29日目『喪失』

「一つ魔法が使えるなら、何がいい?」

 そう尋ねたら、あのときの彼女は、「知りあい全員に、自分を忘れさせる魔法」と答えた。

「いなくなるときに使えば、誰も悲しまないでしょう」

 彼女は、笑っていた。

 あなたを失って悲しむより、忘れるほうが嫌なのに。

 ──あのとき、そう言えばよかった。

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