蓮華原市のあやかし奇譚

しまもよう

プロローグ

0 始まりの語り


「おや、珍しいのぅ。こんなところまで迷い込んでくるものがおったか」


 気付いたらは甘い香りのする木のそばにいた。掛けられた声に顔を上げてみれば、昔の時代にいそうなお爺さんが座っていた。にこにこと優しそうに笑っている。


「誰?」

「おお、じじは誰なのか、とな。たまにこの場所に現れる謎の爺と認識してくれればよいぞ」


 この場所……と呟いて周りを見回す。けれど、お爺さんと木の他には何もない。何も見えない。ただ、深い霧の中にいるみたいだった。


「お主がここまで辿り着いたこれも何かの縁じゃろう。どうじゃ、ここで少し休憩していかんか? その間爺がちっと話をしよう。なに、警戒することはない。この爺は無害じゃよ。ただ話を聞いてくれるだけでええ。少なくとも退屈の凌ぎにはなるじゃろ」


 そう言われて、お爺さんの隣に座った。


「さて、どこから話そうかのぅ……まずは一人の女子おなごの話じゃ。あの子も自らの力に悩まされておった。


 結論から言うとのぅ……ん? おお、これは話してはならんのか。なになに……ねたばれ、とな。意味はよくわからんが、はじめから知りたいのじゃな? そうするとちっと長くなるが良いかの? まぁ、付き合えるところまで付き合ってくれればええ」





 ――これから話すは一人の少女を中心とした奇縁の物語じゃ


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