第十三話  えっ? 私も混ざるの?

「お電話代わりました、雪乃です」

「ああ雪乃、俺。川音流都」

 お母さんから受話器を受け取ると、流都くんの声が聞こえてきた。

「こんにちは」

「こんちはっ」

 本当に流都くんと接点多くなったなぁ。

「どうしたの?」

「実はさー、男子にはだいたい声かけたのに、どうしても四人目が集まらなくてさー。で、雪乃もしひまだったら、うち来て遊ばないかーって思って」

「私が四人目? 他はどんなみんなが集まってるの?」

「俺、将、秀作。みんなクラス一緒だろ? でも男子ばっかだからなー」

「私は大丈夫だよ」

「まじか! じゃ俺ん家に来てくれるか?」

「うん、行く」

「さんきゅ! ったく将がどうしても麻雀やりたい気分とか言い出してさー。その流れで秀作はモノポリーやりたいとか言い出すし」

「どっちもやり方を知ってるだけで、私強くないよ?」

「楽しんだもん勝ちさっ。てかどっちも知ってるんかよっ。それじゃ、待ってる」

「はい」

 私は受話器を置きました。

「流都くんのおうちに行ってくる」

「気をつけてね」

 私は準備に取り掛かりました。


 今日は白いワンピースだったので、カバン持ってそのまま出てきた。

 八月は暑いよね。


 流都くんの家に着いたのでインターホンをぴんぽん。

「はい」

「桜子雪乃です」

「ああっ」

 ガチャリという音が聞こえてそのまま待っていると、流都くんがドアを開けて登場した。やっぱりジーンズ。

 流都くんが手招きしているので、私は玄関まで。

「こんにちは」

「こんちゃ」

 今日も流都くんはお元気そうです。夏バテなりませんように。

「おじゃまします」

 流都くんが上がるようにうながしてきたので、私は川音さん家に上がりました。横井田くんと日向くんの声が聞こえる。

「今日暑いから居間で遊んでんだ」

 と流都くんが言って、リビングに入るとひんやり。

 すぐに横井田くんと日向くんを発見。

「こんにちは」

「やあ桜子さん」

「おーっす桜子ー!」

 ほんとだ、男の子ばっかり。髪長いのも私だけ。

 日向くんは水色の長袖シャツに茶色いズボン、横井田くんはオレンジに黒色の文字が入ったシャツにちょっと短い濃い緑色のズボン。ワンピースなんて私だけ。

(あれっ。日向くんと横井田くんって、遊ぶの初めてだよね?)

 小学校のときあったかなぁ……。

「桜子さんって、麻雀のルールわかるかい?」

「やり方を知ってるだけだけど……」

「おーっしゃ席決めしよーぜー! 流都お前さすがだよなー、桜子が麻雀できんの知ってたのかー?」

 四角いテーブルの上にはすでに麻雀のマットが敷かれてあって、牌がばらまかれてあった。牌の後ろはオレンジ色だ。

「いや、知らなかった。でもバックギャモンは知ってたから、もしかしたらってね」

「お父さんから一通り教わったの。麻雀に限らずこういう遊びは親戚とすることが多いから、ルールだけならいろんなゲーム知ってるよ」

「お~! また人数足りなかったら来てくれよ~!」

「うん」

 横井田くんともこれから遊ぶことになりそうです。


 席決めの結果、私の右に流都くん、前に横井田くん、左に日向くんが座る形になった。


「ところで秀作、お前今日は彼女んとこ行かなくてよかったのかよー」

「塾だよ」

「げっ。夏休みになってまで勉強するとか……」

「ははっ、確かにっ」

 うん、それは私もちょっと思うような……でもすごいと思う。

「桜子さんは塾行ってる?」

「ううん、私習い事してないの」

「そうなのか? ピアノとかしてそうだけど。あ、それポン」

「してない。ピアノできる人うらやましい」

 麻雀したのいつぶりかなぁ。

「桜子さんは吹奏楽部だよね。その分吹奏楽部を頑張ってるって感じなのかな」

「そうなるかも。私の取り柄はそれくらいかなぁ。はい、立直リーチっ」

「げ! 早くね!?」

 私は千点棒を置きました。

「桜子さんの取り柄なんてもっとあると思うけどな。これ通る?」

「通るっ。どんなところがある?」

「優しくて人想いなとことか」

「そんなに立派な人じゃないよぉ」

 日向くんほめすぎっ。

「おいおい秀作お前彼女いるんだ……ろっと!」

「通るっ」

「セェーフッ!」

「別にそれは関係ないじゃないか」

「安全牌っと」

「むぅ…………来ない」

 麻雀しながらおしゃべりするのも結構楽しいよね。よく考えたら男の子三人に混ざってしゃべるっていうこと自体が珍しくて新鮮だからっていうのもちょっとあるかもしれない。

「っていうか彼女彼女って、将にとってもクラスメイトじゃないか。よかった安全牌」

「彼女は彼女だろーがあ~! ったくあっちぃ夏にアツアツしやがってよぉ~! うわ~これ通んのかっ!?」

「通るっ」

「セェーーフッ!」

 横井田くんとゲームすると、表情や動きが楽しいね。

「彼女かぁ~。彼女がいるってどんな感じなんだ? はい安全牌」

「…………来ない」

「それもらっておこうかな、チー。そうだなあ……退屈はしないかな。いつも穂綾のことを考えるようになる。はいっ」

「いつも考えるようになる、か……」

 いつも、その人のことをっ……。

「かーまったくアツアツだねぇ! おっしゃオレ様も立直だぜー!」

「ロン」

「うぎゃあ!!」

立直リーチ平和ピンフ三色同順サンショクドウジュン、あ、裏ドラ。満貫8000点だっ」

「三色とかぐにぃーーー!!」


「流都は彼女作んねーのー?」

「俺かー? んー……秀作の話聴いてたらいてもよさそうかもって思うけど……そこまでの人はまだいない、かな……」

 好きな子本当にいないんだ。

(恋愛対象の話とかは出てた……けどっ……)

「将こそ彼女作らないのかい? 真っ先に作りにいきそうだけどな」

「オレぇ~? オレみたいなやつに彼女とかできるわけねーだろーないないっ」

 横井田くんは手でないないをしてる。

「桜子さんはどう思う? 女子目線で将のこと」

「横井田くんのこと?」

「うん。モテそうかい?」

「う、うーん……」

「ほら! ほらほらもうその反応の時点でさぁ~!」

「あ、ち、違うのっ。私あんまりそういうの考えたことなかったから……」

 答えなきゃっ。

「え、えっと。横井田くんは表情や動きが大きいから、見ていて楽しいと思うよ。そういうのが好きな女の子は結構いるんじゃないかな」

「そ、そうなんかー!?」

「うん。だからもうちょっと自信持っていいと思うよ」

 横井田くんは両手をぐーにして上を向いている。

「っていうことは桜子はオレのよさをよくわかってくれてるってことだよな!」

「えっ、ど、どうなのかな。どのくらいわかってあげられているかわからないけど、私はそう思ったよ」

 横井田くんのおめめきらきら。

「将の番だぞ?」

「桜子!」

「はい」

 横井田くんが体を乗り出してきた。

「オレと付き合ってくれ!!」

 どがしゃっ、と流都くんがひざをテーブルに当てたのか、さらに自分の牌を三個倒しちゃった。

(えっ、ええ~~~っ?)

 私は思わずぐーを作って胸の前に持ってきちゃった。流都くんも日向くんも私のこと見てる。

(あ、え、えっとえっと、えっとっ……お、お返事、しなきゃっ)

「……ごめんなさい」

「うわぁーーー!!」

 ああっ、牌崩しすぎっ。日向くんは横井田くんの肩をたたいてる。流都くんの視線は私と横井田くんとを行ったり来たり。

「オレのことわかってくれてたんじゃないのかー!」

「だって、私、横井田くんのこと、好きじゃないし……」

「オレと付き合ってから好きになるかもしれないぞ!?」

(横井田くんと付き合うと、横井田くんのことを好きになる……)

 うーん………………。

「……ごめんなさい」

「うおぉわぁーーーーー!!」

 また日向くんは横井田くんの肩をたたいてる。

「ゆ、雪乃ってさ! ラブレター書いたら告白受けてくれるかもしれないんだよな!?」

「えっ? う、うん……」

 ここでそのお話出すの?

「うお!? よっしゃあ桜子今からラブレター書くからオレと付き合ってくれー!」

「ごめんなさい」

「のぉーーー…………」

 日向くんは横井田くんを慰めてる。流都くんは私と視線が合うと、あははな表情。

「わ、私は横井田くんのこと、そういう恋愛対象にまったく見えないけど」

「ぐはっ!」

「で、でも、きっと横井田くんのことが恋愛対象な女の子は、いると思うよっ」

「ぐぅっ……こんなみじめな思いをするくらいなら、告白なんてしない方がさ……へへっ」

 ああ、横井田くんの表情がっ。

「ま、まあさ、それでも彼女いると楽しいからさ、将はこれに懲りずに女子にアタックしたらどうだい?」

「オレなんて一生彼女できないんだーーーうわぁ~~~ん!!」

 あぅ。

「雪乃、気にしなくていいからな。将、こういうやつだし」

「あ、う、うん……?」

 次々に女の子に告白してるの?

「よし将、次将の番だ。振られた相手と麻雀できるなんて貴重な体験していこうぜ?」

「ぐっ……ぐすっ……わーったよ……くっ……ほらよ」

「雪乃、なんかすまんな、こんなことに巻き込ませて」

「ううん、大丈夫。むしろ……私こそ、横井田くんの想いに応えられなくて、ごめんなさい」

 私はもう何度目なのか、また頭を下げました。

「……フッ。桜子。いい思い出を、ありがとうな……フッ……」

 お、男の子って、やっぱりよくわからないなぁ。


 それからしばらく四人でいろんなアナログゲームをした。楽し……かったのかなぁ?


 横井田くんは日向くんと一緒に先に帰ることになったので、玄関で見送った。

 ドアが閉じられると、私の横に流都くん。

 私は流都くんを見た。流都くんもこっちを向いた。

 家族のみんなが出かけているらしいから、今この家にいるのは私たちだけ。

「なんか、すまん、なっ?」

「ううん、大丈夫」

 でも……なんていうか……

「でも、やっぱりああやって、気持ちを伝えてくれるのは……うれしかったかな」

「迷惑じゃないのか?」

「ううん。やっぱりうれしいよ。と、突然だったから、どこまで本気だったのかはわからないけど」

「本気半分勢い半分ってとこなんじゃね?」

「そ、そうなのかなぁ」

 やっぱり男の子って、よくわかりません。

「でもあいつ、雪乃のことを好きとか、そんな話したことないけどな」

「ふぅ~ん」

 ふぅ~んです。

「……で、でもさ。雪乃があれでOKしたらどうしようかとも思ったよ」

「どうして?」

「だって。そしたら……」

 そしたら?

「さ、誘いづらくなる、だろっ?」

「流都くんは、そんなに私と遊びたい?」

「おぅっ。遊びたい」

 素直でよろしい。

「結局お付き合いしなかったので、これからも誘ってください」

「ああ」

 流都くんとはこれからも遊びます。

「…………雪乃っ」

「なに?」

 ……あれっ。私の名前を呼んで、私を見てきてるだけで、なにもない。

「……なんていうかさ。その……」

 なんでしょう?

「……ほ、ほんとまじで、将と付き合ったらどうしようかと思った」

「ごめんなさい」

「ははっ」

 うーん?

 それからも流都くんは私を見ています。

「なに?」

 あれっ、今の流都くんは、なんかちょっといつもより真剣な顔になってる気がする。

(私さっきのやり取りで何か変なこと言っちゃったのかな?)

「ゆ、雪乃っ」

「はい」

 ここで流都くんは……右手?

(これは握手しましょうということなのかな?)

 私も右手を出して、にぎにぎ。流都くんの温もりが伝わってきます。

「これなに?」

「あ、いや……特に深い意味は」

 よくわからないけど、にぎにぎしておこう。

「雪乃はさっ。か、彼氏作りたいとか、思わないのか?」

「うーん。あんまり思わないかなぁ」

「そうなのかっ」

 流都くんがちょっと握る力を強めた。

「でもそれはどうしても作りたくないとかじゃなくって、積極的に作りたいとは思わない~というくらいだから、彼氏さんは……いてもいなくても、どっちでも……」

「そうなのかっ! ゆ、雪乃なら必ず彼氏できるよな!」

「ええっ? そうかなぁ?」

「こんだけかわいいんだから絶対! ぅあっ」

「えっ?」

 い、今……流都くん……

「きゃ、客観的に見てな!? そう、客観的に見てさ!! 雪乃はそれだけいいやつってことだよ!!」

 でも、今……流都くん……

「……もう一度、お願いします」

「は!? な、何をっ」

「さっきの言葉、もう一度、お願いします」

「……客観的に?」

「の前っ」

 私は流都くんを見つめます。

「…………あれー? 記憶力最近おかしいのかなー。忘れちゃったーぜーははー」

「……流都くんがそう言うのなら、さっきのは……空耳、かな?」

「お、おうおう! きっと空耳だな! ああ! さーてリビング戻ろうぜー雪乃もうちょっといてくれるよな?」

「うん」

 今……でも今……

(私、すっごくどきっとした)

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