8-4

 ミカサと遭遇する少し前、センターモニターで暮無くれないヒビキが見ていたライブ中継、そこに映し出されていたのは――。


(あれもレッドダイバーと言う事か)


 テレビアニメ化されたアレンジ版を土台にして更にアレンジしたシャープなレッドダイバーだったのである。


 自分は特撮版をベースにしているが、再現度を上げつつも100%と言う訳ではない。下手に完全再現しようとすれば、それこそ炎上案件だ。


(それにしても、本当にコラボするとは――)


 コラボに関して彼は何も言う事はない。どちらもレッドダイバーであり、それ以上でもそれ以下でもない。


 下手に揚げ足取りなどをしようと言うのであれば、SNSが炎上するのは言うまでもないだろう。


【どう考えてもアレなのでは?】


【レッドダイバー事件に便乗したとしか言えない】


【公式が病気なのか?】


 ヒビキは特に指摘する気もないのだが、SNS上では悪質な便乗宣伝と言ったようなコメントが拡散している。これは明らかに特定勢力を拡散しようという可能性も否定できないだろう。


 それからしばらくしたタイミングだった。気付かない内に、ミカサが自分に近づいてきていたのは。



 ライブ映像終了後、ギャラリーの方も解散と言わんばかりに減っていく。どうやら、本物のレッドダイバーが現れたと思っていたらしい。


 結果として、プレイ自体は本物寄りは上手く見えたのだが、それでも本物を見た事ある人物からすれば『あまりにも上手過ぎて、違和感を持った』と言う事の様である。


「とりあえず、名乗った方がいいかもね。私の名前はミカサ。バーチャルアイドルとしては少し名前が拡散している方かな」


 ミカサと聞いても、ヒビキは特に反応しない。バーチャルアイドルに興味がないという訳ではないのだが、名前を聞いてもさっぱりだった。


 数人ほどは聞き覚えのあるアイドルはいるかもしれないが、あまりにもメジャーな所だけでマイナーアイドルは興味がないという事なのだろうか?


(ミカサ――ゲーマーの方じゃないのか)


 ヒビキはゲーマーとして有名なミカサが浮かんでいた。名前的にも被りが多いとはいえ、これは向こうにとって想定外だろうか。


 しかし、ヒビキがミカサの話を聞く態度はまじめであり、彼女の話その物をスルーしている訳でもない様子。


「ヒビキ――暮無ヒビキ」


 ミカサも名乗った以上、こちらも名乗らないと逆に失礼だと判断したヒビキは名前を名乗るのだが。


「紅――えっ?」


 ミカサの方も逆に驚いている表情を見せたので、伝言ゲームでもミスをしたのだろうか――と思ってしまう。


 確かにミカサは様々なプレイヤーネームで目撃するのだが、自分の名前が他に使われた形跡はないはず。


「どうした?」


「ちょっと、ね。こっちの勘違いだから気にしないで」


 ミカサは勘違いと言っているが、どう考えても何かを知っている節がある。彼女もSNS上で言及されているヤルダバオトの刺客なのか? 仮にそうだとしても、ここまであからさまに接触するとは考えにくい。


 少し前に現れたヤルダバオトの刺客を名乗った人物も、かなりのかませ犬な気配はしたのだが――ミカサの様に自ら名乗るような事はなかった。それを踏まえると、彼女はヤルダバオトとは無関係と考えるのが良いのだろう。


「君に接触したのは、お誘いがあって来たのよ」


 やはりというか、ミカサはこちらへ接触してきた理由があった。自分がレッドダイバーと分かっているのか、それとも別の理由か?


 とりあえず、彼女の話を聞く事にする。ここまで言った以上は、最後まで聞いておかないと後悔するタイプかもしれない。


「暮無ヒビキ、あなたにリズムゲームプラスパルクールのチームに入ってもらいたいのよ」


 まさかの展開だった。確かにチームと言うシステムがあるのは公式ホームページでも言及されている。


 しかし、自分はチームを組まずにソロでプレイを続けたいと考えていた。チームを組まなくてもゲームのクリアには影響がない。


 RPGやFPSと言ったようなジャンルではギルド等を組んだ方が有利とは聞く。しかし、リズムゲームでは特にチームを組むメリットがないだろう。


 逆にリズムゲームはマッチングという要素が強いので、チームは足かせになるという声もある。


(確かにチームと言う概念はどのARゲームにもあるが、リズムゲームでメリットがあるとは――)


 ヒビキはミカサとチームを組む事に対して否定的な考えを持っている。むしろ、単独行動の方が有利に動けることだってあるだろう。


 それに、リズムゲームではチームよりもライバルと言う位置づけの方が強いかもしれない。ハイスコアを競い合うという意味でも。


「すぐに答えを出してほしいと言わないけど、出来るだけ早い内に応えが欲しいかな」


 そう言い残し、ミカサはいつの間にか姿を消していた。バーチャルアバターなので、厳密にはログアウトをしたというべきか。


 しかし、建物内でログアウトして不審者とでも思われたりしないのだろうか? 実際にはこのアンテナショップは入場料等を取っている訳ではない。


 中には漫画喫茶などのように入場料を先に請求し、それから入場できる場所もあるのだが――。



 ミカサの方は、やはりというかログアウトしたようである。彼女のいる場所は、谷塚駅より徒歩五分弱の距離にあるゲームセンターだ。大手のゲーセンと言う気配らしく、扱っている機種の数も多いだろう。近くにはパチンコ店もあるような場所だが、客足はゲーセンの方がはるかに多いかもしれない。


 そこに設置されているバーチャルアイドルのゲーム筺体で今までの様子を見ていた。いわゆる、遠隔操作と言うべきか。もしくは、あのバーチャルアイドルアバターもゲームの駒と言う事か?


 アバターの遠隔操作と言う割には、レバー操作、インカム等とFPS辺りをイメージする筺体のデザインをしている。これで一定時間まで百円というから価格破壊もいい所だろう。客足が多いのはこの為か?


「彼が噂のレッドダイバーとは限らないか」


 身長は一六〇位、体格が少しぽっちゃりでアバターとは少し違うような気配もする。それに、アバターと決定的に違うのはピンク髪のツインテールだという事。かつらである可能性も捨てきれないが――コスプレイヤーだろうか?


 服装がARゲーム用のインナースーツなのに加え、上着はジャケット。アバターのイメージとは全く違う服装でもあった。

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