第二話  学校生活の愉快な仲間たち

「おっはよう雪乃~!」

「おはよう、敬ちゃん」

 朝登校するとき、朝練じゃない日にいつもの交差点で会う野々原敬ちゃん。

 身長が高くてすらっとしてる陸上部の女の子。いつも元気いっぱいだからこっちも元気が出てくる。夏服の制服がとってもお似合い。

 肩くらいまでの髪の長さだけど、いつもひとつにくくってる。

「そろそろテストだよぉ~。やばいよーどうしよー」

「頑張るしかないかなぁ」

「そーだけどさぁ……はぁ。あたし頭悪いのに毎回テスト親に見せなきゃいけないから、テストがたまらなくつらいんだけど……」

「頑張ろうっ」

「はいはぁーい……」

 顔ががくっとなっている敬ちゃん。前向いて歩かないと危ないよ?

「ねね雪乃、最近思ってることあるんだけどさー」

「なに?」

「なんかさ。川音と結構しゃべってない?」

「うん、流都くんとは仲良しだもん」

「え! まさかそれってー、恋~っ!?」

「ええっ?」

 いきなりそんなこと言ってくるなんてっ。

「ど、どうなのかなぁ……私よくわからないし……」

「もし雪乃が恋してるんだったら、あたし応援するから!」

「あ、ありがと、でもまだわからないよ?」

「じゃさ! デートしたことあるの? で・え・とっ!」

「で、でえとだなんて、そんな……」

 敬ちゃんがとても目をきらきらさせています。

「一緒にお出かけしたことなんてないよ。遊んだことならあるけど……」

「あるの!? それもうデートじゃない!?」

「そんなっ、ただ私の家でボードゲームで遊んだだけだよ?」

「ええーーーっ!!」

 あ、耳がきーん……。

「そ、そそそれはもうおうちデートというやつですよ雪乃さん!!」

「そ、そうなの? 楽しかったけど、その……こ、恋っぽくはなかったと思うけど……」

「あたしも結構ぼけーっとしてるけどさー、雪乃ってそんなに鈍感なのー? 雪乃しっかりしてると思ったら、そういうとこ鈍感なんだねーかわいいなぁーこのこのー!」

 ひじでうりうり攻撃されてる。

「鈍感って~……それに、流都くんがそういうの考えているかもわからないし」

「男なんてもんは女に寄ってなんぼのもんよ!」

 敬ちゃんって女の子だよね?

「敬ちゃん女の子なのに詳しいね。どこで知ったの?」

「マンガ!」

 あ、マンガだった。

「もしさ! もし川音から告白されたらどうすんの!?」

「こ、告白っ!?」

 告白とか、そんなの……まだ……。

「もしもの話よ! どうするの? 受けるの? 受けるの? それとも受けるのっ!?」

「それ受けるしか選択肢ないよ……でも、ど、どうなのかなぁ……」

(告白、かぁ……)

「……そ、その時考える、かなぁ」

「あーん女子トークたまらなーい!」

 楽しそうでなによ……り?

「敬ちゃんは、その、す、好きな男の子とか、いるの……?」

「あたし? いないいないっ。そもそもこんなデカい女モテるわけないじゃーん」

「そんなことないと思う。すらっとしててかっこいいよっ」

「ありがと! でもねーそれって女の子からは言われるのよ。雪乃にわかる? 背の低い男子を見下ろしてるときの女子の気持ち」

 そこだけすごく真剣な眼差し。

「わ、わからないけど……でも敬ちゃんくらい大きい女の子って珍しいし、スポーツできてかっこいいから、モテると思うよ?」

「そっかなぁ? てか雪乃ほめすぎぃ!」

 私は魅力的だと思うけどなぁ……。

「す、好きなタイプとか……ある?」

「うぅーん……なんだろー。一緒にいて楽しかったらそれでいいかな?」

「うん、それは私もいいな」

「あとはまぁ、あたしこんながさつな感じだから、しっかり引っ張ってくれるやつとか、いいかもねー?」

 表情は豊かだけど、そんなにがさつなのかな?

「雪乃は川音と一緒にいてて、楽しい?」

「うん。この前遊んだときは楽しかったかな」

「つーまーりー?」

「まだわからないってばぁっ」

 今日も敬ちゃんとおしゃべりしながら登校しました。


「おはよう。雪乃さん、ちょっといいかしら?」

「おはよう知尋ちゃん。なに?」

 教室に敬ちゃんと一緒に入るなり、知尋ちゃんが私たちにおはようしてくれたけど、私だけ呼ばれちゃった。

 林延寺知尋ちゃんは、髪がさらさらで長くて、天然の栗毛。私よりちょこっと身長が高くて、私と同じ吹奏楽部。フルートパートの女の子。

 いろいろ習い事をしていて大変だって言ってるけど、それでも習い事も部活もこなす頑張りやさん。おうちがとても広いって他の女の子が言ってるのを聞いたことがある。

「まだ先のことだけど、今度の夏祭りに演奏するとき、各パートに何かしらのソロ・ソリパートを作るという話が出たわ。もちろんファゴットも対象なのだけど、どうかしら」

「本当に? うん、ぜひやってみたい」

「わかったわ。そのつもりでお願いね」

「うん」

 知尋ちゃんは自分の席に戻っていった。

「吹奏楽部ってかっこいいよねー」

「そう? 運動部の方がかっこいいと思うよ」

「あは、ないものねだりってやつかな? じゃね!」

 敬ちゃんも自分の席に向かっていった。

(はぁ、朝から敬ちゃんが恋のこととか聞いてきたから、いきなりちょっと疲れちゃったかも)

 私も自分の席に

「きゃっ」

「おはよ~ゆのん~」

 向かおうとしたら、登校したばかりの峰館みてたて 穂綾ほあやちゃんと軽くぶつかっちゃった。

「おはよう、穂綾ちゃん」

 穂綾ちゃんはぽわぽわしてる感じかな。いろんな人にいろんなニックネームをつけて呼んでる。

 身長は私よりも少し小さくて、髪は肩くらいのところでふわっと内側に少し巻かれてる。寝癖がひどいから毎朝アイロンしてるって聞いたことがある。

 美術部なのですっごく絵が上手で、体育祭のときの応援旗を描いたことがある。

 あ、穂綾ちゃんはそのまま自分の席へ。まだ寝起きでぼーっとしてるのかな。でもいつもあんな感じといえばそんな気もする。

 ということで、改めて自分の席に着いた。

 一時間目は国語。あ、便覧取ってこなきゃ。結局また立つことに。

 私は後ろのロッカーに行って、便覧を。

 がさごそしていると、突然私のすぐ横に便覧が落ちてきた。

 見上げると横井田よこいだ まさるくんがこっちを向いていた。落ちた便覧に書いてある名前も横井田くんだったので、私は拾って手渡すことにした。

「はい」

「さんきゅ!」

 横井田くんは右手を縦にして、左手で便覧を受け取るとそのままロッカーから離れた。手が滑っちゃったのかな。

 横井田くんは髪がかなり短めのバレー部。流都くんより身長が大きかったと思う。

 そういえば流都くんとよくしゃべってる男の子だった。廊下とかで一緒にいるのをよく見かける。

「おはよう、桜子さん」

「おはよう」

 今度は日向ひむかい 秀作しゅうさくくんが声をかけてきた。あ、私の下のロッカー日向くんだもんね。私は横によけると日向くんは便覧を取り始めた。

 日向くんは……何部だったかな?

「日向くんって、何部かな?」

「僕は科学部だよ。桜子さんは吹奏楽部だったよね」

「うん」

 便覧が取り出された。

「吹奏楽部の引退っていつなのかな」

「文化祭だから、十月かな」

「そうなんだ。体育祭も演奏するから、夏休み明けは忙しそうだね」

「夏休みもコンクールに出るから、期末テストが終わってからいつも忙しいよ。でもちゃんと夏休みにもおやすみの日はあるよ」

「なるほど。それに比べて科学部は楽してるよなぁ……特に大きな大会とかはないし、他の学校と交流はあるけど、大きなイベントは文化祭ひとつくらいだし」

「いろいろと覚えないといけないことが多そうで、大変そうに見えるかなぁ」

「それはそうだけど、特別な技術とかはないから、吹奏楽の方がよっぽど大変だと思うよ」

「そう?」

「うん。夏バテとかしない?」

「私はないけど、部員がたまになるときがあるよ」

「桜子さんも気をつけて」

「ありがとう」

 日向くんは立ち上がって、自分の席に向かっていった。

 日向くんは横井田くんよりも身長が高い。このクラスの中でかなり高い方。横井田くんや流都くんよりは細いかなぁ。やっぱり男の子らしく髪が短い。

 私は今度こそ自分の席に座ることにする。

(やっと一息)

 国語の準備を机の中にしまって、朝の会が始まるまで待つことに。

 と思ったら、私の右肩が優しくたたかれた。

 振り向いたら、

「おはよ、雪乃」

「おはよう、流都くん」

 流都くんでした。

 手をちょっと上げた流都くんは、そのまま自分の席へ。

(……どきどきした? ちょっとしたような気はするけど、たたかれて驚いただけかもしれないし……)

 たまにああやって肩をぽんぽんしてくる流都くんだから、それも慣れているとは思うけど……でも他の男の子は、私の肩をぽんぽんなんてしてこないし……。

 とにかく、今日も元気にこのクラスで学校生活の一日を頑張っていきたいと思います。

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