第4話 目覚め

 

 四



 幼女が言うには、どうやらここは俺の精神世界らしい。……にも拘わらず、俺の自由に出来ないのは何故なんだ? まぁ、いい。

 しかし、何故俺の精神世界にこの幼女が居るのかって事が気になる。俺の精神世界なんだから、居るのは俺だけの筈だろ?



(俺の精神世界だって事は分かったが、何故ここにお前が居るんだ?)


「それはでしゅね……一つになったからでしゅ!」


(……は!?)


「だからぁ、ボクとユーリしゃんが一つになったからでしゅ」


(意味が分からん……。何がどうなって、しかもどうやってお前と俺が一つになるんだよ? 考えたくもねぇが……そのままの意味で捉えると、俺はとんだロリコン野郎になっちまうぞ!?)


「ロリコン……? 言ってる意味が分からないでしゅね。でしゅが、しっかりと説明するでしゅ! つまり――」



 幼女の説明はこうだった。

 この幼女の名前は『シヴァ』と言う名前で、聞いた時は笑っちまったが、どうやら自称神様らしい。何の神様なのかは教えてくれなかったけどな。

 それでこの幼女……シヴァが言うには、遠い昔に分かれてしまった自らの半身を探していたそうだ。本当かどうかは知らんが、いくつもの世界を巡り、永久とも言える時間を渡ったって言ってたな。

 それはともかく、今朝俺が見た夢はシヴァのせいだって言ってた。シヴァが俺を見付け、それで干渉を始めたから夢に現れたという事らしい。それで、見付ける切っ掛けとなったのは、昨夜俺がコボルトと対峙した時の『戦え。壊せ。殺せ』っていう破壊の感情だとの事だ。

 その後、俺の精神とシヴァの精神をリンクさせ、次に分かれた身体を、そして魂を一つに繋ぎ合わせる……元に戻る為に遊園地で姿を見せたんだと。んで、本来ならばもっと時間を掛けなきゃならん事なのに、あんな事が起きちまったもんだから、こんな事……俺の精神世界にシヴァが同居する事態になった。……というのがシヴァの説明だった。



「――という訳で、あの時は時間が無くて、仕方なしに無理矢理同化……融合したんでしゅ」


(ふーん。いまいち分からんが、とにかく俺の事を助けてくれたのがシヴァだって事か)


「えへへー♪ それででしゅね、身体の方は長い年月を掛けて一つになったんでしゅけど、精神と言うか魂と言うか、それがまだ出来なかったんでしゅ」



 ちょっと待て。身体は一つになった? どういう事だ? つまり、俺の身体にシヴァが同化したのか? それとも俺がシヴァの身体に同化したのか? でも、シヴァが言うにはここは俺の精神世界だって事だから、俺の身体にシヴァが同化したって事で良いんだよな? ……聞いてみるか。



(身体は一つになったって言ってたけど、どういう事だ? シヴァが俺の身体に同化したのか?)


「んー。説明するのが面倒でしゅ。これから魂も一つになるんでしゅから、それで分かる筈でしゅ」



 見た目が幼女だから、頭の中身も幼女なのか!? と言うか、こいつはその為に今姿を見せたって事か!

 しかもさっき、この世界の何処かで美代達が生きてるって言ったよな!? だったら、姿は俺のままじゃねぇと困るだろうが! 美代達の姿が変わっちまっても、俺の姿が俺のままならば美代達は安心してくれる筈だ。いや、でも、美代達も何かと同化してたらどうなる? その場合、記憶は残ってるのか?

 あー、もう! 何だか頭がおかしくなっちまいそうだ! だが、姿形はどれだけ変わろうと、俺は必ず美代達を探し出してみせる!



「それでは、行きましゅね!」


(ちょ、ちょっと、待ってく――)



 そこで俺の意識は途絶えた。最後に残ってる記憶は、微笑みながらも瞳に涙を湛えたシヴァの姿だった。深紅の瞳に浮かぶ涙。変な話だが、懐かしい気持ちと悲しい気持ち、それと嬉しい気持ちがその涙を見て湧き上がっていた――。




 ☆☆☆




 どれくらい眠ってたんだろう。あんな事があったのに美代達が生きてたってんだから、俺は探しに行かなきゃならない。……ん? どうやら記憶はしっかりしてるみたいだな。

 でも……なんだ? なんだか落ち着かない……です。俺……? ボク? ボクはユーリ、です……。うん、記憶はボクのままです。

 ボクの精神世界では身体が動かなかったですが、どうやら動くみたいですね。となれば、いつまでも寝てる訳にはいかないです。起きるとするです!



「んー……っ! ふぁ〜あ。よく寝たですぅ♪ ん? あれ!? あーあーあー、テステス、マイクテスト、オーケー? …………声が違うですぅ!!」



 まてまてまてまて。何で、ボクの声が女の子みたいなんです? 良く考えれば、どうして俺……ダメです! 俺という言葉に違和感たっぷりですぅ。ボクって方が落ち着くです♪

 まぁ、元に戻ったんだから仕方ないですね。兎に角起きるとするです!



「んしょ、と。ここは……部屋、です?」



 目を開けて周りを見渡すと、石造りの四角い部屋の真ん中に居る事が分かったです。何て言うんですかね。石室でしたっけ? 遺跡とかに良くある。その石室の真ん中の台の上でボクは寝てたみたいです。

 あぁ、忘れる所でした。声は女の子みたいになってしまったですけど、見た目が元のままかを確認……。


 …………!?


 ………………っ!?


 ……………………っ!!!



「無いですぅーーーーーー!!?」



 無いです! 無くなってるです! 四十三年間、ボクの身体でシンボルとして君臨してたボクのアレが……綺麗サッパリ無くなってるです!

 身体を確認しようとしたら、服を着てない事に気付いて……まぁ、あんな事があったんだから服くらいは別に良いかって思ったですが、そこにある筈の大事な物が無くなってたです……。

 代わりにあるのは、薄ら生えた茂みの奥の可愛らしい割れ目です。切ないです。つまり、ボクは女の子になってしまったって事ですか。そうですか。……だったら、胸は?



「小さいですぅーーー!!!」



 視線を股間から胸へと向けたら、切なくなる程僅かな膨らみしかないです。両手で寄せてみても、多少おっぱいのお肉が寄るだけで、全く谷間なんて物は出来なかったです……。人生とは、儘ならないものですね。

 それはともかく、裸のままだと何処にも行けないですね。何か着る物は……?


 石室の中をぐるりと見回し、何か着る物が無いかと探していると、扉が目に入って来たです。



「扉を抜ければ、そこは天国でした……なんて事は無いですよね? この部屋には何も着る物が無いので、兎に角そこの扉から出てみるとするです」



 寝台の上から降り、冷たい石床の感触を足の裏で感じながらも扉に近付き、扉を開けようと手を触れた時。その扉は砂となって崩れ落ちたです。……どれだけ古いですかね? この部屋がある建物は。

 そう思いながらも、扉のあった入口からそっと部屋の外を確認すると、寝台のあった部屋と全く同じ造りの石室があったです。



「むぅー。人が居なくて良かったですが、全く同じ部屋とは芸がないですね。ん? あれは……」



 石室の中央にはやはり台が設置されていて、その台の上に何やら着られそうな物が置いてあるのが見えたです。



「良かったですぅ♪ さすがに裸のままじゃ外に出たく無いですからね! 誰が用意したのかは分からないですけど、遠慮なく拝借するです♪」



 台に近付き確認したら、薄いピンク色のワンピース? と黒い指輪が置いてあったです。なので、先ずは服からだろうという事で、そのワンピースから着る事にしたです。



(……!? これは……創った物でしたか!)



 ワンピースに触れた途端、その記憶が頭に浮かんで来たです! どうやら、ボクが一つに戻る前に創って用意してたローブと、同じくボクが創った無限収納が可能な指輪だったです。

 つまり、拝借するも何も、ボクの物でした! てへっ♪


 ともあれ、ローブ【女神の羽衣】に袖を通し、黒い指輪を填めたです。下着が無いのが心許ないですね。何だかスースーするです。

 ちなみにローブですが、色はさっきも言った通りの薄いピンク色ですが、意匠が凝ってるです。先ずは形ですが、フードも付いてるですが、ヒラヒラとした肩掛けの様な物が付いてるです。それで、ローブの中が蒸れない様になってるのか、肩掛けに隠れる様に肩甲骨の辺りに穴が二つあるですね。

 次にローブの見た目ですが足元から見ていくと、裾の部分に縁取る様に白い百合の花が刺繍してあって、その刺繍は袖口にもしてあるです。それで着る時に見えたですが、背中にも百合の花の刺繍があって、それは背中一面に大きく刺繍されてたです。それと、どんな糸なのかは分からないですが、刺繍された百合の花は全てが薄ら光ってる様に見えるです。……ボクが創った筈なのに、そこの所は記憶が曖昧です。


 次に黒い指輪ですが、名前は【黒神】と言うみたいです。機能も無限収納……つまり、アイテムボックスだという事ですね。この辺の知識は、ボクが中学時代に熟読した本に書いてあったものを参考にしてるです。えへん!

 それはともかく、さっきのローブもそうですが、この指輪も、ボクが触れた途端に名前が頭に浮かんで来たです。不思議ですね♪



「何だか魔法使いになった気分です♪ それでは外に出てみるです!」



 他に何か無いかと石室を見回したですけど何も無かったので、もう一つの扉へと向かい、この部屋から出るとするです。

 もしかしたら、さっきの扉と同じで崩れ去るかと思ったら、今度の扉はスーッと消えました。どんな仕組みなんですかね? 魔法の様です!

 さっきの扉も今消えた扉も、見た目は木で出来た観音開きの扉なのに、片方は崩れ去り、片方は消える。どうやらこの世界は不思議で溢れてるみたいですね……!


 ぶるっ!


(……催したです。裸のままだから冷えたです。トイレ……は、無いですよね。仕方ないです。最初の部屋の片隅で用を足してから外に出るとするです)



 寝ていた部屋に戻り、それから入口から死角となる部屋の角付近に進み、そこでローブの裾を捲り上げたです。



「あっ!?」



 ……やってしまったです。立ったまま、用を足したです。女の子の身体になった事を完全に忘れてたです。

 当然そんな状態だから上手く出来る筈も無く、排出された液体は太腿を伝って滴り、あまつさえローブの裾を濡らしてしまったです。やってしまった切ない気持ちを表す様に、石床には小さな水溜まりが出来ていました。



「……拭く物も無いです。……乾いてから、行くとするです……」



 靴を履いてなかったのがまだ救いですね。履いてたら、間違いなくもっと大変な事になってたです。



「……少し匂いは気になるですが、兎に角行くです! ローブの部屋の外はどうなってるですかね? 少しワクワクするです♪」



 ワクワクしながらローブの部屋を出ましたが……同じでした。石室です。何ですかね、この切ない気持ち。夏の終わりの様な、何とも言えないあの感じ。そんな気持ちがボクの心に湧いてきたです。



「あ! 靴と剣? が置いてあるです!」



 以前のボク、分かってるですね♪ さすがに裸足は有り得ないって思ってたです! どれどれ、履き心地はどうですかね? ……ジャストフィットです! さすが、ボク! 良い仕事をしてるです♪


 例によって触れた瞬間、頭に名前が浮かんで来たです。先ず靴ですが、名前は【白神】。見た目が白い革靴なのでイメージ通りです。

 機能は『身体強化』ですね。身体強化という事から、履けば筋力などが上がるって事ですね。

 次に剣ですが、柄の両端から50cm程の白と黒の刃が伸びてる『双刃剣』っていう剣です。トータルした長さは、柄を入れて1m40cm程の長さですね。名前は【ブラフマー】というみたいです。

 頭に浮かんで来た機能ですが、白刃の方が四大属性対応で黒刃の方は光と闇属性対応みたいですね。何の事だかさっぱりですが、兎に角これで準備万端です!

 あ、ブラフマーですが、黒神に収納したです。鞘が無くて抜き身なので、そのまま持ち歩いてると銃刀法違反で捕まってしまうですからね。

 ……という訳で、次こそは外だと信じて扉の外へ行くです!



 今居る石室は、寝てた部屋から数えて三つ目の石室。つまり、全く同じ石室の三つ目という事です。……という事は、扉も次の扉で三つ目の扉という事です。次こそは! 違う場所であって欲しいです! 頼むですよ? 三度目の正直ってやつです!


 そんな事を願いながらその扉に触れると、今度は普通に開けられる扉でした。ですが、観音開きの扉だと思ったら片側開きの普通の扉でした。

 それはともかく、石室の扉を開けたその先には、目を見張る程の美しい景色が広がっていたです。



「綺麗……ですぅ……!」



 目の前に広がる風景。見渡す限りの草原に、遠くに見える湖。ここからだと小さいですが、湖の傍には城の様な物も見えるです。空を見上げてみれば空気が澄んでるのか、抜ける程眩しい青空が広がってるですね。時おり見える鳥さん達も、とても気持ち良さそうに飛んでいるのが分かるです。その証拠に、美しい囀りを響かせているです♪



「すー、はー。空気が美味しいです♪」



 深呼吸をして胸いっぱいに空気を吸い込めば、それだけで疲れも吹き飛びそうな程に空気が澄んでるです。まるで高原に居る様な気になってきたです♪



「高原? ここは小さな山の山頂でしたか」



 足元を見れば、なだらかな斜面があって、一応は麓になるんですかね? その麓には、自然のままの森林が広がってるのが確認出来たです。

 しかしそこで疑問が。ここが山頂ならば、さっきの石室はどうなってるんだって気になったです。



「えっ!? 何も……無いです。石室のせの字も、扉も……建物や洞窟さえも無くなってるですぅ!?」



 後ろを振り返ってみたらそんな物は何処にも無く、その方向にも、無限に広がる様な美しい草原だけがありました。



「ま、いっか、です! 美代達を探すには、先ず人に聞くのが一番ですね。だとすれば、あのお城に行ってみるのが得策です。それでは、あの湖の畔のお城を目指して……しゅっぱーつ、ですーー!」



 こうして、ボクはこの世界で目覚めたです。とりあえずの目標は一つ! それは、この美しい世界の何処かでボクを待ってる、美代、小桜、大和を見付ける事です。必ずボクが探し出すから待ってて欲しいです!


 しかしこの時のボクは、まだ自分の身体に恐ろしい力がある事を知らなかったです……

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