きぐるみ兎

 

 酒を飲んだ。飲んで寝た。飲み過ぎたわけではなかったし、しっかり水も飲んでいたのだが、わたしは眠れず、夜の暑さにうなされながら、漠然とした悪夢をみた。兎の要素をモチーフとした、きぐるみが出てくる夢だった。

 夢の中、きぐるみ兎は、わたしを、わたしがいつも座っている作業椅子に、わたしを半裸の状態で縛り付けつつ、問いかけてくる。

「どうしてお前はムツゴロウ氏のものまねをしたのだ」

 たしかにわたしは、昨夜、酒を飲み、飲んだ挙げ句に、「ウサギの腹にあるお乳首をちゅちゅちゅーと刺激してやるとお乳がでるんですねえ(意訳)」的なことをTVで云っていたムツゴロウ氏の物真似をした。それはもうどうしようもないクオリティで、ただただよっぱらいがあへあへムツゴロウ氏の真似をしているだけだったけれども、なぜそのことで、たのしく夜を過ごした後にこのような夢を見なければならないのか。わけがわからない。

「たのしかったからしたのだ。ムツゴロウ氏の物真似をするのに許可がいるのか。いらないだろう。ただの酔っ払いが調子よくうだうだと下手くそな物真似をしただけであるのにどうしてそれをこのようにして拘束されつつ尋問されねばならぬのか」

 わたしは云った。

 殴られた。

「物真似をするな。うさぎの乳首を吸うムツゴロウ氏の物真似をするな。するならば命がけでやれ。お前には覚悟が足りない。ムツゴロウ氏には覚悟があった。覚悟が足りない物真似をする人間は滅びろ。人類を代表してお前が滅びろ」

 きぐるみ兎がわたしを殴る。

 殴る。

 殴り続ける。

 夢の中だから痛みはない。ないが、どうしてこんなことになっているのだろうと、わたしはこの状況そのものが無性におかしくて、つい、笑ってしまう。わはははは。わはははははは。

「わらうな! 人間がわらうな! 人間!」

 殴られた。

 死んだ。

 目が覚めた。

 そしてこの文章を書いた。

 たぶんまた、物真似はする。

 

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