第37話 一緒に帰ろ?

 望結からとんでもない爆弾宣言が飛び出した放課後。


 俺は否定する暇もなく着々と事の次第が進んでいった。

 望結は色々と準備があるとのことで、授業が終わってすぐに帰宅してしまった。


 どうやら望結は本気らしい。ご両親の説得とかどうするんだ?

 俺はまだ、現実味が全く沸いていなかった。


 それもそうだ、急に『はい、今日から一つ屋根の下で一緒に暮らすから』とか言われて、『はい、よろしくお願いします』と普通はならないからね。


 今日は全く放課後の勉強にも身が入らず、ただ頭を働かせず、手だけを動かしてノートを写す機械と化していた。

 気が付いたらすべてのノートを取り終わり、明日習うであろう授業内容の予習までしてる始末。いや、何やってんの俺?


 その時、教室のドアがガラガラと開かれた。

 振り変えると、制服姿の藤堂さんが後ろのドアから教室へと入ってきた。


「っよ!」

「お、おう・・・」


 藤堂さんが普通に俺に学校で挨拶してきた…だと!?


「あれ?綾瀬さんは?」

「ん?あぁ…今日はなんか予定があるとかで先に帰った」

「へぇ~」


 興味なさそうに返事を返しながら藤堂さんはトコトコと歩いてこちらへ向かってきた。

 睨みつけるような目でこちらに近づいてくるので、思わず身を引きそうになってしまうが、ぐっとこらえて藤堂さんを見つめる。


 藤堂さんは俺の目の前まで来ると、机に両手をバンっと置いて上から見下ろしてきた。ってか、少し前屈みみたいな体勢になっているので、第二ボタンまで着崩したワイシャツの下に黒のレースのブラとその豊満な谷間が俺の目線の前に・・・


「一緒に帰るよ!」

「え?」


 一緒に帰る??なんで?


「か、勘違いしないでよね?ちょうど帰ろうとしたら、教室に天馬がいたから誘っただけなんだから…別に時間合わせて狙ってたとかじゃないんだからね!」


 恥ずかしそうに見事なツンデレを見せる藤堂さん。ちょっといつもの強面藤堂さんとのギャップがあっていい。というか、体を揺らしているので、その目の前に露わになっている胸がふよんと揺れている。


「だめ??」


 今度は目を潤わせて首を傾げながら甘い吐息を吐きながら尋ねてくる藤堂さん。

 これだけ見ると、何が別のことを誘っているように見えてしまうので反応に困る。

 何とは言わないけど…


「あ~うん。いいよ」


 俺が目を逸らしながらそう答えると、藤堂さんは嬉しそうな声で


「本当に?」


 っと確認してくる。

 その顔がまた嬉しそうに見つめられるからまたドキっとさせられてしまう。


「俺この後練習だから、どこか寄り道するとかは出来ないけど…」

「それでもいい!」


 こうして、藤堂さんと一緒に帰ることが決まった。まさか、あのクラスの女王様とトップカースト上位の藤堂麗華とこうして一緒に帰ることになるとは…

 世の中どうなるかわかったものじゃないな

 

 そして、今俺は藤堂さんと一緒に駅へと一緒に歩いていた。

 何か話すわけでもないが、藤堂さんが隣にいるだけで緊張してしまう。


 時間帯が微妙で助かった。HR《ホームルーム》直後や下校時間近くだと、多くの帰宅する人たちに見られて、驚かれること間違いなしだからな。


「あんたってさ、毎日放課後練習あるわけ?」

「え?あぁ、月曜日は休みだけど後は基本的にはそうかな」

「ふぅ~ん…そうなんだ」

「まあ、これからトップチームの練習に加わるから、しばらく学校来れないかもだけど」


 やっとプロの選手と練習できるんだからね!


「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!」


 すると、藤堂さんが思いっきり叫んだ。

 耳に叫び声が突き刺さり、耳が痛い。


「びっくりした…いきなり大声出さないでよ藤堂さん」

「びっくりしたのはこっちのセリフ! えっ? 天馬プロ選手になるの?」

「まあいずれはね。今回はトップチームの練習に参加させてもらうだけ。まあ、そこでチャンスを生かせれば、特別指定選手としてプロの試合に出れる可能性もあるかもしれないけどね」

「そんなの聞いてない!」


 そりゃね、学校の奴には言ってなかったし。


「天馬って、凄い人だったんだ…」


 まるで俺を神でも見るかのような憧れの視線を藤堂さんが送ってくる。ちょっとすずかゆい。


「いや、そんなにすごくないと思うけど」

「凄いよ!将来のプロサッカー選手候補で、スペシャルヒューマンだよ? もうこれ以上ない勝ち組じゃん!」

「俺はそうは思わないけど、まあ社会一般から見たらそうなのかもしれないな」


 藤堂さんは感嘆のため息をついた。


「信じられない。あの時私を助けてくれたヒーローだった天馬がこんなになるなんて…///」


 藤堂さんは頬を押さえながらニヤニヤと顔を緩ませていた。こんな姿、クラスの奴に見られたらどうなっちまうんだろうな。

 そんなことを思っていると、改めて期待の眼差しを向けながら藤堂さんがこちらを見つめてきた。


「私!絶対に天馬と結婚する!」

「お、おう…」


 改めてそんな可愛い笑顔で言われてしまうと、俺の胸の鼓動が高まってしまうのを感じざるおえないのであった。

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