第15話 変態紳士の誕生秘話!?

 

 十五



 修練の間の奥のステージ上ではマキトさん……の前に冒険者学園の学長が、正に校長先生そのものといった長ーい言葉を述べてます。かれこれ、30分程は話してるですかね? いい加減飽きてきたです。

 それでも、初めの方はまだ良かったです。学ぶ事があったので。

 冒険者としての心得や、この世界での冒険者の役割りなど。それらの話は、ボクにとっては凄く為になりました。

 ですがそれらの話が一段落すると、学長自らの自慢話や世間話、ギルドマスターの仕事の辛さなどを延々と話し始めたのです。……正直、どうでもいいです。


 あ、学長の名前は『クラウス=ハイム』という名前で、冒険者ギルドのギルドマスターも兼ねてます。トキオ支部の、ですね。

 歳は50歳を超えた辺りですかね? 顔立ちは、マキトさんが荒々しい紳士だとすれば、クラウスさんは片眼鏡モノクルをかけた物静かな紳士といったものです。体型は筋肉質なマキトさんに対し、クラウスさんはとてもスマートですね。

 そのクラウスさんの話にあった冒険者時代の自慢話だと、クラウスさんは元Aランク冒険者だったと言うので、体型がスマートとは言えその立ち居振る舞いには洗練された物を感じます。

 クラウスさんの姿はともかく、いい加減に終わって欲しいです!



「――で、あるから、諸君は私を超える冒険者になって欲しいのです。彼……マキト君の様にね。私からの話は以上だ。

 ……それじゃあ、マキト君。後はお願いするよ」



 ……ようやく。本当に、ようやく終わったです。あまりの話の長さに、ボクの心のHPはもうゼロです。

 みんなはよく耐えられますね? もしかして、これも冒険者になる為の精神修行という事ですかね?

 それはともかく、後はマキトさんの話を聞いて冒険者学園の初日は終わりです。しかしその話の中で、あのカッコ良かった姿の説明が無かったら質問するです。……あれだけは凄く気になるです。



「クラウスさんからの指名により、ここでの話をさせてもらう事になった私の名は『マキト=アポロ』だ。冒険者を目指す諸君らならば知ってるとは思うがね。それで、この場で何を話すのかという事だが、先ずはクラウスさんとの出会いから話すとしよう。クラウスさんとの出会い、それは――」



 クラウスさんの話しが終わり、ようやくマキトさんが話し始めましたが……とてつもなく長かったです。

 一応、マキトさんの話を掻い摘んで説明するですが、マキトさんは今から20年程前の若い頃……とは言っても15歳の頃ですが、その頃にクラウスさんと出会い、そのパーティの一員として活動したのが冒険者としての始まりだそうです。

 そのクラウスさんのパーティは他に『コジロー』という虎の獣人が居て、クラウスさんをリーダーとしてコジローさん、マキトさんの三人パーティだったそうです。

 ちなみにその頃のマキトさんは、【戦士】のジョブだったのだとか。まぁ、今の姿の変態紳士とは全く違った男らしい姿だったみたいですね。

 それはともかく、当時のクラウスさんは次期剣聖の呼び声が高かったとか、コジローさんもそれに負けじと凄腕の剣士だったとかの話が続き、マキトさんもその二人に負けない様に修行に明け暮れていたそうです。



「――いやぁ、クラウスさんはともかく、コジローさんも凄かった。私は自分の才能の無さを実感したものだよ。だが、今や私の方が強い! これだけは断言出来るのだが、その切っ掛けをくれたのもやはりクラウスさんだったのだよ。当時の私が――」



 当時のマキトさんは戦士としての壁にぶつかり、凄く悩んだそうです。これ以上強くはなれないんじゃないかと。

 そんな時、クラウスさんがマキトさんの”ある才能”を気付かせてくれたと言うのです。

 それは、薬草やポーションなどの回復アイテムを使用した時の事。クラウスさんが自分に対して使用したポーションの回復量と、マキトさんがクラウスさんに使用したポーションの回復量が明らかに違ってる事に気付いたクラウスさんが、マキトさんにこう言ったそうです「君はアイテムを使う事に掛けては天才だな」と。

 当時のマキトさんはそれを馬鹿にされたと思ったそうですが、その後のクラウスさんの言葉で、それは間違いだったと思い直した様です。

 その言葉とは「君は伝説の【アイテム闘士】の素質があるかもしれないね」というもの。

 ここからが、正にボクの知りたかった事です。



「――というクラウスさんの言葉が切っ掛けで、私はアイテム闘士というジョブを知り、そしてそれになる事が出来たのだよ。だが、困難もあった。やはり複数のジョブを極めなければならない事と、諸君らが見ての通りのこの姿。私は好きでこの恰好をしてる訳ではないのだよ? そう、あれは――」



 アイテム闘士とは、アイテムに宿った思念などを具現化し、その力を自らの力に変えて闘うジョブの事です。

 例えば、ある戦士が長年使い込んだ剣には愛着が湧きますよね? その愛着はアイテム……この場合は剣ですが、その剣に戦士の思念が宿ります。アイテム闘士はその剣を使う事で思念を読み取り、その戦士と同じ力、技などを使える様になるという事です。

 しかしマキトさんはその伝説とも呼べるアイテム闘士のジョブを極め、服などのアイテムからもその人の力を使う事が出来る様になったのだと言ってました。

 後で聞いた話ですが、あの黒いワンピースと背中の大剣は女性龍騎士として名を馳せた人の物で、白いブレスレットは剣聖とまで謳われた双剣使いの人の物だそうです。つまり、ただの変態紳士では無かったという事ですね、マキトさんは。

 ともあれ、そのアイテム闘士を極める為には相当な苦労があったみたいです。


 まだ続いているマキトさんの話によると、まず初めに【神官】に転職したそうです。そのジョブで過酷な精神修行を修めて強靭な精神力を養うと、次に【魔法士】に転職しました。魔法士として、魔に通じる感覚を養う為です。そしてマキトさんはマナの扱いを修めると、いよいよアイテム闘士になる為の修行を開始しました。

 その修行とは、呪われたアイテムを身に纏う事です。呪われたアイテムは、言わば強烈な思念の塊です。……負の思念ですが。

 だけど、マキトさんは生まれつきの才能でアイテム効果が高かったので、それは当然呪いのアイテムにも影響が出ました。つまり、より強力な呪いが発動してしまったそうです。

 結果、その時の修行は失敗に終わり、【霊術師】に解呪及び除霊をしてもらい、事無きを得たそうです。



「――あの時は死ぬかと思ったものだよ。だから次に転職したのは霊術師だった。ここまでで5年間は費やした。それで、ようやくアイテム闘士の修行に入る事が出来たのだが――」



 神官、魔法士、霊術師の三つのジョブを極めて始まったアイテム闘士の修行。それは想像を絶するものだったとマキトさんは言います。

 死へと誘う凶悪な負の思念。それを神官の精神力で耐え、魔法士のマナ操作で負の思念を分散し、霊術師の霊に語り掛ける……思念に語り掛けるスキルで対話を試みる。それを一年間続けたそうです。

 そしてある時、その呪いのアイテムは心を開き……とは言っても、これはマキトさんの感覚ですが、心を開いてマキトさんを受け入れてくれたそうです。そしてそれが、マキトさんのアイテム闘士としての第一歩となりました。

 その後は呪いのアイテム……この時の物が白いブレスレットですが、その力を引き出す為の修行が始まったと言います。

 先ずは思念から双剣のイメージを読み取り、それを具現化する事に始まり、次に、その双剣を使いこなす為の体力造り。その努力の甲斐もあって、素質があってもアイテム闘士になるには通常20年以上掛かる所を、マキトさんは僅か10年で伝説のアイテム闘士になる事が出来たそうです。


 その後はクラウスさん達と別れて活動し、やがて黒いワンピースと大剣にマキトさんは出会いました。

 その頃のマキトさんは既にAランク冒険者としての成功を収めてましたが、防具などに不満があったそうです。いくら双剣の剣技が剣聖レベルになれるとは言え、油断はしていなくても傷を負う事は避けられません。

 そこで見付けたのが、依頼に出ていた黒いワンピースと大剣です。誰も触れる事が出来ない凶悪な呪いがかけられたその二つを、ある場所から移動させてくれというその依頼に飛び付いたマキトさんは、さっそくそこへ向かいました。

 その場所とは『王都セダイ』です。

 セダイで、古くなった兵舎を新しい物に立て替える為に取り壊していたらそれが見付かり、触れた職人が次々に死んでしまった為に依頼が出されていたとの事です。



「――で、セダイに向かった訳だが、あまりにも強力な呪いに私も死にかけた。しかも触れた瞬間にだよ……。だが! 私は諦めなかった! 困ってる人々の為に冒険者となって頑張ってきたのだ! その意思が幸いした。私は辛うじて命を繋ぎ止め、修行の事を思い出し何度も何度も繰り返しチャレンジしたのだ。……一年は掛かってしまったがね。それでも私はそれを成し遂げた。だが、あまりにも強力過ぎる呪いの為、常に身に付けるという制約が付いてしまった。お陰で風呂に入る時に苦労はするがね。おっと、もうこんな時間か。という事で、諸君らも頑張れば素晴らしい冒険者になれるという事だよ。私の話は以上だ」



 ……なるほど。人に歴史あり、ですね。変態紳士はその様に生まれた訳でしたか。

 クラウスさんの話は長いだけでしたが、マキトさんの話は意外と面白かったです。あのカッコ良い姿の謎も解けましたし、ボクとしては満足です。……最後のボクに向けたウィンクが無ければ。

 ともあれ、クラス分け試験から始まり、全校集会……入学式みたいな物ですかね? それも終わったので、今日の所はこれで終了です。

 明日からが楽しみですね。マキトさんみたいな変態紳士にはなりたくないですが、冒険者はやはり面白そうです。


 という訳で帰ろうとしたら、座学の塔入口付近では、未だにカミーサさんが独り言を言ってました。「ミーナさんも捨て難いけど、やっぱり本命はマレさんだし……。あ、でもでも、その二人に付き合って! ……って、言われたら!? はうはうはう! これは困ったぞ! でもそうなったら……良きかな♡」と、いう事を言いながら身悶えてました。……放っておくです。



「ミサトちゃん、一緒に帰るです!」


「分かったニャ。あ、孤児院に帰る前に、『マレさん家』によってお昼ご飯を食べてから帰るニャ」



 孤児院の食事を作ってくれている、マレさんという女性がオーナーシェフをしているというお店ですか!

 カミーサさんも試験の時に、「すっごく美味しいから是非とも行ってみて」って言ってたです!

 確かに孤児院で出て来た食事は、パン一つを取ってみても凄く美味しかったです。それにカミーサさん曰く「すっごい美人」という事も気になるですね……!


 という事で、ミサトちゃんとボク、それに同じく孤児院でお世話になっているクリス君とノルド君の四人で、その『マレさん家』へと向かいました。

『マレさん家』はトキオの飲食店街がある南区でも、通りを外れた場所にひっそりと店を構えてました。通りを外れたと言っても、東区の孤児院からはかなり近い場所にあるので、来ようと思えば直ぐに来れるし、マレさんも孤児院に直ぐに来れるです。

 それはともかく、『マレさん家』は凄く落ち着いた雰囲気で、一見すると本当にお店なのかと疑ってしまう程の店構えでした。今風に言えば、ログハウスと言えば伝わるですかね? 大きな丸太を積み上げて造られた建物です。……丸太小屋と言った方が近いかもしれないです。


 入口の扉を開けると、カランカランと小気味の良いベルの音が鳴り、その音色に懐かしさを感じながら中へと入りました。

 中に入ると、確かにレストランという造りでした。但し、席の数……テーブルの数ですが、僅かに三台しか置かれていなかったです。各テーブルの大きさは、大、中、小と三種類があり、それぞれ六人掛け、四人掛け、二人掛けとなっていました。あ、カウンター席があるので、そのカウンター席でも四人は食べられる様になってるみたいですね。つまり、最大でもお客さんの人数は16人までとなっている小さなお店です。

 ですが、小さくてもお店の雰囲気はお洒落で、しかも落ち着いているので、ミシュ〇ンガイドで星三つが付いていそうな感じです。


 ……などと考えていたら、カウンターの奥から威勢の良い女性の声が聞こえて来ました。



「いらっしゃい! 何名様で!? あぁ、足音で分かるから言わなくて良いや! それと匂い! 孤児院の子達ね! カウンターに座って? 直ぐに作ってあげるから!」



 ……美人です!


 カウンターの奥からチラッと顔が見えたですが、凄い美人さんでした!

 キリリとして、意志の強さを感じる眉に、それとは対照的に、目尻が少しだけ下がった柔和な目元。鼻は可愛らしくツンとしていて、口はアヒル口と言うんですかね? その口で可愛らしく微笑んでいました。

 コック帽を被っていたので、髪型は分からないですね。ですが、眉の色から髪の色は分かります。ライトブラウン、つまり薄い茶色をしてました。あ、瞳の色も同じ薄茶色ですね。

 カミーサさんが惚れるのも分かるですね。美人とは聞いていたけど、これ程の美人だとは思わなかったです。しかも、料理の腕も達人レベル……失礼、鉄人レベルというのだから、男は放ってはおけないですね!


 ともあれ、ボク達四人はマレさんに促されるままにカウンター席へと着きました。

 マレさんの城とも呼べるお店での食事。いったいどんな料理が出されるのか。楽しみです♪

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