7-4
唐突な雨が降る事はなく、クー・フー・リンのプレイは始まった。コースの距離は表示されていないが、楽曲の長さによって設定される。
その為、楽曲を演奏した上でゴールをする事が求められるのだろう。楽曲の演奏が終わっていない段階でゴールをしても問題はないが、ボーナスに影響すると言ってもいい。
(マッチングは――)
彼女はARバイザーでチェックをするのだが、特にマッチングに入るプレイヤーはいなかった。
同じ楽曲をプレイするプレイヤーがいなかった訳ではなく、単純にマッチングルール的な事情かもしれない。
(楽曲はレベル3で、誰も来ない? もしかして――)
他のプレイヤーが来ない事に対し、タイミングを間違えたのか――とも考える。
ソロプレイでも問題はないゲームかもしれないが、この手のゲームはマッチングがあるとないでは盛り上がり方が変化するだろう。その典型例がレッドダイバーとも言えるかもしれない。
彼女のプレイは特に妨害等が入ることなく、すんなりと終わった。逆にトラブル等もなく終わるのが不思議な位だが――ARゲームでは、こうした光景はよくあるらしい。
ARアーマーが特に事故防止の為に開発された経緯もある為か、転倒事故の類が起きたという報告はないようである。
プレイに関しては、特に可もなく不可もなく――要するに平凡だったという事だ。これが素人プレイヤーであれば、上手く行ったというべきか。
しかし、彼女はいわゆるプロゲーマーの領域にいる人物のはず。それが、こう言う結果に終わるのは別の意味でも悔しいものがあるだろう。
彼女の場合、そこまで人気を気にする様な事はなく、むしろバズる事を目的にSNS炎上をするような勢力とも一緒にされる事を苦手としている。
(こんなものか。むしろ、初見でこのレベルは見飽きたという認識なのか)
周囲のギャラリーを見て、特に注目する様子がない空気を見たクー・フー・リンは当初の目的を達成し、別のエリアへと向かう。
ARアーマーは解除せずにそのまま別エリアへ向かうつもりだったが――。
「他のエリアを経由するのであれば問題ありませんが、ここの場合は一度スーツを解除してからエリア移動をお願いしております」
男性スタッフに呼び止められ、スーツを解除する以外の選択肢はなくなっていた。別のARゲームエリアから移動するのであれば問題はなかったらしい。
エリアマップを見る限り、確かにリズムゲームプラスパルクールのエリアと別エリアでは、コスプレはOKでもARアーマーの着用が制限されているエリアがあった。
スーツを解除するエリアは、道路脇の歩道に設置された端末を使用するようだ。それ以外にも装置はあるが、別のARゲーム用で今回は使用しない。
スタッフに誘導されて端末までたどり着き、そこでARアーマーを解除する。別のARゲームでは自由に解除する事は可能だが――。
スーツを解除したクー・フー・リンは、しまっておいたマスクを着用し、別のエリアへと移動する事になる。
(エアプレイで炎上する様な情勢では、一度でもプレイしておけば)
ARゲームで動画等を見ただけでプレイした気分になる――他のゲームでも目撃されるようなエアプレイ勢は、ARゲームでは特に歓迎されない。ARスーツを着用しなければ危険と隣り合わせになる事も理由の一つだが、彼らが誤った情報をまとめサイト等に提供し、炎上させるような行動を起こすのは明らかだからである。
だからこそ、ARゲームのジャンルによってはARスーツの着用が必須、危険なプレイを禁止等のルールを決めていた。
要するに、ジェットコースターなどの絶叫マシンにおけるベルトや固定バーといった役割をするのが、ARゲームではARスーツやARアーマーと言ったガジェットなのである。
その一方で、別の場所でまとめサイトの記事を見ている人物がいた。今回は様子見と言う事で未プレイだった
シオン自体も他のフィールドでリズムゲームプラスパルクールをプレイする予定だったが、クー・フー・リンのライブ中継を見て気が変わったのだ。
(まさか、あのクー・フー・リンも?)
仮に同じ名前のプロゲーマーだとしたら、相手が悪すぎるだろう。レッドダイバーだけでなく、プロゲーマーまで進出しているのである。
さすがにリズムゲームプラスパルクールで公式プロゲーマーは存在していない。運営側も色々と準備をしているのだろう。
しかし、情報の拡散するスピードは非常に速く、ライブ映像を見てからわずか一分もたたない内にプロゲーマーのクー・フー・リンがプレイしていた事実が拡散していた。
これにはシオンも驚くのだが、特定される速度の速さが明らかに怪しいレベルと言わざるを得ない。
(誰かが個人情報のリークをしているのか? もしくは――?)
色々と疑問に思う個所もあるのだが、それを忘れさせるようなニュースをシオンは発見した。
それは特撮版レッドダイバーと若干似ているかもしれないが、全く違う様なデザインのレッドダイバーである。
これだけシャープすぎると逆に認識できないのではないか――とシオンは思ったが、特に名前が晒されている訳でもない。
あくまでもレッドダイバーとそっくりなアバターが実装されているというニュースなのだ。むしろ、これをレッドダイバーと認識する特撮ファンはいないだろう。
これを逆にレッドダイバーとして情報を拡散するとすれば、雑コラ等でも拡散してバズる事を目的としているアカウントの持ち主とか、炎上勢力しかいない。
(このタイミングで、このアバターは――)
思う所はあるが、まずは様子を見る事にした。下手に無知のまま情報を拡散すれば、それこそバズる事を目的に情報拡散をするパリピと変わりない。
特定コンテンツを炎上させ、自分の推しコンテンツをアピールする為のネタとして、今回のレッドダイバーが悪用される事も否定できないだろう。
今回のレッドダイバーは、シャープなデザイン等からネオ・レッドダイバーと呼称される事になるが、それが判明するのは別の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます