第十六話  乙女対乙女たち

「なんでみんなこっち見てるのかな……?」

 また知尋ちゃんに呼ばれたので来てみたけど……知尋ちゃん、習い事大丈夫なの?

「雪乃っ!」

「ゆのん~」

「雪乃さん」

「は、はい?」

 座ってる順番は、やっぱり左から敬ちゃん、穂綾ちゃん、私、知尋ちゃん。

「雪乃さん、とうとう踏み込んだのね……」

「どこへ?」

「ゆのん~、ついにゆのんも~……」

「なにっ?」

「雪乃っ! あんたが幸せにならなきゃあたしたちは幸せじゃないっ!」

「ど、どういうこと?」

 えっとぅ……とりあえずよくわかんないのですけどぅ……。

「知尋ちゃん、習い事大丈夫なの? テスト期間くらいしか遊べないって言ってたよね……?」

「そんなこと言ってられないわ! 雪乃さんに、す、好きな人が現れたもの!!」

 炎が立ち昇っている絵が見えたような気がする。

「今度はゆのんの番だねっ」

 光り輝いてるように見えた気がする。

「雪乃……あんたが幸せになるためなら、あたしたち、なんでもするから!!」

 大爆発している絵が見えたような気がする。

「あのー……それで、私はなんで呼ばれたの……?」

「まずは聞き取り調査よ! その気持ちが本物かどうか、確かめなければならないわっ」

 なんで知尋ちゃん手に三本もペン持ってるの?

「ゆのん、いつからかわねんのこと好きになったのー?」

 流都くんはかわねんなんだね。

「い、いつって、そんなのわからないよ」

「いやー最近一緒にいるとこ見るの多いなーって思ってたのよー。知尋と付き合ってるかもっていうあのうわさはなんだったんだろうねー」

「ちょっと! なによそのうわさ!」

 思わず知尋ちゃんが立ち上がった。

「あれ、知らないの? 夏休み入る前結構そのうわさ出てたよ?」

「し、知らないわよ! まったくもうっ、どうなったらそんなうわさが出るのかしら……それで夏休み前に敬さんはあんなこと聞いてきたのね……」

 知尋ちゃんは座り直した。敬ちゃんてへ。

「わたくしのことはともかくっ。雪乃さん、どこで好きだと感じるように……なったのかしらっ?」

「え、えっと……」

 言うの? 言っちゃうの? うー、でも今までみんなの聴いてきたから、私も言わなきゃいけないんだよ……ね?

「……一緒にいて楽しいし、もっと一緒に遊びたいって思ってて……でもこの気持ちが本当に好きっていうことかよくわかってなくて……だから、試す感じで……その……」

 みんなの視線が私に集まるっ。

「……ぎゅっとしてみて……」

「ぎゅっ? 具体的に言いなさいっ」

「あぅ。だ、抱きついちゃい、ました」

 ああ、室内がきゃーきゃーまみれに。

「雪乃大胆~!」

「ゆのん積極的~!」

「ゆ、雪乃さん、すごいわ……」

 うう。はずかしいよぅ。

「それで? だ、抱きついてみて、どうだったのかしら」

「えと……えと……」

 ちょっと息を整えて。

「……どきどきしました」

 ああ、また室内がきゃーきゃーまみれに。大治郎さん絶対聞こえてるよぅ。

「だから、敬ちゃんに、好きなのかもって言ったら……私今ここに呼び出されてます?」

「だあって! こんなビッグニュース、知尋に言わないわけにはいかないでしょう!?」

「穂綾さんにも真っ先に伝えたわ。それと同時に即座に習い事の日にちをずらし、この日を確保したわ」

「ゆのんも恋、するんだね~」

 そういう流れだったんだ。

「よおっし! そうと決まったらあたしみたいに水着作戦ね! 知尋!」

「任せなさい」

「待ってっ」

 すとっぷすとっぷ。

「……い、行きました」

「どこに?」

「……プール」

「プール? だれと?」

「……流都くん、と……」

「……まさか、二人で、かしら……?」

 私はゆっくりうなずきました。

 ああ、今まででいちばん大きなきゃーきゃーが室内中に響いてるっ。

「ゆ、雪乃ってそこまで大胆だったのー!?」

「ゆのんすごい、すごいよぉー」

「好きな男の子のためなら迷うことなく一肌脱ぐ雪乃さん……参ったわ……」

「さ、誘われたから行っただけだからぁ」

「え!? 川音から誘ったの!?」

「かわねん、そうなんだそうなんだー」

「それは重要な情報ね……」

 はずかしいはずかしいっ。

「プール楽しかったー?」

 うなずいた。

「どこのプールへ行ったのかしら」

「電車に乗っていくとこ。ウォータースライダーとか人工波のプールとかもあるところ」

「うわー! いつの間にそんなとこ行ってたの!?」

「夏休みの間ですぅ」

 みんななんでそんな表情がいきいきとしてるの?

「ほ、他にどこか行ったのかしら?」

「えっと……あ、夏祭り」

「え!? 夏祭りも二人で行ったの!?」

 うなずいたら、さっきほどではないにしてもまたきゃーきゃー。

「ゆのん、そんなこと全然言ってなかったよぉー?」

「わざわざそんな、言わなくても……」

「まさか、それも流都から誘ったのかしら」

 うなずいた。

「なんてこと……」

 知尋ちゃんすごい表情してる。

「他は!? 他どこか行った!?」

 私は思い返してみて……

「ううん、遠くにお出かけしたのはそのくらいかな。横井田くんや日向くんもいた麻雀に混ざったことならあった」

「それ聞いたー。私も今度混ぜてもらおっかなぁー」

「それも流都から誘われたのかしら」

「うん。四人目がどうしても見つからなかったって……」

 だから知尋ちゃんその顔ぉっ。

「も、もうないでしょーね? これ以上ビッグニュースがあったら、あたしたちが逆にうちのめされてしまうわ!」

(ビッグニュース………………)

「ゆのん、もうない?」

(び、ビッグニュース………………)

「こ、答えなさい。なぜ黙っているのかしらっ」

(うぅぅっ……あれも言うのぉ……?)

「そういえば! 宿題したときあたし先帰ったじゃん! あの後どうなったのよ!」

「ひゃっ」

「その反応なにー? ゆのん~」

(あぁもうだめ、だれか助けて……)

「大丈夫。林延寺家で情報共有するくらいで外部には漏らさないわ」

 そんなところで共有しないでぇっ。

「あ、あたし包み隠さず言ったのになぁー!」

「私も秀のこと言ったよぉ?」

「わたくしと雪乃さんは三年間苦楽を共にした同志なはずだわ」

 みんなの視線が……視線がっ……。

「……け、敬ちゃんが帰った後……」

 しゃべり始めちゃった。

「……結歌……あ、妹ね。も外へお出かけしちゃって……」

 敬ちゃん見すぎっ。

「お父さんとお母さんはもともとお仕事で……だから、ふ、二人っきりになって……」

 穂綾ちゃん近いっ。

「とりあえず何かで遊ぼうと思って、おもちゃ箱をがちゃがちゃしてたら……」

 知尋ちゃんペンを持つ右手ぴしっとしすぎっ。

「……その……」

(い、言わなきゃいけないよね……だよね……)

「……またさっきの……また抱きしめてって、言われたから……ぎゅってしてー……そうしたら流都くんからもぎゅっとし返されて、どきどきして、どきどきしすぎたからちょっと離そうと思ったのに流都くん放してくれなくて。顔が近くて、すっごくどきどきして、力入らなくて、それで、その、気づいたら、あの、目、閉じちゃって……あの、あの……」

「ゆ、雪乃っ! 何したの! さんはい!」

「………………ちゅー、しちゃいましたぁっ……」

 わわわっ! さっきのでいちばんと思ったら、それを大きく上回るきゃーきゃー声が室内いっぱいにっ……!

 敬ちゃん背もたれにうなだれてる!

 穂綾ちゃん手を組んで天を仰いでる!

 知尋ちゃんイスから落ちて倒れてる!

「も、もう許してっ。これでほんとに全部だからぁっ……」

 私は両手で顔を覆っちゃった。


「……雪乃……いちばんおとなしいと思ってた雪乃が、いちばん進んでたね……」

「雪乃さん……すでに、き、ききき、キスの経験が……」

「ゆのん~、でもまだお付き合いはしてないんだよねー?」

「うん、好きです付き合ってくださいは……言われてないもん……」

「いっそ雪乃から告白しちゃう!?」

「ええっ!? そんな、私はそんな、そんな……」

「でも、きききキスして嫌じゃなかったということは、好きってことじゃ……ないかしらっ?」

「やっぱりそうなのかな……」

「ど、どんな感じだったー?」

「どんなって……えっと……」

 って思い返すと、その時の場面にやっぱりてれちゃう。

「……すごくどきどきしすぎてて、よくわからなかったかも……あんな感触、唇に感じたことないよ……身体中に電気びりびり走ったみたいな感じだったし……」

 敬ちゃん机に突っ伏してる!

 穂綾ちゃん手で両ほっぺたを覆ってる!

 知尋ちゃんそこ紙じゃなくテーブルクロス!

「……女の子にここまでしたのだから。流都には、責任を取ってもらわないといけないわね……」

「そうだよぉー。ちゅ、ちゅーまでしちゃったんなら、もう彼氏さんにならなきゃー!」

「えっ、ま、待って、早いよぅ」

「あたしが海行くことになったのなんてこれに比べたらこぉーんなにちっぽけなことだけどさぁ! ほーら雪乃も覚悟決めなさいっ!」

「えぇっ、でもでもぅ……」

「なにをそんなに迷っているのかしら。好きと好きなんだからお付き合いするべきよっ。そうよね穂綾さんっ」

「うんうん。ゆのんの不安な気持ちわかるー。でも乗り越えたら本当に毎日楽しいから、ゆのん幸せになってほしい~」

「そうよそうよ! あたしの心配する前に自分の心配しなきゃー!」

 みんなからやんややんや言われちゃってる。

(はずかしい……はずかしいけど、でも……)

 でもやっぱりこの気持ち……流都くんが好き、っていう気持ち……なのかなぁ……。

「善は急げって言うでしょ! ほらほら!」

「せ、急いては事を仕損じるって言うよ?」

「そんなもの大は小を兼ねるって言うでしょ! だぁーいじょうぶっ!」

 めちゃくちゃだよぅ。

「ゆのんなら大丈夫だよー。むしろゆのんが振られちゃうところなんて想像できないよー?」

「それはそうね。雪乃さんが告白したとして、それを断るような男の子というのは、わたくしの知恵を持ってしても想像できないわ」

 い、一体二人から私はどんなふうに見えてるの……?

「さあ雪乃! 雪乃の決意さえ固まれば、今すぐ知尋が電話かけてきてくれるわよ! なんなら雪乃がかけちゃう!?」

「え、えっ、今日!?」

「思い立ったが吉日~」

「安心なさい。わたくしたちが見守っているわ。二人きりになりたいならわたくしの部屋を使ってちょうだい。その際だれも中に入れないことを約束するわ」

「うぅっ」

 これ……みんなもう、今日告白しなさいっていう気まんまんだよね……。

「さ、さすがに今日告白するかどうかは、まだあれだけど……あ、会うだけなら……」

「よし! 知尋!」

「任せなさい。わたくしが電話をすればいいのかしら。雪乃さんがしたければ雪乃さんでも構わないけど」

「知尋ちゃんお願いします……」

「わかったわ」

 知尋ちゃんが立ち上がって部屋を出ていった。

「ゆのんいよいよだね~」

「はぅ」


 知尋ちゃんが戻ってきた。すぐ来てくれるみたい。

「なんて言って呼んだの?」

「雪乃さんが会いたがってるから早急に来なさい。そう伝えたわ」

「そこまで会いたいアピールしてないよぅ」


 しばらくするとインターホン……い、インターホンだよね、今のでぃーんどーんっていう音。が鳴ると、知尋ちゃんが立ち上がって、部屋を出ていった。

 待っていると、

(流都くんだ)

 シャツにジーンズ姿はいつものだけど……息を切らして汗だらだら。

「な、なんだこのメンバーは?」

 あ、そうだよね。呼ばれて行って女の子四人もいたら驚くよね。

「やほー川音!」

「こんにちはーかわねん」

「よく来てくれたわ」

 え、えっと、私も、だよね。

「……こんにちは、流都くん」

「こんちゃ……急いで来いって言われたけど、まさか雪乃どこか具合悪いとか?」

 流都くんもイスに座った。知尋ちゃんの右隣。持ってきたリュックはさらに隣のイスに置かれた。

「えっ? ううん、どこも悪くないよ」

「なんだよー。じゃあ急いで来いってなんだったんだ?」

 流都くんは知尋ちゃんに向いて質問した。

「雪乃さんが流都に会いたがっているということは、非常に重要なことよ。一分一秒でも惜しいわ」

「いや、だからさ…………まいっか」

 流都くんがふぅっと息を吐くと、大治郎さんがやってきて、

「ようこそいらっしゃいました、流都様。お水をお持ちしました。そしてこちらのタオルもお使いください」

 大治郎さんさすがすぎる。

「あ、ありがとうございます。んぐっんぐっ。ぷはー」

 こういう飲みっぷりとか、タオルで汗をぬぐってる感じとかは、やっぱり男の子だなぁって思う。

(ええっ、なんでこんなことでちょっとどきっとしたの、今……)

 流都くんが汗をぬぐい終えると、大治郎さんはタオルとコップを受け取って、部屋から出ていった。

「……で、俺はなにをすればいいんだ?」

「雪乃さん。ここでいいのかしら」

「え、えっ、も、もう?」

「ゆのんっ」

「雪乃っ!」

 やっぱりみんながこっち見てるーっ。

「も、もうちょっと後でも……」

「ゆのん~」

「雪乃~!」

 あ~ん。

「後って、なにがだ?」

「流都に話したいことがあるそうよ」

 知尋ちゃぁ~ん。

「話したいこと? なんだ?」

 流都くんもこっち見てる。

(どうしようどうしよう。ほ、本当にもう言った方がいいのかな。いいのかな……?)

「ほ、穂綾ちゃん」

「なにー?」

「本当に、その……毎日、楽しい……?」

「うん!」

 穂綾ちゃんいちばんの笑顔が飛び出ました。

「け、敬ちゃん」

「お、どうしたのかなー?」

「こ、この気持ち、間違いないかな……?」

「間違いないっ! あたしが保証するっ!」

 敬ちゃんのお墨付きをいただきました。

「ち、知尋ちゃん」

「なにかしら」

「……お借りしても、いい、でしょう、かっ」

「もちろんよ。流都もついてきなさい」

「は? ああ……?」

 知尋ちゃんが立ち上がると流都くんが立ち上がり……私は立ち上がる前に敬ちゃんと穂綾ちゃんを見ると、二人とも両手でぐー作ってた。

 私は意を決して立ち上がった。


「わたくしたちは広間でお茶を飲んでるから……」

 知尋ちゃんは私に近づいてきて、

「頑張ってね」

 って小声で言ってくれて、ドアが閉められた。

 相変わらずすごい知尋ちゃんのお部屋。小さいテーブルにイスがふたつあったので、とりあえずー……座ることにした。お部屋のイスもふかふか。

 流都くんも続いてもうひとつのイスに座ってくれた。

「なぁ一体なにが起きてんだ?」

「え、えっとね。えっとー……流都くんは、そんなに気にしなくていいかも」

「はぁ?」

 リュックはイスの横の床に置かれた。

(……だめだよぅ。言えない、言えないっ……)

 考えれば考えるほど、流都くんのことを見ることができなくなってる。

「雪乃?」

「な、なに?」

「なんか様子が変っていうか……てかなんで俺ら二人だけここの部屋に入れられたんだ?」

「えっとぅ……流都くんは、そんなに気にしなくて……いいかも……」

「いやそこは気にするところだろっ」

 あ、ちょっとおもしろかった。流都くんも笑ってる。

「……なあ、雪乃?」

「なに?」

「雪乃がいるっていうから持ってきて……ほんとは帰りにでも渡そうと思ったけど、今……渡そうかと思って」

「渡す?」

 何のことを言ってるのかよくわからないけど、流都くんはリュックを開けて、なにかを取り出そうとしてる。

 お目当ての物が見つかったのか、また元の体勢に戻ってこっちを見た。

「……しばらくここ、二人だよな?」

「うん、たぶん」

 座り直した流都くん。

「……これ。読んでほしい」

 と言って差し出してきたのは……封筒? 水色の封筒。

「私が読むの?」

「ああ。雪乃に宛てた……手紙っ」

 私宛て? 私は両手で受け取ると……桜子雪乃様へって書いてある。

(えっ、この手紙……て、手紙って、まさか……)

 私はちょっと流都くんを見た。じっとしてる。

「内容まだ読んでないけど、私のために書いてくれてありがとう。読むね」

「ああ」

 私は裏返して、封を……封をっ……

(あれっ)

「開かないよぅ」

「あ! す、すまん、べったりのり付けたなそういえば!」

 なんか急に笑っちゃったっ。

「なにか開けられそうな道具あるかなぁ」

 私は知尋ちゃんの……これ勉強机だよね? に向かい、なにか封筒を開けられそうな道具を探した。

「ペーパーカッター発見。これ木製だ」

 すごいなぁ、こんなのうちないよ。とにかくこれで封筒の端をぴっと開けて、そこから横に滑らせて封筒を開けた。ペーパーカッターはペン立てに戻した。

 私は元のイスに座って……

(なんて書いてあるのかな……)

「すまん、開けにくかって」

「ううん」

 私は中から便せんを取り出した。白い紙だけどざらざらしてる。和紙なのかなぁ? 一枚だけ。

 折られた便せんを広げて、書かれてある文章を読み始めた。



桜子雪乃ちゃんへ


本日もお日がらがよく、てそういうことを書きたいんじゃなくてさ。

雪乃、こうして手紙書いたのは伝えたいことがあったから。

去年の文化祭で雪乃が準備リーダーに手あげたときから桜子って

すごいやつだなって思って、勢いで副リーダーに手あげてさ。

一緒に作業してると楽しくて、勝手に気になって、もっと距離

近づきたくなったから名前呼びにして。それからも気になってたけど、

家の前でたまたま会って遊んだときのこと、今でも夢に出るくらい。

それで今年同じクラスになって、もっと雪乃としゃべって遊んでたら、

雪乃のことが好きになっていた気がする。いつのまにか。

プールとか誘っていやだったかもしれないけど来てくれてありがとう。

ゆかたも水着もかわいかったです。(変態とか言うなよ!)

雪乃を楽しませることが、今の俺の生きがいなんだ。そしてずっと

雪乃と楽しんでいきたい。この夏雪乃と作った思い出みたいに

これからたくさん楽しい思い出を俺と作っていこう。

こんな俺だけど、よかったら付き合ってください。    川音流都


あと高校一緒のとこ行きたい



 私は静かにお手紙を読み終えた。便せんを折って、元のように封筒へ戻した。

 手で流都くんのお手紙を持ったまま、流都くんを見てみる。流都くんもこっち見てる。

 あ、やっぱりどきどきしてて流都くん見てられないので、ちょっと視線落としちゃう。手震えてるかも。

 こんなお手紙もらったの初めて。だってこれ……ら、らぶれたぁ、だよね……?

 不安な気持ちはあるけど、うれしい気持ちとてれちゃう気持ちとなんだかはずかしい気持ちも混ざってて、不安な気持ちは思ったほどはないかも。それでも胸の中は大変なことになってるけど。

 流都くんから手渡しで受け取って、その本人の前で読んで、流都くんはすぐそこに座ったまま。ということは、今お返事しないと……いけないよね……。

 よくある「考えさせてほしい」みたいなのを言ってもいいのかな……? でもそれを言っても単に悩む時間が延びるだけな気がする。

 流都くんを好きな気持ちはあると思うし……やっぱりこのお手紙の内容、うれしいし……。

 それに、敬ちゃん穂綾ちゃん知尋ちゃんもいてくれてるし、あんなにいっぱい応……援? してくれたし。

 ここで考えて、ここでお返事するのがいいと思う。

 改めて流都くんを見てみたけど、流都くんは姿勢を正してこっちを見てるだけ。

 な、なにかしゃべってくれないのかな。お手紙読んだから、私からしゃべった方がいいのかな。なにしゃべったらいいのかな。

「……お手紙、ありがとう」

「あ、ああ」

「作文、得意になった?」

「え? あ、はは、そんなにうまく書けてたか?」

「うん。すごく心に響いたよ」

「それはー、よかった、かな。でも思ったことをそのまま書いただけなんだけどな」

「その調子でこれからも作文書くといいと思うよ」

「そっか。さんきゅ」

 つい作文の話をしちゃった。

 話がいったん落ち着くと、静かな時間が流れる。

 どこに時計が置いてあるのかわからないけど、かちかち聞こえるこれは時計の音だよね。

(お返事、しなきゃ。本当にお返事……しちゃわなきゃ)

 どっちの方がいいのかな……断る理由なんて見つからないけど、お付き合いするってどういう感じなのかな……穂綾ちゃんは毎日楽しいって言ってたけど。

 でも流都くんもこう書いてくれたっていうことは、やっぱり流都くん、私とお付き合いしたいんだよね。流都くんはお付き合いするのがどんな感じなのかわかってるのかなぁ……。お付き合いしたことあるなんて聴いたことないけど。

 胸のどきどきが止まらない。さ、さすがにあのちゅーのときのもう無理ぃな感じとは違うけど、でもどきどき。

 流都くんも、どきどきしながら書いてくれたのかな……渡してくれたのかな……私が同じように書いて流都くんに渡すって、考えただけでも緊張しちゃう。やっぱり流都くんも緊張したのかな。緊張してでも私にこれを読んでもらいたかったのかな。

「ゆ、雪乃。別に返事、急いでないから……」

 私は自然と首を横に振った。自分でも驚くくらいに自然と。

「……流都くん、そんなに……水着、見たいの?」

「ばっ!? な、なに急に言い出すんだよ!?」

「変態さんなの?」

「ち、違う! 違うぞ! ぜーったい俺は変態なんかじゃない! 本当だ! 信じてくれ!」

「じゃあ、見なくてもいいの?」

「………………好きな女の子の水着とか。見たいに……決まってんじゃん」

 わあっ……流都くん。私のこと、好きな女の子って……。

(すっごく……すっごくすっごくどきっとした)

「浴衣も。着物も。サンタ服も。メイド服も見たい」

「え、それはちょっと……」

「まじすまん、まじで引かないでくれ」

 ごめんなさい、ちょっと笑っちゃった。

(でもそんなにも私のこと……好きでいてくれてるなんて……)

 私。流都くんと一緒なら、いっぱい楽しい毎日が待ってるのかな。

 もしここで断ったら今までと変わらない毎日が続くとして……それと比べて、流都くんと一緒の方が、楽しい毎日になるのかな。

 付き合うっていうことをしなくても、今まで一緒にバックギャモンしたり麻雀したりして遊んできたけど……お付き合いっていうのをしてからするバックギャモンは、また違う感じなのかなぁ……。

「ほんと、急いでないからなっ」

 私はまた首を横に振った。

(……やっぱり私、しっかり想えることが……欲しい)

 私は封筒をテーブルの上に置いて、いったん立ち上がり、流都くんのところにゆっくり向かった。

「確認したいことがあります」

「なんだ?」

 私はすっと流都くんに近づいて、流都くんにゆっくり抱きつきました。

「ゆ、雪乃ぉ!?」

(……どきどきする。でも嫌じゃない。もっと近づきたい。てれちゃうから近づかないけど、でも近づいてもいい気がする)

 こんな感じに思えて……私……この気持ち……。

「流都くんは……私とは、お友達じゃなくって、お付き合いが……したいんだよね……?」

「あ、ああ。でも雪乃が友達を望むんなら、別にそれでも……」

「今は流都くんのことを聞いてるんですっ」

「はいお付き合いしたいです」

 ひとつひとつの流都くんの言葉にどきどきしちゃってる私。

「……なんで?」

「なんでって……好きだから?」

「そんなに……好き?」

「好きだ」

 ああっ、今ものすごくどきっと。私無理ぃなあのどきどきにやっぱりなりそうなので、いったん離れましょう。今回はすぐ離れることができた。

 でも座ってた流都くんが立ち上がった。私より身長が高い流都くんが、私をちょっと上から見つめてくれている。

「俺は、雪乃のこと……好きだから」

(わかったからあんまり言わないでっ……)

 言われるたびにどきどき。

「俺、女子と付き合ったことなんてないけど、でも雪乃と付き合ったら、きっと楽しいと思うんだ。俺だけじゃなく、雪乃も楽しませられると思う」

 だれともお付き合いしたことなかったんだ。

「今はまだぎこちないかもしれないけど、もし高校一緒にいけたら、自然な感じで……つ、付き合えるんじゃ、ないかな……一緒の部活入ったりして……さ」

「私、バックギャモン部に入るの?」

「そ、それはまぁ、その時一緒に考えよう」

 ひたすらバックギャモンをするんだよね? 私そんなに強くなれるかなぁ。

(この目の前にいる流都くんと、かぁ……)

 流都くん、かっこいい……かな。一緒にいて楽しいし、いっぱい誘ってくれるし。手も……つないでくれるし。私みたいなのんびりさんには、流都くんみたいに引っ張っていってくれる人と一緒がいいのかな。

(あれっ。私またくっつきたい気持ちになってる……)

 さっきは好きかどうかを確かめるためにくっついたのに、今は単純にくっつきたいっていう気持ちになっちゃってる。その気持ちを意識したら、もっとくっつきたい気持ちがやってきて……。

(これが……好き、っていうことなのかな)

 もっかいくっついちゃお。

「ゆ、雪乃っ?」

(……うん……これ、幸せかも……)

 私、流都くんに決めちゃって、いいのかな……。

(本当に本当に、いいのかな)

「流都くん」

「なんだ?」

「最後にアピール……どうぞ」

「アピール? えーっと、そうだなー……」

 私は抱きつきながら流都くんに言ってみちゃった。私の背中に流都くんの手が優しく触れた。

「だれよりも雪乃のことを楽しませる自信があります。今まで接点そんなになかったけどこれから持てていけたらいいなと思います。水着かわいいです」

「こらっ」

「雪乃と一緒にいろんな思い出を作っていきたい。本当に雪乃と一緒にいるのが楽しくて、雪乃の仕草とか表情とか見てるとこっちも幸せな気持ちになってくる。こんなに気が合うんだから、俺は必ず雪乃を楽しませられると思うんだ。だから……俺、川音流都と付き合って……できれば一緒の高校行きましょう。いや高校違っても俺、川音流都と付き合ってください」

 流都くんの言葉が私の胸に届けられました。

 流都くんは真剣さと優しさが混じった、とてもすてきな表情を私に向けてくれてる。

「流都くんっ……」

 私はまばたきをした。流都くんはここにいる。

「……ほんとに、私でいいのかな……」

「宛名間違ってたか?」

 私はちょっと笑いながら首を横に振った。

「流都くんっ」

 私の胸は、流都くんでいっぱい。

「……よろしくお願いします、流都くんっ」

 ありったけの想いを乗せて、私から流都くんの唇へ重ねにいった。

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