じゃ無かったら死人が出てたわよ……。と言うか、何なの、貴女!? 魔力が尋常じゃないわよ!?」



 ……何だか不味い雰囲気です。

 マイア先生のあの慌てようは、明らかにやらかした感じです、ボクが。

 何とか誤魔化すしかないですね……!



「ご、ごめんなさいです! 暴発したです! しょ、初心者のボクにそんな魔力は無いです!」


「暴発!? そ、そう、暴発かぁ! そうよね! じゃ無かったら、あんなフレイムボールなんて見た事無いもの!」



 な、何とか誤魔化せたですかね? 誤魔化せたですよね!?


 ともあれ、今ので完全に感覚は分かったです。

 ボクの魔法を見本と同じくらいの威力に留めるには、魔力を込めたらダメだという事が分かりました。

 つまり、ボク自身の魔力は使わず、大気中に自然に漂っている魔力を使って放てば良いという事です。……自然から魔力を借りると言った方が分りやすいですかね?

 ともかく、これからは周りの魔力を集めて魔法を放つ様にするです!



「マイア先生! もう一度チャンスが欲しいです!」


「えっ!? ぼ、暴発しない……? で、でも、暴発しても私なら防ぐ事が出来たから、大丈夫かな? それに、生徒がやる気を見せてるんだから、先生の私がそれに応えないなんて事は出来ないわ!

 分かったわ〜! ユーリちゃんがやる気満々なんだから〜、先生もそれに応えるわよ〜!」



 マイア先生、さすがですね! 生徒の事をちゃんと考えてる良い先生だと思うです!


 それでは、改めて……!



「すぅーーー、はぁーーー。……いくです! 『森羅万象を織り成すマナよ。創造主たるボクに、ほんの少しだけ力を貸しておくれ……! フレイムボール!』」


「さぁ、来なさい! 『我が体内を巡りしマナよ。全てを防ぐ、堅牢なる盾となれ! マジックシールド!』」



 辺りに漂う魔力を集め、伸ばした人差し指の先端に直径20cm程の炎の玉を再び生み出しました。大きさはマイア先生のフレイムボールよりも一回り小さいですが、炎の色も雰囲気もほとんど同じです。となれば、威力もほとんど同じ筈です。


 後は、放つだけですね!



「……いくです!」



 今度こそと思いつつ、フレイムボールをマイア先生のマジックシールド目掛けて放ちました。

 すると炎の玉は、マイア先生の見本と同じ速度でボクの指先から発射され、そしてマジックシールドへと着弾しました。ここまではイメージ通りです。

 問題はこの後ですね。

 そのまま様子を窺っていると、炎の玉は軽く爆発し、マジックシールド上でメラメラと炎上し、程なくして消えました。……成功です!



「今度は成功したわね〜! みんなも見てたかな〜? 今の様に、普通のフレイムボールならば〜、マジックシールドで防げま〜す! という事で〜、この後は二人一組に分かれて練習してね〜! あ、ユーリちゃんは〜、先生と練習しましょうねぇ〜!」



 何とかイメージ通りのフレイムボールを放ち、マイア先生の狙い通りの結果を得られました。やれやれですね。

 ともあれ、その後はマイア先生の指示通り二人一組に分かれ、それぞれフレイムボールとマジックシールドの練習が始まりました。

 ですが、ボクは何故かマイア先生と組む事になったです。

 やはり暴発と偽った事が原因ですかね? でも、後々の事を考えれば誤魔化す以外の選択肢は無かったです。



「ユーリちゃん、貴女……自然に存在する魔力を使ったわよね? とんでもない高等技術なのよ、アレ……!」



 みんなが練習を始める最中、ボクはマイア先生と共にみんなから離れて壁際まで移動しました。そして、マイア先生からのその言葉です。



「な、何の事です!? ボクには全く分からないです……」


「隠しても無駄よ? 私はこう見えても魔法には詳しいの!」



 見た目が魔女なマイア先生が魔法に詳しいのは当たり前だと思うです。むしろ、その見た目で実は戦士だったという方が驚くですね。

 それはともかく、そんなに高等ですかね? 森羅万象の魔力を借りる事って。ボクにとってはその方が魔法の威力が安定するし、コントロールも利くのでとても使いやすかったですが。

 ともあれ、取り敢えず例の設定で誤魔化しきるです!



「マイア先生はたぶん知らないと思うですが、ボクは自分の名前と、この一週間の出来事くらいしか記憶が無いです。なので、マイア先生の言ってる事は分からないです……」



 少しだけ俯き、更に声のトーンを落として深刻そうな雰囲気で言ってみたですが、どうですかね? ダメですかね?


 ……ならば!



「孤児院でお世話になって、それが嬉しくて、みんなに恩返ししたいから、冒険者を目指したのに……難しい事、言われてもぉ……わがらないでずぅぅ〜うぇぇぇぇ〜〜ん」


「ご、ごめんなさい! そうだったのね……記憶を失くして……! 辛かったのね。分かったわ! 先生も協力するから、立派な冒険者を目指して頑張りましょう? だから、もう泣かないの!」



 嘘泣きするつもりが、何故か本泣きしたです。……不思議です。

 しかし嘘泣き云々はともかく、取り敢えずは有耶無耶に出来たみたいですね。

 これで深く追及される事もない筈です。



「そっかぁ〜、記憶喪失かぁ〜。でも、そうだとしてもユーリちゃんは魔法の天才かもねぇ〜! だったら〜、私から一つだけ魔法を教えてあげよっかなぁ〜? そうねぇ、それが良いわね〜!」


「グスッ……魔法を、グスッ、教えてくれる、ヒグッ、です……?」


「そうよ〜! 暴発させない為にもだけど〜、天才なユーリちゃんにはピッタリの魔法よ〜!」



 怪我の功名と言うんですかね? 転ばぬ先の杖と言うんですかね?

 ともかく、マイア先生はボクに新しい魔法を教えてくれるみたいです!

 どんな魔法ですかね? ボクのイメージする魔法というのは、炎を操ったり、水を出したり、風だったり、土だったり。とにかく、火、水、風、土、氷、雷、光、闇の八属性を使った物が魔法というイメージです。……召喚魔法や重力を操る様なものは『無属性魔法』ですが。

 とにかく! マイア先生が教えてくれるという魔法に興味津々です!



「私が教える魔法は〜、『魔法剣ソード』の魔法よ〜! この魔法なら暴発しないし〜、色んな属性を与えられるし〜、本数も自由自在よ〜!」



 ……魔法剣ソード……です?


 それって、いわゆる魔剣とかの部類に入るんじゃないですかね? 実在する剣の。

 しかも、属性を与える!? 本数も自由自在!?

 属性付与までなら分かるですが、本数が自由自在って……マイア先生はアホですかね?

 手は二本しか無いのに、それ以上の本数の剣をどうしろと言うんですかね!?

 もっと詳しく聞く必要があるですね……!



「一本だけ創って手に持って攻撃するも良いし〜、二本で双剣でも良いし〜、三本以上創り出して〜、自分の意思で自由自在に宙を舞わせる事も出来るのよ〜!」



 何ですと!? 宙を自由に舞わせる事が出来る、ですと!?

 何と言うことでしょう……! そんな魔法があったとは!

 両手に剣を持ち、尚且つ宙には無数の剣。それらを巧みに操り、敵陣の中で無双する……

 良いです。素晴らしいです。カッコ良過ぎるです! 是が非でも教えて貰うです!



「カッコ良いです! 素敵です! は、早く教えて欲しいです!」


「そう来なくっちゃ〜! じゃあ教えるけど〜、ユーリちゃんってもしかして無詠唱で魔法は唱えられるかなぁ〜? でも初めてだから呪文を教えた方が良いわね〜! 呪文はこれね〜! 『マナよ! 形を成せ! 鋭き刃を以て剣と成せ! 魔法剣ソード!』

 この魔法はいくらマナを込めても暴発しないし〜、好きな本数……とは言っても〜、魔力量にもよるわね〜。でも〜、自分のイメージで創り出せるから〜、本当に便利なのよ〜! ちなみに〜、先生は20本まで創り出せるわよ〜!」



 呪文までカッコ良いです! 気に入ったです! さっそく、唱えてみるです……!



「マイア先生、ありがとうです! さっそく唱えてみるです♪ 『マナよ! 形を成せ! 鋭き刃を以て剣と成せ! 魔法剣ソード!』」



 マナを練り上げ、呪文を唱えると同時、ボクの身体全体からマナが溢れ出し、やがて宙に五本の剣が朧気ながら形成されました。ですが、まだ不完全です。

 なので、そこから更に意識を集中し、ハッキリとした剣をイメージすると、白銀に輝く剣へと変化したです。

 そして、ボクを中心として五本の剣達が宙に浮かんで静止していました。



「これが……ソードの魔法、ですか……!」


「凄いわ、ユーリちゃん! 貴女〜、やっぱり天才なのね〜! 初めてなのに成功するし〜、しかも五本も〜! 普通は一本でも中々現れないのよ〜! 試しに、自由に動かしてみて〜!」


「分かったです! ……舞うですっ! ボクの剣達!!」



 マイア先生に褒められながらもその指示通り、ボクは五本の剣達を動かし始めました。

 真っ直ぐ天井に向けて瞬時に上昇させ、そこから円を描く様に下降させます。更にその際、剣先に回転を加えクルクルと廻したです。

 宙を変幻自在に舞う剣達の動きは、ボクの思い描いたイメージそのもの。それは正に、宙を華麗に舞う戦闘機達……まるでブルーイン〇ルスの様でした。



「凄い……っ!! 本当に天才なのね〜、ユーリちゃんは〜!」


「ありがとうです、マイア先生! 気に入ったです! 最高です! カッコ良いです!」



 その後ボクは、時間の許すかぎり魔法剣ソードの魔法を試しました。

 手に持って振ってみたり、属性を与えてみたり。楽しくて、嬉しくて。

 あっという間に午前中の授業は終わってしまいました。


 思えばこれが、ボクの代名詞ともなる魔法剣ソードを覚えた日でした。

 そしてこの魔法を切っ掛けとして、ボクは後にこう呼ばれる事になります。【千を操る者サウザンド】、と。

 ですが、まさか自分がその様な異名で呼ばれる事になるとは、この時はまだ知る由もありませんでした。

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