第44話 覚悟

衝撃的な岩城さんからのカミングアウトに俺は言葉を失っていた。

岩城さんは今度は矛先を俺に向ける。


「だから、この仕事についてあなたを担当するってなった時驚いたのよ。まさか舞子さんが大学の時に生んだあの子がなんでスペシャルヒューマンなんかになってるのって、正直最初は憎んだわ。でも、私はこの仕事を任された以上。あなたをスペシャルヒューマンとして育てる義務がある。本当の感情を押し殺して一生懸命今までやってきた。だけど、あなたはアイツの子だった。少しでも隙を見せればすぐに勉強をさぼろうとするところとか、何人もの女の子をたぶらかして家に連れ込でるところとかアイツそっくり……でも、私は舞子の二の舞にならないように彼女たちを傷つけたくないだけなの!」


俺はじぃっとその真剣な熱意のある瞳で訴えてくる岩城さんを見ていた。


そうか、クソ親父のように俺が他の女の子を傷つけるようなことをさせまいと、岩城さんは頑張ってたんだ……

舞子さんの苦しみや悲しい過去を知っているからこそ、言えることもあるから……


俺はあのクソ親父とは違う。自分の中ではそう思っても、クソ親父を知っている物から見れば、俺がしていること自体が親父と同じように見えるわけで……


「ただ、あなたはアイツとは違います。何故ならば、スペシャルヒューマンだから。女の子をたぶらかしても許される」

「そうですね……スペシャルヒューマンだから」



そう、俺はスペシャルヒューマンだ。世の中で選ばれし左利きのエリート集団。将来が確約され、あらゆる結婚に関する法律も特殊に定められている。

そんな俺だからこそ、岩城さんにスペシャルヒューマンとしてどうしていくか言わなければならない。


「正直、将来誰と結婚してとか、自分には今は分からない。それに、彼女たちはスペシャルヒューマンなど知っても俺のことを好いていてくれた。俺はそのことがたまらなく嬉しかった。だから、その期待に出来るだけこたえたい。それが、今の気持ちです。この後、誰かを傷つけることになるとしても……」

「法律で認められているからと言って世の中のほとんどは多重婚することを否定的に捉えていたとしても」

「はい……だって……」


俺はどこか柔和な笑みを浮かべていたかもしれない。とにかく覚悟を決めたような微笑みで言った。


「俺、スペシャルヒューマンですから」


今の俺に必要なのは、スペシャルヒューマンとしてどう生きていくかよりも、スペシャルヒューマンとして生きていく覚悟だ。

どんなに周りから嫉妬や妬み、嫌悪されたとしても、毅然として生きていくその覚悟を俺はこの時本当の意味で決心した。


「そうですか……それがあなたの答えなら、私はこれ以上何も言う権利はありません。だけど、これだけは覚えておいてください」


岩城さんはふぅっとため息をついてから、ニコっと破顔した。



「彼女たち一人でも傷つけたら、私が許しませんから」

「それ、絶対に俺許されないじゃないですか……」


どんな結末を迎えるにしても岩城さんからの雷確定。THE ENDだ。

だが、岩城さんがそうやって笑みを浮かべる姿を俺は始めてみた気がする。

彼女が内に秘めているものを少し垣間見ることが出来た瞬間なのかもしれない。



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