第21話 ラビュリントスを蝕むもの

 冒険者ギルドを後にしたアレンと可愛い精霊獣の相棒カーバンクルのリルは、適当な人目のない場所から【空間転位】で拠点ホームへ。


 帰還すると、まず時空魔法で展開した結界――平面状の浄化空間を通り抜ける事で、ゾンビがひしめく第6階層を探索して付着した臭いの原因物質を除去する。それから、後ろの家――自宅に入ると、リエルとレトが出迎えてくれた。


 クリスタの姿はなく、霊力が尽きかけただけで放っておけば回復すると分かってはいるのだが、今朝ぐったりしていた事を思い出したので、どうしているか訊いてみる。すると、あのあとからずっと工房にこもっているとの事。


 いで、予期せぬ再会の後、気を失ってしまったので連れ帰った客人についてたずねると、


「俺に話したい事が?」


 目を覚ましたのは昼前で、食欲がないと昼食はとらず、浴場を使うよう勧めると入浴し、その後、来客用の建物――前の家の客室へ戻る際にそう伝えてほしいと頼まれたのだとか。


 アレンは、任せっ放しにしてしまった事への謝罪と、いろいろ世話を焼いてくれた事への感謝を伝え、まず自室へ向かい、装備一式を除装してからラシャンのもとへ。


 ちょこちょこ後をついてくるリルと共に前の家へ足を運び、居間や応接間を兼ねるサロンのような広間を横目に階段を上がって、2階に複数ある客間、その一つドアの前で足を止め、ノックしてから呼び掛ける。


「アレン君、一人?」


 こたえてからドアを薄く開け、隙間すきまから様子をうかがうラシャン。


 アレンが肯定すると、中へ入るよううながし、


「ごめん。ちょっと外で待っててね」


 そう言って、リルが入る前にドアを閉めた。


 十分な広さがある室内には、椅子と机、寝台ベッド抽斗ひきだし付きの鏡台、クローゼット……簡素だが質のいい家具が一通りそろっており、


「ねぇ、ここ、座って」


 リエルが貸したのだろう。見覚えがある丈長のワンピースネグリジェ姿のラシャンは、ベッドに腰かけてとなりに座るよう促し、アレンはそれに従って腰を下ろした。


「俺に話したい事って?」


 そう訊きつつ様子を窺うと、彼女の目の下にはまだくまが残っており、いくらかせた、というか、やつれたように見える。


 そんなラシャンは、うつむいたまま、うん、と頷き、微妙な間を置いてから上げた顔をアレンに向け、心身の疲労を隠そうとするかのように笑みを浮かべて、


「ねぇ、覚えてる? 私達が初めて会った時の事」


 決心がにぶったのか、余程よほど話すのが躊躇ためらわれる内容なのか、おそらく問題を先延さきのばしにしているだけだろうとは思いつつも、アレンは、相槌を打ったり無難にこたえたりしながらラシャンの思い出話に付き合い……


「……あの時はごめんね。仲間に紹介してあげるから、って無理にさそったのは、私なのに……」


 おそらく本題に関係する事なのだろう。目を逸らして俯き、表情をくもらせ、声から力が失われて語調トーンも落ち…………語られたのは、かつて彼女が属していたラビュリントスで五本の指に入る攻略系クラン――《暗闇に差す光輝》で最強の攻撃役ダメージディーラーを務めていた人物が同僚との結婚を理由に引退を宣言した場に居合わせた時の事と、その後の事。


 黙って耳を傾けるアレン。


 それからラシャンがとつとつと語った内容を整理して簡単にまとめると――


 あの後、彼女達の拠点ホームに戻って話し合ったが、結局、結婚を決意した二人を引き留める事はできず、それをきっかけに、引退を考えていた者や他のクランへの移籍を考えていた者など、更に数名がクランを抜けた。


 そうなれば当然、予定していた遠征は延期。クラン内でパーティを組み直し、班単位、クラン単位での連携の確認など訓練を行なった。


 そして、万全を期して実行した遠征で、クラン《暗闇に差す光輝》は壊滅した。


 ラシャンが、その事実を告げただけで経緯を詳しく語らなかったのは、思い出したくなかったからだろう。


 地上に生還したメンバーは20名に届かず、みなで一からやり直そうという声もあったそうだが、結局、クラン《暗闇に差す光輝》は解散。生き残り達は、それぞれ、引退する者、他のクランからの勧誘を受けた者、これからの事を考えるために休みを取る事にした者…………と様々だが、ラシャンは、親友であり戦友でもある女六人でパーティを組み、冒険者として再出発する事に。


 クランでの、ではなく、パーティでのダンジョン攻略であるため大きく後退してしまったが、自分達は上手くいっている――ラシャンはそう思っていた。


 だが……


「寝るのが怖い、って……でも、大丈夫だから心配しないで、って……」


 仲間の内の二人が、覚醒剤ドラッグに手を出した。


 どれだけ忘れようとしても、ダンジョンで《暗闇に差す光輝》が壊滅した時の光景が、命を落とした仲間の助けを求める声や悲鳴が、死を感じた恐怖の体験が、悪夢となってよみがえる。ゆえに、眠るのが怖いと言っていたメンバーがいた。


 ラシャンも気にしてはいたのだが、パーティのリーダーとして他にもやるべき事があったのに加え、自分よりそのメンバーと仲の良い親友が親身になって寄りい、私に任せて下さい、と言って甲斐甲斐かいがいしく世話を焼いていたので、口出しせず見守る事にしたのだが……


「私が、もっと注意していれば……~ッ!!」


 ラシャンは、その時の事をいて、両手で顔をおおう。


 そのメンバーは、ある日をさかいに悪夢の事を口にしなくなり、いつの頃からか、親友共々妙に強い香水を使うようになり、そして、唐突に二人は姿を消した。


 ラシャンを含むメンバー四人は、いなくなってしまった二人を懸命にさがし、見付けたのは三日後。彼女達の前に姿を現したあやしい男が二人の居場所を知っていると言い、その案内で向かった先は、とある裏町の元は酒場だったとおぼしき古びた建物。その中へ足を踏み入れて目の当たりにしたのは、数名の悪党チンピラと、覚醒剤クスリを売ってくれとその足に縋りついて懇願する仲間二人の姿。


 この時、二人は既に重度の慢性中毒におちいっていて会話もままならず、悪党共のかしらと思しき男は、返済能力がない二人に代わって、彼女達が覚醒剤ドラッグを買うためにした借金を払えと要求し、断るなら二人を都市警察へ突き出すとおどした。


 『都市警察』とは、ラビュリントスでの社会公共の安全と秩序の維持に努め、それらに対する障害や危険の予防と除去に当たる組織。かつて、独立自治領を守護するために設立された騎士団、その憲兵隊を前身とし、有事の際には【技能】で強化された冒険者のパーティ・クランが協力して事態の収拾に当たる事が制定されたのち、騎士団は解体され『都市警察本部』として再編された。


 違法薬物の使用は罪が重く、逮捕されれば投獄されるのは間違いない。中毒者を隔離するための牢獄へ放り込まれ、徐々に薬物の使用量を減らすのではなくいきなり完全に断たれたなら、この二人は間違いなく激しい禁断症状によって精神が崩壊するだろう――悪党の頭はそう言ってラシャン達に、仲間を助けるか、見捨てるか、どちらでも好きなほうを選べと決断をせまった。


 ラシャンをふくむ四人は、法外な額の借金を返済するために、パーティ名義で方々から借金し、手持ちで売れる物は全て売って現金を作り、二人を取り戻した。


 眠るのが怖いと言って苦しみ、日々やつれて行く親友の姿を見ていられず、少しでも楽にしてあげたい一心で覚醒剤クスリを勧めてしまい、彼女に勧められて自分も一緒に使うようになった。いくら後悔してもし足りない――そう語って涙ながらに謝罪を繰り返すメンバー共々二人を[セルリアナ記念病院]に入院させ、彼女達の治療費を払うためにも、背負ってしまった借金を返済するためにも、気を取り直して頑張ろうと声をかけ合い、また冒険者としての活動を再開したラシャン達四人。


 だがしかし、後日、メンバー三人が忽然こつぜんと姿を消した。『ごめん』と書かれた紙の代わりの布切れと借金を残して。


 ラビュリントス中を捜し回ったが、仲間だと思っていた三人は見付けられず、途方に暮れるラシャン。そんな彼女に声をかける者がいた。


 それが、クラン《群竜騎士団》赤竜隊と、その隊長――〝金剛鬼神〟のアンガス。


 彼は、ラシャン達がまとまった額を借りられなかったため方々で作った借金、その債権を全て買い取ったと告げ、利子やパーティメンバーの違法薬物使用に関する口止め料なども含め、全額耳を揃えて支払えと要求してきた。


 そして、ラシャンは、姿を消した三人の捜索を一時中断し、たった一人で金策に駆けずり回り――今に至る。




「返済の期日は?」


 ラシャンの話を聞いた事で、何故あの時、【空間転位】せず、無意識に雨の中を歩いて移動する事を選んで彼女と再会したのか、それについては分かった気がした。


 なので、ここまで黙って耳を傾けていたアレンが口を開くと、


明後日あさって


 ラシャンは、既に諦め切っているらしく、もう笑うしかないと言った有り様で……


「返済するのに必要な金額は――」

「――そんな事より」


 ラシャンは、今までにない強さでアレンの言葉をさえぎるとベッドから腰を上げ、


「アレン君にお願いがあるの」


 そう言ってベッドにすわったままのアレンの前に立つと、おもむろに手を服に掛け――


「私を抱いて」


 ネグリジェを脱ぎ捨てた。


 その下には何も身に着けておらず、ただ華奢で見た目が美しいだけではなく、しっかりと筋肉がついていながらも筋張る事なく柔らかな、抜群のプロポーションをアレンの前でしげもなくさらし、


「大事に守ってきた訳じゃないけど、やっぱり、初めては特別だから」


 唖然呆然としている少年の両肩にそれぞれ手を置くと、そのままベッドに押し倒した。


「無理矢理奪われるのはイヤ。自分で選んだ人にあげたいの……」

「ちょっと待って。俺の話を――」

「――奴隷に落とされたら、あいつに犯されて、もてあそばれて、飽きたら部下共のオモチャにされて、さんざん使い倒された挙句、私がもう私じゃなくなった頃、娼館に売り飛ばされる。そうなったら、下手へた二つ名が知らなまえがうれてるせいであっという間に噂が広がって、あいつの具合はどうなんだろう、って確かめるために客が殺到して、毎日毎日休む間もなく客をとらされて――」

「――ラシャンッ! 大丈夫だから。そんな事には――」

「――なるのッ!! 分かってるのッ!!」


 その語気の強さ鋭さに、ベッドの上で仰向けになっているアレンは目を見開いてからパチパチ瞬きを繰り返し、両掌と両膝をベッドについたラシャンは、覆い被さるような体勢で戸惑いを隠せない少年を見詰め、


「もう何人も犠牲になってるのッ! さからえないのッ!」


 まるで未来でも視たかのように、妙なほど言葉に確信が篭っていると思ったら、既に前例があったらしい。


「自分の家族や恋人が大切な捜査官は関わろうとしないし、誰だって命が惜しいから口をつぐむ……ッ! 元々持ってた化け物じみた力を【能力アビリティ】や【技術スキル】で更に強化してるあいつには、誰も勝てないし殺せない……ッ! だから、都市警察は賄賂ワイロを受け取って、あいつがどれだけ罪を犯しても全部み消す……ッ! ――もう、どうにもならないの……ッ!!」


 人を早熟させ、更なる高みへ押し上げる継承システム――それを使うのが善人だけとは限らない。


 アレンは、なるほど、と妙に納得した。それと同時に、感じてもいた。


 頭が、すぅ――…、とつめたくめて行くのを。


「だからお願い……、私の最後の我儘わがままを聞いて……」


 ラシャンは、目をうるませて懇願し、まぶたを閉じると大粒の涙がこぼれ…………そっと顔を、唇を、アレンに寄せて――ゴスッ!! と額を襲った予期せぬ衝撃と声が出ないほどの痛みに仰け反った。


 ぺたんっ、とアレンの太腿ひざのうえにお尻を下ろし、ぃいぃ~~~~ッ!? と声が漏れても、痛い、と言葉にならず両手で額を抑え、ほんの少し前とは別の涙が目に浮かぶ。そして、キスしようとして、歯が当たるのではなく、額が当たるというかここまで痛烈な頭突きになるってどういう事だと文句を言おうとして――


「――あっ……」


 上体を起こしたアレンに、ぎゅっ、と優しく包み込むように抱き締められて、また言葉が出なくなった。


「よぉ~しよし、よぉ~しよし」


 魔法適性が極めて高い体質であるが故に、幼い頃は、小さな躰に納まりきらない大量の霊力で生体機能が害され、その上、魔眼持ちだったため、老師が、見え過ぎるほど見えて視たくないものまで観えてしまう浄眼を封じ、徐々に慣れさせてくれていなければ、とうに発狂していただろう。師匠が、〝軟気功〟――医療用の気功術で体内の霊力バランスを整え、制御の仕方を教授してくれていなければ、おそらく10歳まで生きられなかっただろう。


 そんな苦痛にまみれた幼少期を過ごしているからこそ、師匠と老師に、大丈夫だ、と抱き締めてささえてもらった事があるからこそ、アレンは知っている。


 こうして抱き締められる事で、人がどれだけ安らぐかを。


「…………」


 ラシャンは、額を抑えていた両手を下ろし、アレンの肩に顎を乗せて身をゆだね、見た目より遥かにがっしりしていてたくましいその背に両手を回して、ぎゅっ、と抱き締め返し、


「よぉ~しよし、よぉ~しよし」


 アレンは、片腕で抱き締めつつ、片手で髪をくように、ゆっくりと頭を撫でる。


 それから程なくして、


「落ち着いた?」

「…………うん」


 縋りつくように抱き着いたまま、年端もいかない少女のように頷くラシャン。


 アレンは、首筋に当たる息を少しくすぐったく思いながら、


「それで、足りないのはいくら?」

「…………だいたい1000万」


 バカげた額にもはや笑うしかないらしく、ラシャンは、新人冒険者ルーキーの君にはどうにもならないでしょう、と言わんばかりの口調で答えたが、


「そいつは丁度ちょうど良い」


 そう言って、アレンが、ラシャンの顔の高さまで持ち上げて見せたのは、ズボンのポケットから取り出すていで、【異空間収納】の収納用異空間から取り出した小袋。


泡銭あぶくぜにだからあげるよ」


 中身を確認するよう促されたラシャンは、怪訝けげんそうにしつつもそれを受け取り、ぴったり抱きついたまま、アレンの肩に顎を乗せて背中側で小袋の口をひらき、中をのぞいて……


「これ、大金貨? が…………10枚ッ!? どうしたのこれッ!?」


 バッ、と躰を離し、それを二人の間、胸の前に持ってきて問うラシャン。


 その位置に持ってこられて小袋に目を向けると、程よく豊かで形が綺麗な乳房おっぱいや引き締まったお腹、お臍、太腿やその付け根まで全部見えてしまうのだが…………どうやら自分が全裸だという事をすっかり失念してしまっているらしい。


 アレンは、【空間輸送転位】で、脱ぎ捨てられたままだった丈長のワンピースネグリジェを手元に転位させ、ラシャンの頭からかぶせるように着せてから、


「そんなつもりは全くないんだけど、《群竜騎士団》白竜隊の隊長は、俺に巻き上げられたと思っているかもな」


 ラシャンが手にしている小袋とその中身――『ネレイア・リーン・エルティシア』本人を見付けて連れてきた者に支払われた謝礼金にちらりと目を向けてから、飄々ひょうひょうのたまい、


「は? 白竜隊の隊長? から、巻き上げた?」


 ラシャンは、目を白黒させて困惑の声を漏らし、


「今さ、俺や仲間や知り合いと《群竜騎士団》を結ぶ因縁を、一つにたばねて、まとめて断ち切ろうと思ってるんだけど、ラシャンも一緒にどう?」


 あっけらかんとつむがれたその内容に、しばらく言葉を失った。




 部屋の外に締め出されてすっかりねてしまったリルを抱っこし、アレンは、ラシャンをともなって来客用の前の家から自身が生活している後ろの家へ。


 そして、それは、ギルドでの引き継ぎの儀式やラシャンの話を聞いたりで遅れた夕食の後の事。


 アレンが、ラシャンの了解を得て仲間達――リエル、レト、クリスタに彼女の事情を説明すると、思わぬ反応を示した者がいた。


「――――~ッ!?」


 バンッ、と音を立ててテーブルに両手をつき、ガタンッ、と椅子をね飛ばして立ち上がったのは、クリスタ。


 何かを言おうとしては口をつぐむという事を繰り返し、それから深呼吸して落ち着くと、倒した椅子を起こして席に着き、


「アレンには話したよね、ボクが、前に属してたクランから脱走してきたって」


 そう確認してから、


誓約の儀式魔術ゲッシュのせいで、そのクランの名前とか、作ってた薬の名前とか、必要な材料とか、話せないんだけど……」


 そう前置きして、


「それまで従ってたのに、脱走するって決めたのは、〝ある薬〟を作れって強要されたからなんだ」


 この話の流れで〝ある薬〟――それはつまり、《群竜騎士団》傘下の生産系クランが覚醒剤を製造している、という事なのだろう。


 それを聞いたラシャンも、同じような推測をして――


「……じゃあ、あの達は私のせいで薬漬けにされて……」


 更に発想を飛ばしたらしい。まるで、この世の終わりが来る事を知ってしまったかのような、思いつめた表情で俯いてしまった。


 リエル、レト、クリスタは掛ける言葉が見付からないらしく顔を見合わせ、


「俺はそうは思わない」


 アレンは、きっぱりとそう伝える。そして、膝の上で丸くなっているリルを撫でつつ、


「師匠が言ってたよ。〝悪いのは、作ったり売ったりした奴、そして、買う奴。その他はみな被害者だ〟って」


 そう言ってから、その時はどうしてそんな話になったんだっけ? とふと天井へ目を向けて記憶を探り……


「……あぁ~、確か、戦争の話を聞いてた時だ。国が、麻薬や覚醒剤ドラッグを、表では禁止していながら、裏では戦略物資の一つとしてあつかっていた、って」

「戦略物資?」


 そう訊いてきたのは、戦争で国と家族を失ったリエルで、アレンは頷いてから、


「ドラッグは、依存性が強く慢性中毒におちいりやすい。それは、言い換えると、利益率が高い……つまり、もうかるって事だ。そして、慢性中毒になった人々は、社会に負担をかけるようになる。――だから、工作員スパイや地元の悪党を使って、敵対する国でドラッグをばらき、弱体化させると同時に金儲けをする、っていう政策をとっていた国があったらしい」


 そう言ってから、いや、たぶん今もあるんだろうな、と言い直し、


「傭兵として戦争に参加している《群竜騎士団》は、実際にそれをやってるのかもしれない。そして、このラビュリントスでも、金儲けをすると同時に他のクランを弱体化させて、逆らう者は潰し、従う者は傘下に収めて、実質的に支配――」

「――そんな事絶対に許せないッ!!」


 テーブルに、バンッ、と手をついて立ち上がったのはラシャンで、リエル、レト、クリスタも、表情を見る限り同じ気持ちらしい。


 その後、大きな音に驚いて跳ね起きた不機嫌なリルを撫でてなだめつつ、アレンは逸れてしまった話を本題に戻し、悪夢に悩まされていた仲間とその親友が覚醒剤に手を出した、というあたりから話を再開してラシャンの現状を知ってもらい、自分の考えを伝えた。


 そして、それぞれに意思を確認する。


 その結果、反対した者は、一人もいなかった。

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