第17話『相性占い』 ――千尋side

―― 千尋ちひろside ――



 放課後になった。

 テストまであと一週間ほどということで部活はない。

 真っ直ぐ家に帰るだけだ。


「ねえ、白鳥しらとりくん」


 帰り支度じたくをして、教室から出ようとしたところで呼び止められた。

 振り返ると、赤井あかいさんがパタパタと駆け寄ってきていた。


 って赤井さん!?

 ぼ、僕に何か用事でもあるのかな……っ!


 驚きと緊張から、一気に鼓動が早まってしまう。


「えっと、何かな?」


「わたしと白鳥くんの相性あいしょうって、どうだと思う?」


「え、えぇえええ!? 相性っ!?」


 いきなりどうしたの赤井さんっ!?!?

 僕らの相性だなんて……っ!!!

 そんなの、いいか悪いかで言ったら……。


「い、いいんじゃないかな……と思います」


「だよねだよね! じゃあ今から一緒にそれを確かめようよ!」


「えっ!? 今から!?」


「うん、ダメ?」


「ダメじゃないよっ!」


 瞳をキラキラさせた赤井さんに、咄嗟とっさにそう答えてしまった。


 でも、確かめるって何をするんだろう……っ!!

 す、スキンシップとか……っ!?


 いやいやいやっ!!!

 きょ、教室でそんなこと……っ!!


 内心すごく焦ってる僕に気付いた素振そぶりも見せず、赤井さんが小さくガッツポーズをして笑う。


「やった! というわけで、一緒に占いしよ?」


「えっと……占い?」


「白鳥くんも占いやっていくって~!」


 赤井さんが後ろを振り向いてそう言った。

 すると、自分の席に座った黒鐘くろがねさんが目を細めて手を振る。


 どうやら僕の想像とはかけ離れたことをするみたいだ。


 安堵あんどの息が漏れる一方、心の端では残念がる自分がいた。

 別に期待してたわけじゃないんだけどね……。



   ◇◆◇◆◇



 僕と赤井さん、黒鐘さんの三人で机を合わせた。

 占いをしたくて仕方がない、といった様子の黒鐘さんを断ることもできず、まずは僕の運勢占いからすることに。


 ちなみに二人の運勢占いはすでにやってしまったらしい。


「じゃあ白鳥君、誕生日と血液型教えて~」


 黒鐘さんにたずねられた。


「誕生日は――」


「誕生日は10月3日、血液型はO型だよ」


 僕の代わりに赤井さんが答えてくれた。


「って、どうして赤井さんがそんなこと知ってるの……っ!?」


「えへへ、それくらい常識だよぉ~」


 にこりと微笑む赤井さん。


 いやいや、全く常識なんてことはないと思います……。

 まあたぶん、小学校の頃の卒業文集か何かで見て覚えていたんだろう。

 赤井さんは記憶力がいいし。


「おっけ~、10月3日にO型ね~」


 黒鐘さんがそう呟きながら占い本のページをめくっていき、あるページで手を止めた。

 そして「ふむふむ」とうなずきながら読んでいく。


「うーん……」


 うなる黒鐘さんに、赤井さんが眉をひそめてたずねる。


「どうしたの……? まさかそんなに悪かった?」


「ううん、悪くはないんだけど、よくもないというか。仕事も健康も金運も全部普通だから」


「そ、そうなんだ……」


 全部普通って……ある意味僕らしい……。


「あ、待って! 一つだけずば抜けてるのがあった!」


「ほんとに?」


 こんな僕にも秀でた運勢があったのかと、思わず期待に満ちた声を上げてしまった。


「うん、恋愛運が」


「そっか、恋愛運がよか――」


 僕の言葉を遮って、黒鐘さんがにこやかに言う。


「恋愛運がずば抜けて悪いよ!」


 ――ガタンッ


 あまりのショックに、すごい勢いで頭を机に打ちつけてしまった。


 色々な意味で痛い……。

 まだ赤井さんのことが好きかどうかはよく分からないけど、なぜだかすごくショックだ。


「し、白鳥くん大丈夫っ!?」


「う、うん大丈夫だよ、あはは」


 心配してくれる赤井さんに、急いで顔を起こして笑顔で答えた。


「そんなあなたに対するラッキーアイテムは……」


 黒鐘さんのその言葉に、ぐいっと意識が引っ張られる。


「ラッキーアイテム!?」


「健康サンダルだって」


「……」


 健康、サンダル。

 健康サンダルって、あの足つぼを刺激するサンダルのことだよね。


「確か物置にあったはず……明日から履いてくるべきかな……?」


「本気にしちゃダメだからねっ! たかが占いだよ!」


 赤井さんにツッコまれて、はっと正気を取り戻した。

 そうだ、たかが占い。当たるも八卦はっけ当たらぬも八卦。

 こんな本のいうことなんて全部信じちゃいけない……!


 それにしても、男子中学生のラッキーアイテムが健康サンダルなんて、なんともおかしな占い本だ。


「じゃあお次は本命、相性占いをしよっか」


 黒鐘さんがそう言ってまた占い本のページを捲る。


「苺ちゃんの誕生日は12月24日で、血液型がAB型だから……っと」


 なるほど、赤井さんの誕生日は12月24日で、AB型なんだ。

 普段生きていて何かに役立つ情報でもないのに、それを知れたことだけで、どうしようもなく嬉しい気持ちが込み上げてきた。


 というか、12月24日ってクリスマスイブか。

 忘れずにお祝いしないと。


「わぁ……ほうほう……ふむふむ……」


 黒鐘さんが様々な反応を見せながら占い本を読んでいた。


 赤井さんとの相性。

 どうか良い結果が出て欲しいと願ってしまう。


 そしてついに、黒鐘さんが本から顔を上げてにやりと笑う。


「……びっくりするくらい悪いよ」


「「え……」」


 僕と赤井さんは揃って間抜けな声を出した。


 そっか、悪かったのか……。

 でもさっき赤井さんが言ってくれたように、ただの占いだ。

 特に気にすることでも――


「その占いの本、間違ってるよ! さっきだって男子中学生に健康サンダルがラッキーアイテムだっていうし。それに……」


 赤井さんが高い声で捲し立て始め、はっきりと断言する。


「わたしと白鳥くんの相性は、すっごくいいもんっ!」


「あ、赤井さんっ!?」


 赤井さんいきなり何言い出すのっ!?

 も、ものすごく照れるんだけど!!!


 僕の視線に気が付いた赤井さんがこちらを向き、若干頬を赤らめて早口で言う。


「そのね、その本がいうように悪くはないって意味でね。客観的に考えてもやっぱりそんなに悪くないというかねっ」


 そこへ黒鐘さんが声を上げる。


「あ、待って。見るページ間違えてたみたい」


「「え?」」


「わあ! 二人の相性すごくいいよ! 何もかも最高!!」


 と黒鐘さんは親指をぐっと突き立てた。

 すると何とも複雑そうな面持ちで赤井さんが口を開く。


「その本……」


 そして数秒すうびょう迷った挙句あげく、ニコッと太陽のような笑みを浮かべた。


「とてもよく書けてると思う!!」


 あからさまな態度の変化には思わず苦笑。


 けれども赤井さんも、占いの結果が良いものであってほしいと思ってくれてたのかな。

 もしそうだとしたらとても嬉しい。


 それにしても、赤井さんとの相性はいいのか。

 そう思うと、たかが占いと思っても、つい頬が緩んでしまうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る