第32話 無限の流れを汲む流派
「ダンジョンに行きたい?」
エリーゼが、
肩に
「まだ
そう言って、ため息をつきつつ片手で
その様子から
危険なダンジョンに、それも、最近は調子が良さそうだが、ついこの前まで、魔法適性が
だが――
「良いんじゃないか」
あっけらかんと言い放たれた許可の言葉に、
「おいッ! アレンッ!?」
無責任な発言だと思ったのだろう。カイトは、戸惑いと怒りが
「〔
それを聞いて、ピタッ、と歩みを止め、
「親子で一緒に、って…………いやいや、ピクニックじゃねぇんだぞッ!? それに、良いのか? 〔超魔導重甲冑〕の存在は隠すんだろ?」
「そうだけど、隠すも何も、エリーゼの〔
どうやらすっかり失念していたらしいカイトにそう答えてから、アレンは、その場にいる他のメンバー――リエル、レト、クリスタ、ラシャン、サテラにも意見を訊いてみる。
すると、強くなれる時になっておくのは良い事、まだ早い、モンスターを殺すところを見せる事になるので子供の教育に良くない、自分の身を護るためにモンスターを殺す事ができない者が行っていい場所じゃない、体質的に霊力を適度に放出したほうが良いのだから、魔法を覚えてダンジョンで戦えるようになれば、体調を安定させられる上、魔石が手に入ってお金も
ただ、両者共に、自分達と一緒で
ならば、あと必要なのは、当人の意思と、保護者の許可。
「わたしも、アレンさんたちと一緒に冒険したいですっ!」
父から現役時代の
それに対して、カイトは、
「……なんだかんだ言って、〔超魔導重甲冑〕の適格者になった時点で、いずれはこうなるんじゃないかと思ってたんだ……」
「え? じゃあ……~っ!?」
期待に
「どうせダンジョンに
反対して、自分が知らない内に、どこの馬の骨とも知れない
カイトは、渋々といった様子で許可を出し――笑みを
その後、アレンは、予定を変更して、カイト、リルを抱っこしたエリーゼ、ラシャン、クリスタと共に冒険者ギルドへ。
そして、結果から言ってしまうと、エリーゼは、エメラルドタブレットを手に入れて冒険者になった。
クラン《物見遊山》にはAランクの冒険者が二人――カイトとラシャン――もいる上、保有霊力量に関しては常人の比ではない。
「――アレン殿」
それは、ギルド本館の
そう呼び掛けられてアレンが振り返ると、そこには、青いリボンで
「クラン《物見遊山》のアレン殿に
年の頃は、10代の
立ち姿も美しく、
「突然お
兎の耳と尻尾がある乙女――カレンは、ほっ、と
「闘技場での決闘を
そう熱く
「こうしてお会いできたのも何かの
その勢いのまま手合わせを申し込んだ。
実のところ、
なので、カイトやラシャンは言うに
しかし――
「こんな修行中の若輩者で構わないのであれば」
そう承知した
すると、予想外の展開に、周囲が
「受けるの? 手合わせ」
カイト同様、意外そうに目を丸くしているラシャンの問いに、アレンは、あぁ、と頷いて、
「ちょっと確かめたい事があってね」
そんな訳で、アレンとカレンは、
そこは、
世間では、まだ『〝なまくら〟は剣士。魔法を使うのは使役している
「ここで良いかな?」
「はい」
二人は、
アレンは、左腰に
それに対して、カレンは、背負っている剣の
それは、剣身が約60センチ、柄が約25センチで身幅が細い
それを見て、アレンは軽く目を
「槍……、って事は、――
その
「ご
これまで、立ち合いを望んだ者達の中には、無限流を名乗る者達がいた。しかし、それが許されるに
だが、カレンの何気ない立ち
それが、ラシャンに言った、確かめたい事。
だが、カレンの
ならば、思い当たるのは一つ。
それが、無限流の
「師匠から聞いた事があるってだけで、使い手に会うのは初めてだ」
『剣聖』と
だが、その実、師匠が他の得物に
しかし、そんな無限流の教えに
そして、その中の一人が、槍に残りの人生を
カレンは、おそらく、話に聞いたその者の弟子なのだろう。
「では、
そう名乗りを上げて、カレンは、穂先を相手の
「無限流刀殺法・
槍は触った事がある程度で、槍殺法の使い手に教えられる事などない。ならば……
アレンは、左手の親指を愛刀の
「――――~ッ!?」
例え武術の心得がある者であっても、十人中九人は、
だが、カレンは、はっ、と息を
それは、アレンが何を仕掛けようとしているのかを察したから。
「――〝
無辺流にも伝わっている、無限流刀殺法の極意、
頭で考える前に躰が動くような、剣が、槍が、武術が
『…………』
無限流と無辺流の使い手達は、気合を発する事も、
「…………………………、――参りました」
自然体で
「それで良いのかい?」
どうせなら
今の数秒の間に、自分が勝利する筋道を見出すため脳内でシミュレーションを繰り返したのだが、まるで破局へ向かって時空が集束していくかの
「己の未熟さと、
「そうか」
なら良い、とアレンも笑い、
『ありがとうございました』
カレンが得物を元通り鞘に
その道中、師匠の事を
それによると、なんでも、カレンは、無辺流
そして――
「冒険者養成学校って、どんなところ?」
修行という共通の目的でラビュリントスにやってきた二人。だが、その足で冒険者ギルドへ向かったアレンとは
あり得たかもしれない別の道に興味が
「…………」
カレンは
予想外の反応に、あれ? と
そして、
それによると、
その原因は、彼女
「彼らは、あくまで冒険者の候補生であって、武芸者ではなかったんです」
入学時にテストを受け、その成績によって
無辺流槍殺法の使い手にして目録を得ているカレンは、
彼らは
しかし、自分達は最上位クラスの生徒である、と
このままではいつか必ず足元をすくわれる――そう考えたカレンは、彼らのためを思って、自分達は強いという
その結果、自分達より少し強いからといって何様だ、と強い反感を買い、なら君は好きなようにやってみれば良い、と突き放され、俺達は俺達の方法で強くなって間違っていないという事を証明してやる、と
パーティの不和やメンバーの脱落は評価が下がる、こちらに迷惑をかけるな、と表向きは問題ない事になってはいるものの、今日も今日とて、他のメンバーはカレンをおいてダンジョンに
「冒険者であって、武芸者ではない、か……」
身につまされて、思わず天を
思い出すのは、初めてダンジョンに潜った時に同行させてもらった、冒険者養成学校の生徒達――MVPを
それと、ラシャンから聞いた、効率的な技能の取得法。
冒険者ならあり、武芸者ならなし――そう話したのはつい先日の事で、自分の仲間達は、そんな意見に理解を
しかし、彼女の場合は……
カレンの立場に自分を置いて考えてみてぞっとし、思わず身震いするアレン。
そして、とぼとぼ歩く彼女のほうへ目を向けて、
「なら、俺達と一緒にダンジョンに潜る?」
ふとした思い付きをそのまま言葉にして伝えた。
すると、カレンは、え? と顔を
「武芸者であり、冒険者でもある――そんな俺がマスターをやってるクランで、そんな俺を認めてくれる仲間達だから、カレンも、
アレンが更にそう続けると、一人ぼっちの武芸者は、驚きに目を見開き、暗闇に差し込んだ一条の希望の光を見付けたかのように
「それは、願ってもない事なのですが……」
一転して
その言葉に甘えるのは、
だがしかし、現状を打開するためのきっかけを欲していたカレンにとって、これ以上を望むべくもない申し出である事には違いなく…………最終的には、
「ほ、本当に、よろしいのですか?」
試しに一緒に冒険してみて、彼女がそれを望み、仲間が反対しなければ、クランに入ってもらっても良い――内心でそう思いつつ、アレンが、うん、と頷くと、
「
カレンは、足を止めて姿勢を正し、勢いよく、そして、深々と、頭を下げた。
――その後。
アレンは、賢者の塔で、リルを
正午になると、自分の工房で研究に
その席で、アレンは、カレンの事を他のメンバーにも話し、同意をもらった。
昼食後には、解散する前に
それは――
「空間転位専用
【空間合流転位】とは、予め仲間に付けておいた、または、安全な場所に設置しておいた目印に引き寄せられる形で移動する誘引型の転位魔法。
〔帰還者〕を起動させると、アレンが、自宅の地下――〔
これさえあれば、危険を感じた時や何者かに襲撃された時、一瞬にして拠点へ
カイトから
そして、その後は、もうお馴染みとなった、
目的は、エリーゼの装備を整えるため。
彼女が望んでいるのは、『一緒に冒険をする事』。だというのに、ダンジョン内では基本〔超魔導重甲冑〕から降りないとは言っても、もう
そんな訳で、紋章を含めて格好から入る事にしたらしい。
出掛けるのは、エリーゼ、付き
妙な
〔帰還者〕がある今となっては、先に戻っていても大丈夫だろうとは思う。それでも一応、アレンが店内の一角でリルとたわむれながら女性陣が買い物を終えるのを待っていると、顔見知りの男性店員がやってきて、次に来店したら渡すよう指示されていた、と言いつつ
それは、クラン《ペルブランド・ファミリー》のマスターから、クラン《物見遊山》のマスターへ、つまり、アレンに
ちなみに、[タリスアムレ]は、生産系クラン《プライヤ&ニッパー》が経営する店の一つで、《プライヤ&ニッパー》は、攻略系クラン《ペルブランド・ファミリー》の
そう考えたアレンは、時空魔法の【超空間通信】を使って拠点にいるカイトに相談し、店員さんに紙とペンを用意してもらって、招待に応じる意思がある旨を記す。
その流れで店員さんから、
この店は日用品なども
拠点に帰って、
十分な機能性は当然として、見た目の可愛らしさを重視した装備を身に
――一夜明けて。
早朝。留守番のサテラに見送られて、肩にリルを乗せたアレン、リエル、レト、クリスタ、ラシャン、カイト、エリーゼが、【空間転位】で、ギルドがある浮遊市街の一角、
アレン達同様、臨時でパーティ登録をするためにここを待ち合わせ場所にしたのだろう。そんな少なくない冒険者達の中に、カレンの姿があった。
何か心配事でもあるのか、心細そうな様子で
先に見付けたアレンが歩み寄り、声をかけた――その途端、ピクッ、と反応する兎耳。次の瞬間には顔を上げ、約束の時間よりだいぶ早く来て待っていたカレンは、だいたい5分前にやってきたアレンの姿を見付けるなり、心細そうな様子から一転、ほっ、と安堵の笑みを浮かべた。
「おはようございますッ! 本日はよろしくお願い致しますッ!」
元気に
ダンジョンの外なので、まだポンチョ風ケープやワンピースのようなポンチョ、ローブなどを身に着けていたが、名前を呼ばれると仮面やフード、とんがり帽子やフルフェイス型の
リエル、レト、クリスタ、ラシャンは、それぞれ個性的な〔
エリーゼもそうなのだが、彼女の場合は一見しただけではそうと分からないものの、一目見れば質が高い事が
その
そして、剣のように柄が短い状態の〔霊槍・蒼月〕を納めた鞘を背負い、程よく
「…………」
「カレン?」
「あっ、いえ、何でもありません」
アレンと他のメンバーの間で、より正確には、双方が身に
「アレンよ」
その反応を見てから、自分達のマスターのほうへ目を向けて、
それに対して、アレンも、実用性一点張りの自分の防具を見下ろしつつ、あぁ、とただ一つ頷いた。
しかし、実際に、クランメンバー以外に装備を見比べられてこういう反応をされると、予想していたよりは
それでも、自分だけなら、まぁいいか、と気にしない事にできただろう。
だが、その
「――よしッ! 装備を新調しよう」
まだまだ使えるこの防具は、世間が忘れた頃、クラン《物見遊山》のマスターとしてではなく、一介の冒険者として行動する際に世を忍ぶ仮の姿として使えば良い。
「思い立ったが吉日。まずは約束通りダンジョンに潜って、その
この話はこれでおしまい。気持ちをダンジョン探索に切り替えたアレンは、仲間達を
「――アレン様っ!」
その背に声をかけて呼び止めたのはリエルで、レト、エリーゼと何やらアイコンタクトしてから、
「実は、アレン様の装備を
そう伝えて、軽くアレンを驚かせた。
何でも、昨日、買い物の途中でふとその事を思い出し、顔見知りの職人に訊いてみたところ、是非
だが、アレンは乗り気ではなかった様子。しかし、〝会合〟か、クラン連合か、または他のクラン・マスターとの会食か、急に
そう考えたサテラは、自分の責任で、
それらを踏まえた上でのデザインや製作など、あとは全て職人任せ。
ちなみに、気に入れば買い取り、気に入らなければ何度でも作り直す、という契約らしい。
「そうだったのか……」
その話を聞いてアレンが思ったのは、専用の装備を作るのに採寸とかしなくて良いのか? という疑問だった――が、そのすぐ後、夜会などに招待された時用の盛装を仕立ててもらうために採寸したり、生地の好みを聞かれたりした事を思い出した。
リエル達の様子からして、サテラも、秘密にしておいて後で驚かせよう、などという
いや、それでも、盛装と防具は別物。やっぱり使用者本人に意見を訊くべきなんじゃないか?――と思ったアレンだったが……
「ん? なんだ?」
今、目の前にいるカイトも、人の話など聞かず、自分の自信作を押し付けてくる。
きっと、どんな細かい注文にでも
――何はともあれ。
「なら、今日は一日、ダンジョン探索に集中できるな」
今回の参加者は、クランメンバーだけで7名。それに、カレンを加えた計8名。
しかし、パーティの上限は6名。
つまり、二つ以上のパーティでの探索――レイドという事になる。
実際は、ただ同行者が増えるだけ。なのに、初めてのレイド、と言い換えただけでワクワクしてしまうのだから不思議だ。
「さぁ、――行こうッ!」
アレンは、ちょっとはしゃぎ
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