3-7 修司とのひととき
真智子は自分の部屋に入ると修司に電話をかけ直した。修司は真智子からの電話を待っていたようで、すぐに電話に出た。
「今日、時間作れるよ。久しぶりにファミレスで、一緒に夕飯でも食べようか」
「やった、ラッキー!じゃあ、今日は真智子のお祝いだから俺がおごるよ」
ふたりは真智子がサッカー部のマネージャ―時代に帰りに寄ったことがあるファミリーレストランで、待ち合わせの約束をした。
待ち合わせ時間の午後七時半より少し前に真智子は待ち合わせ場所のファミリーレストランに着いた。久しぶりに訪れた懐かしいレストランの前で真智子は修司が来るのを待った。春休み中のせいかレストランは家族連れなどの客で混雑していて、少々、待たされる感じだった。真智子は大人二名で予約するとなんとなく、中の様子をぼんやりと眺めていた。
「よっ、真智子、久しぶり!」
ほどなくして自転車に乗った修司がよく通る声で真智子に向かって声をかけた後、駐車場に自転車を置いて走ってくると真智子の隣りに並んだ。
「待った?」
「さっき来たところだよ」
「なんか混雑してるな」
「春休みだからね」
―修司とふたりきりで話をするのはいつ以来だったろう?と、真智子はふと思った。思えば、慎一と一緒にピアノを練習するようになって以来、修司とは疎遠になる一方だった。
「そうそう、忘れないうちに渡しておくよ。卒業祝の色紙。音大合格もほんとうによかったな、慎一と一緒に練習したかいがあったよな」
「ありがとう。色紙、後でよく見るね。なんだか、マネージャーしていた頃が懐かしいな」
「そうだな……。真智子がマネージャー、引退してから寂しかったけど、俺もいつの間にか、慣れたかな」
「大学行ってもサッカー頑張ってね」
「試合とか出る時には時間があったら、慎一とでもまどかとでもいいから、応援に来いよな」
「そっちこそ、演奏会の時は聞きに来てよ。時間があったらだけど……。大学入ったら、きっと、お互い忙しくてなかなかこんな風には会えなくなるよね」
「真智子さ」
「ん、なに?」
「また、何かあったら、いつでも連絡しろよな。いつでも相談に乗るから。今も守ってやりたいって思っているのはお前だけだから。真智子が真部とのこと、真剣なの、わかってるけどさ」
「修司は昔も今も大切な友達だよ」
真智子は修司の方をじっと見つめた。修司は真智子にじっと見つめられると慌てたように視線を逸らした。
「あのさ、俺だって、卒業の時第二ボタン、くださいって言われるくらいもてるんだけど、まだ、お前以上に思える女子、いないからさ。お前には慎一がいるだろうけど、一応、伝えとく」
修司がそう言ったところで、真智子たちの順番が呼ばれ、ふたりは空いたテーブルに案内された。ふたりはテーブルを囲んで座ると、メニューを出して眺めはじめた。メニューを見ながら、真智子がぽつりと言った。
「修司と話していると安心するよ。昔馴染みだし。大学入ったら、慎一ともなかなか会えなくなるし……」
「でもこれからも付き合うんだろ?」
「そうだけど、今までのようにはいかないと思う……。でも、慎一とはずっと一緒に真剣にピアノの練習してお互いの夢に向かって励まし合えたから、これからもきっとピアノを弾くたび、お互いの夢に向かって頑張ろうって思えると思う……」
「わかってるよ。俺も真智子の夢は応援してるからさ」
「私だって修司のこと、これからも応援してるよ。修司はサッカー部のホープだったもんね。大学行ってもご活躍を期待してますっ」
「それはそうと、メニュー、決まった?お腹空いたし、のんびりしてないで早く決めようぜ」
「そうだね」
慎一といる時とは違う、修司との久しぶりの空気が真智子には少しこそばゆい気がした。
―食事を終え、ふたりがファミリーレストランを出たのは夜の九時を過ぎた頃だった。
「時間、大丈夫?夜だし、家の近くまで送ろうか?」
「大丈夫だよ。私も自転車だし。もう、大学生になるんだし、九時ならまだ早い時間帯でしょ」
「でも、物騒だから、気をつけろよな」
「もちろん、気をつけるよ。ところで、慎一が春休み中、引っ越しするかもしれないから、修司にも手伝ってもらったらって言っておいたけど、時間空けられそう?」
「わからん。日にち次第だよ。そのうち、慎一から連絡来るんだろ?それにふたりのお邪魔になりそうだったら、行かないぞ」
「まだ、決定事項じゃなくて、奈良のお父さまの意向とかあるみたいだけどね」
真智子と修司は自転車に乗ると別れ道まで一緒に走った。別れ道に来たところで、真智子は修司に向かって言った。
「じゃ、今日はこれで。色紙、ありがとね」
「気をつけて帰るんだぞ」
「バイバイ、またね」
「バイバイ」
ふたりは別々に別れると、それぞれの家路へ自転車を走らせた。
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