8-2

 アンテナショップのネットカフェゾーン、そこでは暮無くれないヒビキとユーウェインが偶然の遭遇をしていた。


 ユーウェインはヒビキの姿を見て、誰なのか把握するのに時間がかかっている一方で、ヒビキは即決で分かったのは認識の差だろうか?


(ゲーマー同盟のユーウェイン? どうしてここに――)


 ヒビキは壁に映っていたユーウェインを見て若干驚くのだが、それを顔に出す事はない。下手に表情を出せば、即座に警戒していると分かってしまうからだ。


 一方のユーウェインはヒビキに関しては完全にノーマークと言えるだろう。むしろ、ガーディアンとは無関係だとしても――彼がレッドダイバーだとは気付かない。


 ユーウェインの方は何も気付くことなく、そのままヒビキの前を通り過ぎる。その間に誰かと連絡を取るような動作もなく、単純に通過しただけだった。


(通り過ぎていくようだ。一体、何をする為に来たのか)


 ゲーマー同盟がレッドダイバーに興味を持っているのかは不明だが、SNS上では様々な考察も存在していた。


 それを踏まえると、様々な勢力が先にレッドダイバーと接触しようと考える。何をする為なのかは、おおよその察しは付くのだが――。



 同じアンテナショップの外、そこでは誰かを待っていると思わしきぽっちゃり体型の女性がいたのだが――よく見て見ると、彼女は人間ではあり得ないような症状を発生させていた。


(この周囲って、やっぱりノイズが――)


 以前にも草加市を歩いていた際も似たような症状があったので、もしかして――と考える。服の方はノイズの影響は受けないが、腕や脚は若干のノイズが入っているのかもしれない。


 しかし、この場合は携帯電話で言う所の圏外と似たような物であり、データ送信の現界なのかも、と。それだけ、莫大なデータを彼女は転送させているのだ。


(――と言っても、今からここへ向かうにしても三〇分以上はかかりそうだし)


 悩んだ末、彼女はそのままアンテナショップ内に入る事にした。彼女の外見はメイド服であり、特に怪しい服装ではないのでそのままアンテナショップには入られる。


 彼女の様な存在を、アンテナショップのスタッフも不審者とは思わない。むしろ、こうした来客がある事自体がイレギュラーなのだろう。


「まさか、バーチャルアイドルが来店するとは」


「草加市内で何かロケでもあるのか?」


「まさか? バーチャルアイドルでも草加市内であればある程度はフリーに歩けるはずだ」


「どういう仕組みなのか」


「いわゆるバーチャル旅行みたいな物だ。リアルで買い物とかは出来ないが――」


 周囲のギャラリーも、彼女の来た事は驚くのだが、それ以上の指摘などをする事はない。


 むしろ、歓迎ムードと言うべきか。草加市内はコスプレイヤーだけでなくバーチャルアイドルのような2.5次元的な人物も歓迎する様だ。


(とりあえず、そのまま入る事にしましょう)


 悩んでも仕方がないので、彼女は自動ドアの前に立つ。すると、自動ドアは目の前に人が来たと認識し、ドアが開いた。


 これには周囲の通行人等も驚いており、勝手にドアが開いたと認識している人もいる。


 それもそのはずだろう――バーチャルアイドルを見る為には、ARガジェットか別のコミュニティツール、ARゴーグル等が必要になるのだから。


 こうしたシステムにしたのも草加市の方だが、アプリを導入しないとバーチャルアイドルを見る事が出来ないのも不便と言えるだろう。


 しかし、そうでもしないとリアルのアイドルみたいにパニックが起こりかねない。それを防ぐ為の手段が、専用ツールでしか見る事が出来ないようにする事だった。


【あのミカサが来ているらしい】


【草加市の方で目撃情報が拡散されているぞ】


【まさか? バーチャルアイドルでも草加市に行けるというシステムは噂になっていたが――本当か?】


【バーチャルアイドルと言うと、テレビ番組のロケか?】


【ロケではないだろう。草加市の場合は――もっと違う何かだ】


 SNS上でも目撃情報があっという間に拡散する。しかし、それでもパニックにならないのには一般市民には何のことかわからないからだ。


 実際にアイドルの姿が見えない事には、何が起こっているのか見当がつかない。一般市民は、この話題を見てもフィクションと思うだろう。

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