第3章 進級テストの課題




 私はアリア・ホリィシード。

 乙女ゲームの「恋する乙女と騎士学校」の世界にいるヒロインに転生した人間だ。


 記憶を思い出したのは、物心ついた頃。

 両親と共に旅行に出かけていて、害獣に襲われた時の事だ。


 特にその時は、重大な怪我をする事もなく、かすり傷程度で済んだし、その時は記憶があっても大して困った事はなかった。


 だが、成長して王宮に行く機会があった時に、何の偶然か、それとも運命なのか、未来で出会う予定の己のライバル……悪役令嬢に出会ってしまった。


 見た目からすれば、普通の可愛らしい少女だった。

 淡い金色の髪に橙の瞳をした彼女は、性格もよくて優しくて、明るい子で、話してみればすぐに仲良くなる事ができた。

 友達にすらなれたくらいだ。


 未来の事は誰にも分からないというのが私の持論。

 ゲームでそうだからと言って、彼女が悪役になるとは限らないだろう。

 その時の私はそう思っていたので、しばらく仲の良い友達として彼女と付き合っていた。


 けれども、ゲームの知識がときおり私の目を曇らせた。


 彼女は本当に無害な存在なのだろうか、と。


 彼女は権謀術数が渦巻くだろう王宮に生まれた王女なのだ。

 王家の暗い話の一つや二つは、その年でも耳にいくつか挟んでいた。


 彼女は実は、腹の底では虎視眈々と周囲の物を利用し、貶める事を考えているのではないだろうか。


 そう考えるともう止まらなかった。


 極めつけは、彼女に剣の才能があるとした時の事だった。


 王女としての才能はなく、平凡止まりであった彼女だが、剣に関してのそれは別格だとゲームでも記されていた。


 人格はともかく。ゲーム内では、類いまれなる剣の才能があった彼女は、将来入学した騎士学校で、期待の生徒として名前をはせる事になり、こちらを貶める時も剣での決闘を用いる事も何度かあった。


 私はこのままではまずいと思った。


 本当は違うかもしれない。

 こちらを、誰かを貶めようなどとは考えていないかもしれない。

 しかし、それでも私の疑心はとまらなくてついに、決行した。


 王位継承を狙っている第三王子イグニスをそそのかして、彼女を魔物が溢れる森へと放り出したのだった。


 彼女は、その時死んだはずだった。

 そう思っていた。


 偶然町の中で、淡い金の髪の橙の瞳をした彼女の姿を見るまでは。

 そう、思っていたというのに……。








 フィンセント騎士学校 掲示板前


 翌日、学校に登校した私は友達と共に掲示板を見にいった。


 私は今、三学年在籍しなければいけない騎士学校の第一学年にいる。


 だがそこは普通の学校と違って、騎士の学校で剣を持つ人間を育てる場所である事に関係してか、そう簡単には進級させてくれない場所だった。


 一年、二年は進級テストをクリアしなければ、上の学年になれないし、三年生も実力テストに合格しなければ卒業できない。


 虎穴に入らずんば虎子を得ずというわけで、リスクを冒さずに、危険の一つも冒さずいては夢を掴めない、という事なのだろう。


 そういうわけで、目の前で進級テストの課題の内容が、掲示版に張り出されていた。


 長身の男子の生徒会会長クレイに鞭を討たれながら、クラスメイトの男子生徒ライドがぼやきながら働いている。


「俺の為に働けて嬉しいだろう。愚民、さぁもっと働け」

「いてっ、何すんだこいつ。ちょっと俺こき使い過ぎじゃないの? デスクの上にあった山のような書類アレ何なの?」

「煩い、グダグダ言わずに、俺の指示に従っていろ、それとも説教より鞭の方が必要か?」

「働けば良いんでしょ、あーこの鬼畜生徒会長め」

「そうだ、その調子で俺の為に一生働け」

「一生こんなペースで働けるか!」


 ぼろ雑巾みたいな扱いで雑用をこなしていたライドと会長の関係の始まりがちょっと気になったが、彼等には彼らの理由があるのだろう。

 何も聞かないでおいた。


 そういうわけで、私達生徒に向けてさっそく課題が出された。


 期限は、一年間。学年の最後の日までにクリアしなければならない。




『掲示板』


 ・一年生大課題 遺跡踏破

 ・二年生大課題 遺物収集

 ・三年生大課題 騎士隊への同行。任務への貢献。


 これらが私達が達成すべきものだ。





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