第26話「勘弁してください」
「誤解です違うんです勘弁してください」
「何をだ」
ああーっ、マズい!!
頭の中が真っ白になっていく。これは詰んでいる、だって相手がこの国の王様なんだもん、逆らったら死にそうな人だもん。冷や汗が酷くなってきた。
ガルシアさんと違い、ぼふんと私をベッドにダイブさせた王様。スマートかつ迅速に自身のシャツの前を開けるそれからして、この人、かなりの手練だ。彼がベッドに膝をつくと、ギシ、と軋む音がする。髪結いが解かれて、絹のような長髪が私の頬に触れた。くすぐったいけどそんなの気にしてる場合じゃない。
この、このっ、女遊びキング!!!
なんて言えないけど! 悪く言いたくもなってしまう! 勘違いさせたのは私だけど! もう!
いっそガルシアさんみたいに雰囲気を漂わせるだけ漂わせてすぐに寝てくれないかなあ本当に……。
最早まな板の上の鯉状態、大人の表現で言うとマグロ状態。どうしようどうしよう、いやどうしようもなくない? と何故か半ギレし始めるくらいには焦っている。
王様の骨ばった手が私のパジャマに触れ、一番上のボタンを外す。終わった。私の貞操は王様に捧げられるんだ、まあそれはそれで光栄なのかもしれないそう思わないとやってられない……。
こうして私が諦めかけ、ぎゅっと目を瞑った時だった。
「王様ー、見張り交代しに来まイヤ何やってんですか」
「夜這いされたのだ」
「這ってるのむしろ王様じゃないですー?」
徐に扉が開き、ぴょこっと兵士さんが顔を覗かせたらしい。頑張って頭を上げ、その人の顔を確認する。目が潤んでよく見えなかったけど、瞬きしたら涙が頬に伝い、視界が開けた。
「えっ、エスさあん……」
「あれ」
目をぱちくりとした兵士はエスさんだった。彼は小走りで王様と私の元へ来ると、悩む間もなく語りかけてくる。
「双方の合意の元?」
「違います……うう……」
「うわ、王様駄目じゃないですかもー」
うう、神様だこの人。 救世主エスさん、凄いカッコいい、ありがたい……。
とんとんと肩を叩かれた王様は、表情を崩さないまま私から退く。スンと鼻を啜って、目線を下げた。
「そうか、すまん」
「えっ、あっ、はい……」
いたたまれない空気の中、一際明るい声でエスが言葉を放つ。それがとてもありがたかった。
「うんうん。王様、ちゃんと謝れてエライですーよしよし」
「死にたいか」
「すいませんでした」
私が上半身を起こすと、気まずげな顔をした王様とにこやかなエスさんの姿が。一瞬兄弟みたいに見えて、それがなんだか微笑ましかった。王様はしばらく口をつぐんでいたけど、周りが何も言わないためかふと唇を割った。
「エス。言いたいことでもあるのか」
「ありますよ」
なんでわかったんだろう。初めて聞いたエスさんの真面目な声音に、心臓が大きく跳ねる。二人とも真剣な顔につられ、表情を引き締めた。
(エスさんの、本音____)
「俺なんて一介の兵士で毎日毎日汗水垂らして国中駆け回ってんのに給金も休みも少ないし壊れた鎧だって自己負担だし王様みたいに立ってるだけで女の子寄ってくるわけでもないしこっちから声掛けても反応薄いというかまず声掛ける暇すら与えてくれない! それにオレの愛馬ちゃんだって全然言う事聞いてくれないしさあ! もう眠いから帰ってもいいですか!」
「帰るな」
「はい」
心配して損した。
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