第12話 スペシャルヒューマンここにあり

 交番へ到着すると、既に稲穂たちはいなかった。高校生は補導される時間になってしまうため、先に帰らせたと警察官に言われた。稲穂のやつ、助けた女性が渡良瀬歩だって知ったらビックリしたんだろうな…


 俺と広瀬さんは別々の場所へ案内され、各々事情聴取を受けた。俺は高校生のため、事情聴取を受けた後、保護者の方に迎えに来てもらうことになった。家に電話すると、舞子さんが何度も『大丈夫だった?怪我はない?!』と心配してくれた。舞子さんに悪いことをしてしまったなと思いつつ、今日の夜の出来事を事細かに警察の人に説明していった。



 ◇


 事情聴取を終えた俺は、交番の中にあるパイプ椅子に腰かけて、舞子さんの迎えを待っていた。すると、キィっと言う音と共に、交番の奥のドアが開かれて広瀬さんが事情聴取を終えて部屋から出てきたところだった。


「お世話になりました」


 広瀬さんは申し訳なさそうに警察の人に礼儀正しく一礼して踵を返した。

 その瞬間、椅子に座りながら様子を見ていた俺と目が合った。


「あ、天馬くん、まだいたんだ」

「はい、補導時間になっちゃったので、迎えまちです」

「そっか」


 広瀬さんはそう答えて、俺の元に近づいてくる。目の前で立ち止り、俺が広瀬さんを見上げる形になると、大きく腰を曲げて、深々とお辞儀をした。


「本当にありがとう、天馬くんがいなかったら、今頃私、どうなっていたことか…あなたは私の恩人です。何度謝っても謝りきれません」

「いやいや、いいですって、俺も広瀬さんのお役に立ててよかったですし、気にしないでください」


 それに、助けたのが俺の憧れのAV女優渡良瀬歩だったって言うのも、鼻が高いし。


 広瀬さんは、ゆっくりと体を上げた。俺と広瀬さんは見つめ合ってニコっと微笑んだ。


「失礼いたします」


 その時、ガラガラっと交番の扉が開かれて部屋に女性の声が響き渡った。声の方へ顔を向けると、そこにいたのは岩城さんだった。


「岩城さん??」

「舞子さんに頼まれてまいりました」


 どうやら舞子さんは、明日も朝が早いためか、俺のお迎えを家で待っていた教育係の岩城さんに任せたんだろう。


「さ、家に帰って勉強です」

「はい・・・」


 こんな夜遅いのに、勉強はさせるのね…トホホ・・・


 俺がゆっくりとパイプ椅子から立ち上がった時だった。


「優実先生!?!?」


 驚いたように声を上げたのは、俺の後ろにいた広瀬さんであった。岩城さんを指さしながら口をポカンと開けている。


「なっ・・・智亜さん・・・」


 岩城さんが珍しく罰が悪い表情をしていた。俺は広瀬さんと岩城さんを交互に見渡す。


「優実せんせ~い!!」


 次の瞬間、広瀬さんが甘えた声を出しながら岩城さんの方へと向かっていく。岩城さんはなすがままに抱き付かれ、苦笑を浮かべていた。


「岩城さん・・・広瀬さんと知り合いなんですか??」


 俺が質問を投げかけると、かけていた眼鏡をクイッと上げて、一つ咳ばらいをしてから話し出した。


「私のもう一人の教え子です。まあ、AV女優になってしまったので、ほとんど縁は切っていたんですが…」

「も~う、そんなこと言わないでよ?私のこと心配してくれて『AV辞めなさい』って助言してくれたのも優実先生じゃん!」

「いいから、離れなさい!」


 二人はそんな感じでまるで仲のいい姉妹のようにじゃれ合っていた。というか、岩城さん今なんて言った?


「もう一人の教育係ってどういうことですか??」


 俺が質問を岩城さんに投げかけると、広瀬さんが驚いた表情で会話を遮ってきた。


「え?優実先生って天馬くんの教育係なの!?ってことは天馬くんってもしかして??!」


 そこまで言うと、広瀬さんは期待感あふれるキラキラとした表情で見つめてきた。広瀬さんの言葉の続きを岩城さんが拾った。


「広瀬さんは、もう一人のスペシャルヒューマンで、私の教育担当です」


 衝撃の事実に、俺は言葉を失ってぽかんと口を開けて、ただただ広瀬さんを見つめることしかできなかった。俺以外のスペシャルヒューマンを自分の目で初めて見た。しかも、そのスペシャルヒューマンが、今俺の目の前にいる広瀬智亜こと、AV女優の渡良瀬歩なんだから。


「改めて、スペシャルヒューマンの広瀬智亜です。よろしくね、天馬くん!」


 広瀬さんは、ニコっとした優しい笑みを浮かべていた。その笑顔は、純粋さ溢れる無垢な笑顔で、俺はドキっとさせられてしまうのだった。

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