第2話 そらの椅子

その椅子はどこにあるのですか?


木製のベンチに根ざしたみたいな

ひょろ長い老人にたずねると

そら、にとぽつり言葉を置いて

眼球をぐるり、と回して黙りこむ


そら、空、いや宇宙だろうか

その椅子に誰が座るのだろう

とても永いあいだ空だという


その椅子にいったい

誰が座っていたというのだろう


ひょろ長い老人の微笑む皺のなか

その誰かがひょい、と顔をだす

老人の愛した誰かだろうか?

あるいは憎んだ誰かだろうか?


それとも、それとも、それとも……


話してないことも話したことも

あの皺には刻まれているだろう


その数だけ椅子があらゆる形や大きさ

重さでふわふわと漂っていて、やがて

そこにはぼくもひょろ長い老人もいて


椅子は椅子としてあらゆるものを

受け入れながら雲のように形を変えて

皆んな誰かの記憶のなか

そらの椅子に腰かけ漂っている

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