第26話 仲直りからのお泊り!?

 教室に戻り席に戻ると、教室はいつもと変わらない平和な空気感が流れていた。


 席に着席してしばらくすると、藤堂さんも教室へと帰ってきた。


「どこ行ってたんだよ~」

「ごめんごめん、ちょっとね」

「え~何々?」

「なんでもないってばぁ~」


 話を聞いている限り、藤堂さんが俺のことを他の人に告げ口する様子はどうやら内容で安心する。

 直後にチャイムが教室内になり響き、生徒たちが自席に着いていく。

 全員が座ったところで、隣の席に座る人影はいなかった。


 担任が入って来て、出欠確認を行う。


「綾瀬は、今日は風邪でお休みだ」

「えっ…」


 教室がざわざわとしているのが耳に届いてくる。綾瀬さんは、クラスメイトからも人気者だ。休みとなれば自然と驚きの声が湧きおこる。


 というか…綾瀬さんがお休みってことは、今日綾瀬さんに打ち明けられないじゃん!!


 せっかく昨日入念にシュミレーションまでしてきたのに、張り詰めていた自分の中での緊張感というか意気込んでいた気持ちがすっと抜けていき、どっと疲れが押し寄せてきたような気がした。



 ◇



 放課後、練習を終えて、俺と稲穂は、再びコーチに呼びだされた。

 来週からトップチームの練習に参加してほしいとことで、学校に連絡を済ませたので、明日か明後日あたりに面談があるだろうとの報告であった。


 その他連絡事項も終えて、稲穂と一緒にロッカーに戻った時には既に他のメンバーは帰宅し、閑散としていた。シャワーを終えて、稲穂と一緒に練習場を出た時だった。

 入口の端にちょこんと佇んでいる人影を視界にとらえた。チラっとそちらを見た瞬間、俺は視線がその人物にくぎ付けになった。それもそのはず、今日学校を休んだはずの望結が俺の目の前に現れたのだから。


「望結・・・」


 望結の顔は一日にして酷くやつれてしまっており、目の下にはひどいくまが出来て、涙袋は大きく腫れて膨らんでいた。お世辞にも外に出れるような顔色ではない。


「じゃ、じゃあ俺は先に帰るわ」

「お、おう・・・」


 稲穂がただならぬ空気を感じ取ってくれたのか、颯爽と走って先に帰っていった。

 二人だけ取り残されて、しばしの沈黙が辺りを取り囲む。


「メッセージ見たよ」


 最初に沈黙を破ったのは望結だった。練習が始まる前まで既読が付かなかったことを考えると、メッセージを読んですぐに駆けつけてくれたのであろう。


「そか・・・」

「うん…」


 再び二人の間に沈黙が流れる。しかし、ここからは腹を括って俺から切り出さないといけない。


「大事な話があるんだ。今からちょっとだけ、時間取れないかな?」



 そう言って、望結を連れてきたのは、近くにある海辺の公園。

 港町であるこの街の景色を一望できる有名な観光スポットでもある。


 まだ、夜は海風が吹いて少し肌寒さ感じる中、俺と望結は海辺のベンチに腰かけた。


「それで・・・話って何?」


 望結がもう何を言われても驚かないとでもいうように質問を投げかけてきた。

 だが、まず俺は望結に謝らなければいけないことがある。


 椅子に座りながら体を望結の方へと向けて、深々と頭を下げた。


「昨日は、申し訳なかった!望結を悲しませるような行動をして・・・望結を悲しませるようなことしちゃって…」


 しばしの間が空いた後、望結がようやく口を開いた。


「私こそごめんね…天馬くんに迷惑かけてばっかりで・・・本当はなくつもりなんてなかったんだけど、あの時天馬君に好きってすぐに言ってもらえなかったのが悪いんじゃなくて、藤堂さんとの一件とかあって、色々頭がいっぱいいっぱいだったというか…私も意地っ張りだったというか…」

「いや、藤堂さんの件に関しては本当に申し訳なかったと思ってる。望結を一人教室に置いてっちゃって・・・」

「そうじゃないの」

「えっ?」


 俺が顔を上げると、望結が首を横に振った後、何処か海の地平線の方を眺めて語りだす。


「私が言いたかったのは、昨日の体育の時の事。私があの時泣いちゃっても、天馬君は私のことを助けてくれた」

「いや、あれは自分のためにやっただけで、そういうのじゃ・・・」

「そんなことないよ、少なくとも私は本気で天馬君がサッカーをやりぬく姿勢を見て安心したし、嬉しかった。私のためでもあったし…それに・・・」


 望結は少し恥じらいながらこちらを向いてニコっとはにかんだ。


「あの時の青谷、凄いカッコよかったよ///」

「…///」


 思わず直球で言われると、気恥ずかしさがあり顔を逸らしてしまう。


「青谷君は、何も悪くない。これから青谷君を支えていくって言ったのに、こんなに私が弱いんじゃだめだよね!もっと辛抱強くならないと!」


 そう言って、握りこぶしをして気合を入れる望結を見て、俺は今すぐにこの子を抱きしめたい。そう思った。


 気が付いた時には、俺は望結の腕をつかんでこちらに抱き寄せていた。


「あ、青谷君!?///」

「望結・・・好きだ・・・ありがとう」

「うん」


 望結も安心したように腕を背中に回してきて、しばらくお互いに抱き合った。

 ぶぉぉぉーーーっと出向する船の汽笛の音が鳴り響いたところで、お互いに体を話して話して、顔を正面で合わせる。

 そして、どちらからとでもなく、唇を合わせて、キスをした。


「…///」

「…///」


 これでお互い仲直りということで甘い雰囲気が二人の間に漂っているが、今からこの雰囲気をぶち壊さなきゃいけないんだよなぁ・・・


「望結」

「ん?なあに?」


 彼女の純粋なその瞳を見ていると、ついためらってしまう。この笑顔を守りたい。そう思ってしまうが、これも今後のためだと心を決めて、俺は胸ポケットからそれを取り出して望結に手渡した。


「これを見てくれ」

「ん??」


 不思議そうに手渡さたものを受け取ると、そのカードに書いてある内容を読み上げる。


「スペシャルヒューマン証明書・・・天馬青谷殿・・・ってえっ!?青谷くんってスペシャルヒューマンだったの!?!?」

「あぁ…実はそうなんだ…」

「凄い凄い凄い!!」


 望結は嬉しそうにしながら俺の手を握りしめてブンブンと手を振る。


「お、おぉぃ望結?」

「スペシャルヒューマンって、確か全国に30人くらいしかいない凄い人のことだよね!?青谷くんがその一人なんて信じられない!!」


 望結は目を輝かせて俺を見つめてくる。


「え?ってことは、噂程度で聞いたことがあるんだけど、スペシャルヒューマンの人って家とか支給されるんだよね?」

「えっ?あぁ、まあね」

「家見に行ってもいい?」


 望結は目を輝かせて俺を見つめてくる。


「え、今から!?」

「ダメ・・・かな??」

「うっ・・・」


 瞳を潤わせて、上目遣いで聞いてくるのは反則だろ…


「いや、でも時間も遅いし、終電なくなっちゃうんじゃ・・・」

「あっ、その・・・お母さんには今日家に帰らないかもって言ってきたから…///大丈夫だよ///」


 公園の街頭の光に照らされた顔が真っ赤に染まっている。

 いや、何も大丈夫ではないんだけどね?!

 だって、これって暗に俺の家に泊っていってもいいかな?って誘っているようなもので・・・


「お願い///」


 今度は可愛らしく懇願するるように頼んできた。


「わかった・・・いいよ」

「本当に?やったぁ!!」


 あんな可愛い表情で頼まれたら断れないだろ…

 ここまで来たら、腹を括ろう・・・


 自分にそう言い聞かせて、俺は望結を家へと連れていくことになったのであった。

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