第22話 路面鉄道はよいものです。紳士なおじさまに声を掛けられました。


 ガタンゴトーン、ガタンゴトーン、チーン、チーン、ポォォー。


 真っ黒くて流線形のずんぐりした矩形車体が路面をゆったり走る。車体の側面は鏡張りで、お外がよく見える。


 ガタンゴトーン、ガタンゴトーン。


 色とりどり鮮やかなレンガ建築が後へと流れていく。その情景を見ているだけで楽しい。幾らでも時間が潰せる。


 初期街【デモクラ】には蒸気路面鉄道が走っている。

 剣と魔法の西洋ファンタジーどこにいったと言われるかもしれないけど、このゲーム、誰も“中世”ファンタジーとは言っていない。


 とはいってもまだ大規模農場や工場産業は生まれていない設定みたいだった。まぁ、フィールドにモンスターがうじゃうじゃ居るのに大規模プランテーションとか無理に決まってるよね。


 ポォォーーー! チーンチーン。


 定期的に汽笛と警笛がなるのは一体何なんだろうと思いながら窓から外の景色を眺め続ける。


 車内に椅子はない。乗客は基本立ってるか、腰掛け持参だ。その腰掛けにしたって樽だとか鞄だとか、正規の椅子ではない。


 一応、吊革はあって、捉まる場所はあるのだけど、まぁ最低身長の私にはご縁がない。


 あと、この路面鉄道、駅もない。なので止まらない。

 利用者は飛び乗って車内の運賃箱に一定料金払えと言うざっくばらんなスタイル。


 ガタンゴトーン、ガタンゴトーン。


 風景の色が色鮮やかな極彩色から土気色に変わりだした。

 北部地域到着である。


「降りまーす。ありがとうございましたー」


 運転手さんに御礼を言いながらぴょいんと路面鉄道から飛び降りる。


「っつっとと」


 勢い良く跳びすぎて危うく転びそうになったけど無事着地。


「さって北門近くでぶらつこっかな」


 北部スラムもレンガ造りの家々が並んでいるのだけど、他の地区と違って日干しの茶色いレンガばかり。


 どうやら初期街で最初に建造されたのが北部らしくて、今ではだいぶ古いんだけど歴史を忘れないために残そうってなっているらしい。それで、特にヒトが住んでるわけでもないのに家屋を保存してたから浮浪者達が居座るようになったという。


 スラムに住んでるヒト達はだいたい他国から逃げてきた訳ありさん達か諸事情で働けなくなった身寄りのないヒト達なのだとか。


 こういう作り込み、私は好きだけど、こういう設定っていつか使われるのかしらね?


「それにしても、路面の鋪装修理ぐらいはして欲しいなぁ・・・・・・」


 スラムから北門に向かう通りは101番通りというのだけど、土剥き出しの路面なのだ。

 これも建造当時のままだというから鋪装は逆に保存するという決定から逸脱しちゃうんだろう。


 でも歩きづらい!


 整地ぐらいはちゃんとして欲しい。結構凸凹なの。

 たぶん建造当時はもうすこし平らだったはずだし、雨風で凹凸ができちゃっただけだろうからやっぱり整備はして欲しい。


「あ、着いちゃった」


 グチグチ物思いに耽っていたら既に北門だった。

 北門の見た目は他の東西南と変わりがない。

 がっしりとした石造で、劣化も見る限りでは無くて、こっちはちゃんと小忠実に修繕してるんだろうって窺える。

 高さはたぶん15メートルぐらい?


 そういえば、この石ってどこから持ってきたんだろう?

 石切場とか探せば見つかるのかな?


 ぼけぇぇっと突っ立って外壁門を眺めているのも好きだけれど、どこかに腰を下ろそうかと思った。

 外壁門から中央広場に繋がる大通りにはベンチが至る所に置かれていたりする。

 この町の設計者には賞賛を送りたい。

 ちゃんと人が住む町として設計されているのだ。


「あ、あそこのベンチ誰も座ってない」


 外壁門の周囲は意外とヒトが多くてベンチも空いてなかったりするのだけど、運良く空いてるのでそこへスタスタ向かった。


「もし。そこの小さなお嬢さん」


 ん?


 背後から落ち着いた男性の声が聞こえてきて、私は足を止めた。


「そう、そこの軍刀を提げたお嬢さん」


 たぶん、私だろう。

 周囲を軽く窺っても軍刀提げてる女性なんて居やしない。


「私ですか?」


 くるりと振り向いて、私は後悔した。


「えぇ貴女です。突然呼び止めてしまって申し訳ありません」


「・・・・・・」


 私の前まで歩いてきたその人は、わざわざ膝をつき、目線を合わせて話しかけてくれた。

 とても紳士的な方だと感じたけれど、その美しい身のこなしからこの方がどういう方なのか推測できてしまってちょっとどんな表情をすればいいのかわからない。


 目の前の男性は30代後半、灰色の短髪に灰色の瞳のホッソリした御仁なのだけど、金属鎧を纏って大剣を背負っている姿が妙にしっくりきすぎていて、リアルでも着慣れているんだろうなと、そんな感想が胸についた。

 そう、プレイヤーだ。頭上に灰色のアイコンが出ている。名前はまだ聞いていないので表示されてないけど。たぶん種族はヒューマン。


「叔父上! 突然どうしたのです!」


 目の前の男性を観察していたら、その後方から足早にやってくる少女の姿が見えた。

 燃えるような赤い髪を一つにくくっていて、キリリとした顔付きの美少女さん。

 宗教者みたいなローブに片手剣と盾装備。

 種族はダンピール。


 このゲームにおけるダンピールの見分けは判りやすい。

 影が無ければダンピールだ。あと、鏡の前に立つとうっすら体が透けて見えるらしい。


「叔父上! ん・・・・・・? この少女は?」


 美少女さんは叔父上と呼ぶ人のすぐ近くまで来て、やっと私を認識したらしい。

 首を傾げて私を見ている。


「すまないお嬢さん。少しお時間を頂けないだろうか? 私の話をきいて欲しいのだ」


「叔父上? よもやまさかそのような小さな少女を口説こうと仰る?」


 美少女さんの顔がとっても苦い。それを見てしまった私は思わず吹き出しそうになってしまった。


「コルディナ。落ち着きたまえ。私は今までそんな軟派な行動をしてきたかね?」


 なるほど。美少女さんの名前はコルディナさんと。

 ・・・・・・本名じゃないよね?

 大丈夫だよね?


「じゃぁなんだというのです!?」


 叔父上さんと目が合う。

 面倒な予感しかしないけど、仕方ないのかなぁ。


「お嬢さん、よろしければ一手御指南頂きたい」


 ・・・・・・あぁ、うん。そんな気がしていました。

 私、勝てる気がしないんだよなぁ。

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