第28話 広瀬智亜VS綾瀬望結

 今俺は、自室の地べたに正座して、二人の女性の前に体を縮こまらせていた。


 そこには、ムスっとした表情で俺を睨み付ける望結と、眠そうに目をこすりながら事の状況が読めていない広瀬さんの二人が向かい合って座っている。

 これなんて言う修羅場?


「こ・れ・は、どういうことかな?」


 望結は無理やり口角を上げて笑みを作るが、全く目が笑っていない。


「えっと・・・」


(こっちが聞きたいんですけど)


 とはいえるわけもなく、まずは望結を落ち着かせるのが最優先だ。


「この人は、広瀬さんって言って、俺と同じスペシャルヒューマンなんだよ」

「へぇ~。で、なんでそんな人が青谷くんのベッドで寝てる訳?」

「それは・・・」


(こっちが聞きたいです)


「いやぁ、ね?天馬くんを驚かせようと思って、部屋で待ってたんだけど、全然帰ってこないからベッドでゴロゴロしてたらだんだん眠くなっちゃってきて、それでそんまま・・・あはは・・・」


 ようやく目を覚ました広瀬さんが頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。

 そして、視線を望結の方へと向けて一瞥する。


「な・・・なんですか?」


 望結は、警戒心丸出しといった感じで体を手で隠す。


「へぇ~あなたが天馬くんの彼女さん?」

「えぇ、まあ一応・・・」


 すると、突如広瀬さんは見境なしに望結に抱き付いた。


「ひゃぁ!?」

「はぁぁぁぁ~可愛い~!モフモフしてる~!!」

「ちょ、なんなんですか急に///やめっ!」


 俺はしばらくポケっとその二人のお戯れを眺めることしか出来なかった。

 広瀬さんにがっちりとホールドされ、望結はたじたじになっている様子だ。


 ようやく広瀬さんが手を解き、望結が解放される。


「な、なんなのこの人・・・」


 望結はへとへとで顔はげんなりとしていた。


「あ、自己紹介遅れてごめんね、私の名前は広瀬智亜ひろせちあ、天馬くんのフィアンセです、よろしくね」


 広瀬さんがウィンクをしながらとんでもない爆弾発言を投下してきた。

 その瞬間、再び空気が凍り付く。


「あれぇ?」


 二人の反応に戸惑う広瀬さん。困り果てたように、俺の方を向いて、ペロっと舌を出した。


「…青谷くん」

「ひ、ひゃぃ!?」


 たった一言、望結に名前を呼ばれただけなのに、声が上ずってしまう。


「どうして、彼女の私がいながら、婚約相手まで作っちゃてるのかな??」

「いや・・・それは・・・」


 どう説明しようかと悩んでいると、広瀬さんがキョトンとしながら話に割り込んできた。


「あれ?もしかして知らないの?スペシャルヒューマンは多重婚出来るの」

「へ…?」

「だから、スペシャルヒューマンは多重婚が認められてるの」


 広瀬さんから丁寧に二回も説明を受けたが、望結は口を丸く開けて固まっている。そりゃそうだ。いきなり多重婚出来ますなんて言われて、理解できる人なんて普通はいないであろう。


「その・・・言おうと思ってたんだけど…いうタイミング逃して・・・ごめん」


 俺は深々と頭を下げた。


 しばらくして、ミシミシと地べたから地響きが起きているのではないかというくらい。望結がヒシヒシと体が震え始めているのが分かった。


「天馬くん・・・」

「は、はい・・・」

「どうしてそれを早く言わないのぉぉぉぉぉ!???!?」

「ひ、ひぇぇぇぇぇぇ!!ご、ごめんなさいごめんなさい!!」

「大体ね!私スペシャルヒューマンの特性なんて全然知らないし、ルールも全然知らない中で急に多重婚できますだぁ!?!?意味わかんない!しかも、せっかく仲直りできたと思ったのに、青谷君の部屋にどうしてAV女優の渡良瀬歩が寝てるのよ!!!!!!」

「あれ?私の事知ってたんだ~」

「はっ!/////」


 しまった!とでもいうように、望結は体を俯かせ、みるみるうちに顔が真っ赤になっていくのがわかる。


(広瀬さんがAV女優の渡良瀬歩であることは一言も話していない。ということは、顔を見た時から望結はその存在をしっていたってことで・・・)


 やめておこう、これ以上考えると、望結にとってもおれにとってもなんか悲しい。


 望結は「とにかく!」っと言いながら咳ばらいをする。


「私はもうどうすればいいの?」

「それは・・・」

「え~別にそのまま付き合えばいいじゃん!彼氏に婚約者がいようと、愛する気持ちさえあれば関係ないと思うけど?」

「それは、そうですけど…」


 俺を置いてきぼりにしながら、広瀬さんと望結の間で話が進んでいく。


「望結ちゃんは、天馬君の事好きなんだよね?」

「当たり前じゃないですか!青谷君以外の人と付き合うなんて今は考えられない」


 はっきりとそう口にされると、こちらまで恥ずかしくなってくる。


「それなら、もう答えは出てるんじゃない?はっきりと言ってみな?」


 広瀬さんが促すように首で指示を出すと、望結は意を決したようにクルっと体を俺の方へと向けた。


「青谷くん」

「は、はい・・・」

「私は、青谷君のことが好き、世界で一番誰よりもあなたのことが好き。だから、たとえスペシャルヒューマンで多重婚出来るとしても、私ひとりのことをちゃんと見て欲しいの。青谷君が、もしそうしてくれるなら、私は一生あなたのことを愛し続けることを約束します。」


 彼女の瞳は真っ直ぐと俺に向けられて頬を赤くして恥ずかしそうにはしているが、言っていることは本心そのものだ。そういう決意のような表情が顔の中に見て取れる。そこまで言われてしまったら、俺も腹を括らなければならない。なぜなら、俺は・・・!


「はい~そこまで~」


 すると、広瀬さんがいきなり俺と望結の間に割り込んできた。


 俺の腕をつかむと、そのままぐっと腕を引いて体ごと倒す。そして、俺の頭はそのまま吸い込まれるように広瀬さんのたわわな胸の中に・・・

 ぷよんと吸収されて、がっちりホールドされてしまった。


「なっ///」

「たとえ、天馬くんの彼女さんだとしても、私としてはそのお願いをすんなりと聞き入れるわけにはいかないかなぁ~」

「ちょ・・・広瀬さん!?むぐぅ・・・」


 やわらかいクッションのような感触に包まれて口をふさがれた。ってか、息が苦しい!!


「私は天馬くんの肉奴隷でも性処理係でもいいから、婚約はしてもらうって決めたの。だから、あなたのわがままには答えられない」

「そ、そんなの天馬くんが決めることです!あなたには関係ないでしょ!っていうか、天馬くん!そこから早く離れなさい!」


 離れなさいって言われても、身動きが取れないんだよ!ってか、早く空気を・・・


「そんなことないよね?私といっぱいエッチなことするって約束したもんね~?」


 俺は必死に息をしようともがいていると、広瀬さんがぷるぷると胸を揺らして、俺の頭を縦に振らせた。いや、だから早く息をさせて・・・


「ほらぁ、天馬くんも『うんうん』って頷いてるじゃない」

「なっ、天馬くん!?どういうこと!?」


 どういうことよりも!このままだと・・・

 俺が三途の川を渡りかけている状態でも二人の言い争いは続く。


「大体、結婚するうえで、一番大事なのって、やっぱりセックスの相性だと思うんだよね~」

「なっ///そ、そんなの分からないじゃない!」

「いやいや、大事だよ。お互いに気持ちよくできなければ、夫婦なんてやってけないからね~」

「あ、あなただってまだ青谷くんとセ・・・セックスしたことないでしょ?」

「ないけど、私は天馬君を昇天させる自信がある。AV女優だから!」

「わ、私だって、数々今まで見てきたAVテクニック動画をもとに青谷君を気持ち・・・よく・・・ぁ…・・」


 こうして、俺は二人が言い争いを進めている中、広瀬さんの兵器ともいえる胸の中である意味昇天していくのであった。

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