第6話

 良輔は自宅でインターネットの様々なサイトにアクセスし、当時の連続殺人犯の写真、特徴を手に入れた。人が時間に影響を与えるならば、不確定要素の強いこんな殺人犯をそのままにしておくことは、読みづらい上に危険だった。要はあの時、あの駅でこいつに犯罪をさせなければいいだけ、なのだが。

 深夜、良輔はタイムマシンを載せて犯行現場の近くだった場所近辺の駐車場に向かう。そしてタイムマシンに乗り込み、9月8日の午前11時にセットした。きっと早めに犯人は現場にいて、実行する機会をうかがっているだろう。とりあえずそいつを先に見つけてやる前に声をかけ、人を殺そうなんて気持ちが削がれてしまえばそれでよかったのだ。


 良輔は周囲を見回して、誰もいない事を確認すると、タイムマシンの起動ボタンを押した。


 2016年9月8日。

 9月はじめにしては、風が涼しい秋が始まりそうな日だった。良輔は犯行現場付近の塀ブロックに座り、出発前にプリントアウトして来た顔写真を探す。

 ここに来た時点で、加奈の死がまた同じ日のどこかに移動している可能性はあったが、良輔は今日の死因となるものはこれだけだ、という自信があった。そのため、なんとか男を探し出したかった。もう2度とこの時間には来れないため、今回は時間ギリギリまで探すつもりだった。

 そして良輔はその男を探しながら考えた。何故、加奈はここに来ることになったんだろう。この前の暴走車の時もだ。歴史が変わるという事は、その前からきっかけが変わっているはずで、そのきっかけとなった要素が何であるか、今の良輔にはわからなかった。


「おっ・・・いた。あいつか」


 犯人は佐々木弘樹という。

 彼は人混みに紛れるように背中を丸めて歩いていた。黒い帽子をかぶり、黒のポロシャツを来た男性。年齢は35とあったが、見た目はずっと若かった。

 まだ暑い9月というところから、これだけ黒い格好は、少し気味悪く感じたが、良輔は塀から立ち上がり、彼に近づいていった。


 良輔が近づく間も彼は周りを頻繁に見回して、落ち着かない。まだやっていない罪で捕まることを警戒しているのか、もう既に犯行の機会を伺っているかのように見えた。


「なあ、君。君が佐々木くんかな?」


 良輔は声をかけた。一度声をかけて不意に、何て話すかをあまり考えてなかったことに気がつく。


 まあ、なるようになれ、だ。


「・・・おっさん、誰?」


 明らかに警戒している。目は正面にいる良輔を見ることはほどんどなく、周りに注意を向けるためにギョロギョロと動いている。また額には不自然なほどの汗が出ていた。こちらもすぐに逃げられるように構えていないと危ないかもしれない、と素直に思わせる雰囲気だった。


「私は・・・私のことはまずはいいよ。君、これからやる事は、良くないよ。まだ間に合う。やめてほしいんだがね」


 佐々木という男は驚いた顔を一瞬見せたが、慌てるようにごまかし始めた。


「お、おっさん、頭おかしいんじゃないの?俺を殺人者呼ばわりかよ。面倒なんだ。消えてくれよ」


 やれやれ、と良輔は小さくため息をつく。


「私はまだ、君が殺人をしようとしてるなんて言ってないよ。悪い事は言わん。私も君が怖いんでね、もう退散するが、もう一度言うよ。これからやろうとしていることをやめてほしい。そうだ、どこかで私や私の仲間が見ていると思ってくれていい。ああ、昔映画にもあったな。犯罪予備軍を監視している組織の者だ、と思ってくれてもいい」


 佐々木は大きく目を開いた。


「あ、あんた警察の人か?」


 良輔はちらりと腕時計を見て、少し焦り始めた。もうあまり時間がない。


「警察ではないが・・・まあ、とにかく今日はやめとくんだ。そのホームセンターで買った刃物は売り場に似合わず珍しいもので、君が犯人だと決め手になる凶器だ。バレやすいから、出直した方がいい」


 犯行の情報は記事で読んでいるため、を話す私は、彼にとって違う恐怖を与えているだろう。また私にとっては彼がここで今日、犯行を実行しなければ最悪それでいいのだ。


「し、知らないな。何を勝手に言ってるんだ、おっさん。お、俺は忙しいからもう行く。も、もうかまうなよ、俺に」


 そう言って足早に去っていった。

 よし、おそらく今日はやらないだろう。もうこの日に用はない。


 加奈の死は早まったはずだ。


 良輔は駐車場に戻り、元の時間に帰った。

 早速ネットで記事を読むと、9月9日の新聞には連続殺人の記事は消えていた。その代わり、加奈にその前に会った日、8月18日に加奈の死は移動していた。


 ー 自転車に乗った女性、車と接触して死亡。18日午前10時ごろ、××市○○、駅前大通りの交差点で自転車に乗った同市在住の畠山加奈さんが・・・・ ー


 なるほど。自転車なら家から出発した事がわかる。止め方も、手段も限られる。これなら丁度いいかもしれない。最後に加奈に会う日はこの日にしよう。


 2016年8月18日だ。


 それまでは自分がその準備をしなければならない。念のため9月9日も夕方、深夜と跳んでおいた。

 良輔は部屋に戻ると大きく息をつき、これから行う大きな仕事を前に少し休む事にした。


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