鋼の心

「おぉおおおおおお!」


 俺の吼えた声に、皆の顔が引きつる。

 そう、眼前で涼しい顔をしているこの全原会長以外の皆だ。


「それに、何の意味がっ!?」


 再度動いたのは全原会長。

 ここで新たなアイテムを召喚した。


「っ!?」


 …………まったく、とんでもないな、この人。

 俺の周囲に見えない壁を召喚しやがった。召喚循環サモンサーキュレーションにより、それを四方に置くとか、先程のアレはかわしても接近戦狙いなのは変わらないって事か。


「……見えないように召喚したんですけどね、これに気付きますか」


 周りの皆の中で、この壁に気付いている人間はそう多くない。

 気付いていて上等召喚士の福島、塚本。特等魔法士の雷堂校長。そして目の良い高山姉弟くらいだろうか。

 俺は拳力マーシャルクラフトが身体能力を鋭敏化させているので、すぐに気付く事が出来た。


「いいのですか? 召還陣サモンスクエアは?」

「あの合力で消えちゃいましたからね。描き直しです」


 俺は再びナイア召喚の空図くうずに入る。それは全原会長も同じだった。


「「なっ、速い!」」

「凄い火水さん……!」


 玲の静かな感嘆の言葉が耳で拾える程、俺の身体能力は向上している。

 つまり俺は、拳力マーシャルクラフトさえ発動してしまえば、それに伴って空図くうず速度も向上するのだ。

 これには流石の全原会長も驚く。


「素晴らしい……!」

「褒めてる場合じゃないですよ!」


 肉薄した俺が全原会長の眼前に迫ると、死地に跳び込むように俺に迫った。

 くそ、流石だな。確かにそこしか逃げ道はない。だからといって、それを瞬時に判断して行動に移せる人間は多くない。昨年統一杯二位なのが不思議なくらいだ。

 縫うように俺の動きをかわした全原会長は、かわしざまに自分の手首を百八十度捻った。


「しまった!?」


 全原会長は、咄嗟に鉤爪の先端を俺に向けながらかわした。

 この限られた状況でライフバーを削るなんて、ほんと天才だな。


「ふふ、削り合いになりそうですね!」

「まだまだぁ!」


 嬉しそうに声を荒げる全原会長に釣られ、俺は持てる最高の攻撃を繰り返した。

 しかもその全てをかわし、いなされ、受けられた。

 テレビの中で俺が知る全原会長にはなかった動き。おそらくこれが、剣士学校の霧﨑きりざきのために磨いた技術。超接近戦でも剣士の攻撃をかわす事が出来る体術を、この人は召喚士ながらに確立した。

 なるほど、天才じゃなかった。この人は超の付く程の努力家。


「尊敬しますよ先輩!」

「それは光栄ですね!」


 それは、時間にすればそう長いものではなかった。

 しかし、確かにその短い時間なれど、俺たちは五分の戦いをした。

 終わりが見えたのは、身体能力強化で描かれた、俺の召還陣サモンスクエアが発動したからだ。


「来い! ナイア!」

「くっ! これならどうです!」

「させませんよ」


 全原会長は、ダメージ覚悟で両鉤爪を使い、俺の空図くうずを壊そうとした。

 しかし、それより早くナイアは現れ、天に向かって鋭い蹴りを上げたのだ。

 上体を崩す全原会長の動きを、俺が見逃すはずがない。

 追い打ちのように拳を振りかぶるも、全原会長は後方宙返りをして距離をとる。


「終わりです。来なさい、翔」


 流石にナイアの空図くうずは早い。一瞬にしてこの場に翔を呼んだ。


「おっしゃああああああああっ!!」


 だが、ナイアに蹴られながらも、後方に宙返りしながらも、彼は空図くうずを続けていたのだ。

 俺とナイアと召喚された翔。この三人と全原会長の前に、巨大な石壁が現れる。

 その強度は計り知れなかったが、俺の使い魔たちは、計るつもりがなかったようだ。


「合わせなさい! 風土! 翔!」

「「おうっ!!」」


 ナイアの両手による神速召喚によって現れたのは、体表防壁パノプリアコート

 これにより、俺と翔の身体は強固な鎧を纏った事になる。

 眼前迫るは巨大な壁。しかし、俺と翔は止まる事はない。

 俺は翔から、止まる事を教わってないのだから。


「行くぞ、風土ぉ!!」

「はいっ!!」


 全身の加速を全て背中に集中。


「「おとこならぁ! 歯ぁ食いしばって我慢しろ――――」」


 勢いを殺さず全て背中へ、腰を落とし衝撃を殺さず逃がすな!


「「――――やっ!!!!」」


 これが拳士族、血みどろの翔ちゃん直伝、鉄山靠てつざんこう!!

 俺と翔、二人の背中が巨大な石壁を穿ち、空けられた大穴から飛び散る飛礫つぶては正にショットガン。これに耐えきれる存在は、この学校にいやしない。

 石壁から立ち上る粉末になった石の煙。

 その奥に見えるのは、満足そうに笑って倒れる全原哲人生徒会長。

 余りの衝撃故か、この場にいる誰もが言葉を失っていた。

 そう、審判をしている塚本ですら。

 だからこそ――


「勝者、火水風土っ!!!!」


 ――俺の使い魔の使い魔が出しゃばったとしても、誰も文句を言わないだろう。


「しっ!!」


 俺は強く拳を握り、掴んだ勝利を素直に喜んだのだった。

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