第34話 藤堂麗華VS広瀬智亜

 俺の目の前に突如として、小学校の時の初恋の女の子。原麗華こと、藤堂麗華が現れた。


 俺はただ、藤堂さんを見上げて見つめることしか出来ない。

 藤堂さんも、頬を少し染めながら俺をじぃっと見つめ続け、部屋の中には沈黙が流れていた。


 すると、ガチャっと玄関が開く音が聞こえ、足音がこちらに近づいてきた。

 そこで、ようやく糸が切れたように目線を廊下の方へと向ける。

 ドスドスと足音を立てて部屋に足音の人物が入ってくる。


「やっほ~天馬くん!遊びにきた・・・よ…」


 家に上がりこんできた広瀬智亜こと渡良瀬歩は、驚いたように俺と藤堂さんを交互に見つめた。


「てててててて天馬君が、いつの間にかプレイボーイに!?」

「なってません!」


 ほんとだよ??まだ誰にも手を出してないよ?そういう意味では。


「今度は誰!?」


 次から次へとやってくる外部からの闖入者に頭が付いてけず、混乱する藤堂さん。


「ん?私?私は、天馬君の婚約者!」

「誰が婚約者ですか!」


 広瀬さん、頼むから今ややこしいことを言わないでくれ!


「こ、婚約者!?あ、あんた既にいろんな女に手出して、本当は綾瀬さんのことも弄んでるんじゃ?」

「誤解だ!」


 あ~もうほら、こうやって面倒くさい方向へと事が進んでいく!


「ん?望結ちゃんのことかな?望結ちゃんは、私の恋のライバルなの!」

「こ、恋のライバル!?」

「そ、どっちが天馬君を本当の意味で落とすことが出来るのか勝負してるの」


 え?いつからそういう話になったの?確か、抜け駆け禁止同盟を結んで手を出さないはずじゃ・・・


「何よそれ…」

「いや、何といわれましても・・・」


 ギロリと鋭い視線を向けてくる藤堂さん。

 望結と広瀬さんが勝手に作ったことだし、俺がどうこう言える立場ではない。

 ってか、藤堂さん怖いんですけど…


「はぁ…」


 藤堂さんは大きくため息をついて、今度は広瀬さんの方を鋭い視線で見つめる。


「私は藤堂麗華。こいつ・・・天馬とは同じクラスメイトで、関係は昔の初恋同士」

「へぇ~。随分と強面の子が好みだったんだね天馬君は~」

「あ!?」


 やめて!!今にも藤堂さんの怒りが頂点に達しそうだからやめて!


「私は、広瀬智亜!あなたたちの高校の先輩で、この間まで渡良瀬歩って名前でAV女優やってました。よろしくね!」


 軽い口調で、広瀬さんがペロっと自己紹介を済ませる。


「あぁ…なんか見たことある顔だと思ったらそう言うことね。で?その天下のオカズさんが私の天馬に何の用ですか?」

「いや、俺いつから藤堂さんの天馬に・・・」

「いいから黙ってな!!」

「ひ、ひゃい!」


 こえぇぇぇ、藤堂さん怖すぎる・・・

 思わず噛んじゃったし、もうちょっと近かったらちびってたかもしれない…。


「いい?あんたみたいに『私の体舐めまわすように見て下さ~い』ってオーラ放ってる女がね、一番気にくわないの」

「別に女の子に嫌われても私は構いません。これからは天馬君だけのオカズになるって決めたんだから!」

「なっ・・・」


 再び、藤堂さんの鋭い視線が俺に突き刺さる。

 俺は必死に言葉を口に出した。


「ひ、広瀬さんもスペシャルヒューマンなんだよ…それで、スペシャルヒューーまん同士で結婚しないかって迫られて…」

「ふ~ん」


 藤堂さんは意味ありげな返事を返して、再び視線を広瀬さんに向ける。

 敵対心むき出しの藤堂さんに対して、広瀬さんは不吉な笑みを浮かべながら色気をムンムンに出して、大人の余裕さえ感じられる。


 はぁ…もう、どうしてこう俺の周りに現れる女の子たちは、仲良くなれないんだろう。


 思わずため息が漏れてしまいそうなくらい。次々に勝手に争いが勃発していく。

 まあ、原因はほとんど俺のせいなのだが…


 こうして、突如としてクラスの女王様である藤堂麗華が、俺の初恋の相手原麗華であることが分かり。今日も驚きとはらはらの連続する一日となる気配が漂う天馬家なのであった。

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