第5話 奴隷 と 魔導機巧

 ――翌朝。


 日の出と共に起きたアレンは、家から出て裏庭へ。そして、六芒星型の浮遊市街の頂点の一つ、所有地の端に立って眼前と眼下に広がる壮大なパノラマに感動のあまりしばらく言葉を失い、我に返ると日課の朝稽古を始め…………3時間後、真っ先に作った浴場で、まず汗を天井から集中豪雨のように降り注ぐレインシャワーで流してから、手足を思いっきり伸ばせる大きな湯船に浸かり、冷水を浴びて至福の朝風呂で緩んだ身と心を引き締めてから上がり、衣服を身に着け、昨日の夕食と同じく手持ちの食糧で朝食を済ませた。


 今日の予定は、観光を兼ねて街を散策しつつ、これからの生活やダンジョン探索で必要なものを揃える。


 旅の疲れなど一晩寝れば十分癒えるのだが、最低でも明日、つまり今日一日はラビュリントスまでの旅の疲れを癒すために使ってダンジョンには潜らない、というのがアドバイザーさんサテラとの約束なので致し方ない。


 そんな訳で、必要なものを買い揃えようと思うのだが、その中で特に重要なのが二つ。


 『甲拳型の法武機エンチャッテッド・ウェポン』と『奴隷』だ。


 家事、その中でも特に炊事が得意な奴隷を購入するのは師匠と老師からの指示で、要するに、修行に専念できるよう他人ひとに任せられるものは任せてしまえ、との事。


 自分は、他人に金で売り買いされるなど真っ平御免。故に、自分も他人を金で売り買いするような真似はしたくない――その時はそう異論を唱えもしたが、嫌なら良い、と購入を無理強いされなかった事と、奴隷は買われて主に解放してもらう以外に自由を得るすべがない、と聞かされて、結局、師匠と老師の指示に従う事にした。


 昨日、サテラにもそんな目的と理由で奴隷を買おうと思っているという事を伝えると、衣食住を保障するという義務を果たせるのかと確認されこそしたが、反対はされなかった。というか、むしろ推奨すいしょうされた。


 そういった仕事を生業なりわいとする者を雇う事もできるそうだが、費用がかさむ上、留守中に盗みを働いた、または、金をもらって盗人を引き入れた、という事例が何件もあるらしい。その点、奴隷は主人と一蓮托生いちれんたくしょう。そのような心配をする必要がない。


 アレンは、手早く身支度を整える。


 今日はダンジョンに潜らないと決めていたので、旅の疲れを落とすなら旅の汚れも落とそう、と昨日の内に防具を全て水洗いした。その際、ついでに〝あれ〟も洗って驚きの発見をし、ちょっと【空間転位テレポート】で、旅の途中にあった、水が出たせいで封鎖された鉱山へ足を運び……


 ――それはさておき。


 防具は今も風通しの良い日陰に干してあるので、アレンは平服姿でウエストポーチ型の魔法鞄ガレージバッグと愛刀のみをたずさえ、篭手を付けている時はその表面に、はずしている時は左手の甲にある紋章を改めてしげしげと眺めてから買い物に出かけた。




 この迷宮都市には人間族以外にも、妖精族、地人族、獣人族、翼人族、鬼人族……様々な種族がいて、特定の種族のみが集まって生活を営んでいる街区エリアが存在し、そういう場所の住人達はたいてい異種族の侵入をこころよく思わない。


 この都市での生活に慣れてくれば自然と友人知人が増え、活動範囲が広がる。だからそれまではあまりウロウロしないほうが良い――そういったむねの忠告をラシャンとサテラから受けているので、散策は、万が一に備えて有名な病院の位置確認と、大勢の人々が行き交う大通りから見える範囲や観光名所をめぐるにとどめる。


 そして、まずたずねたのは、奴隷をあつかっている商館。


 ちょっとドキドキしつつ、扉が左右に開け放たれている正面出入口を潜る。


「いらっしゃいませ。本日はどのような奴隷をお求めですか?」


 ロビーの受付に男性の姿を見付けたので近寄ると、向こうからそう声をかけてきた。


「家事、その中でも特に炊事が得意な人を」

「ダンジョン攻略や、請け負った依頼クエストに同行させる事もお考えですか?」

「いいえ。外出する際には留守を任せるつもりです」

うけたまわりました」


 そう言って受付の男性がベルを鳴らすと、案内係らしい男性が現れて奥へ通され、しばし応接室で座り心地の良いソファーに座って待たされた後、準備が整ったと呼ばれてまた別の部屋へ。


 呼びにきたのは先程の案内係ではなく身なりの良い奴隷商人で、移動中、奴隷を買った事はあるかと訊かれてないと答えると、購入までの手順について説明を受けた。


 そして、促されて奴隷商人が開けたドアからその部屋に入ると、そこには壁を背にして横一列に並ぶ、質素だが清潔感のある衣服を身にまとった九人の女性の姿が。


「彼女達がご要望の奴隷です。質問などございましたら、どうぞ本人に直接おたずねになって下さい」


 との事なので、アレンはそう言った奴隷商人に訊いてみる。


「この中で一番料理が上手く、レパートリーが多い人は誰ですか?」


 すると、奴隷商人は、それは……、とほんの一瞬、迷う、ではなく、躊躇ためらうような素振そぶりを見せてから、


「一番奥にいる彼女です」


 そう言って、姿勢よくたたずむ女性達の中でただ一人、まるで己の存在を消そうとするかのように猫背でうつむいている小柄な女性に目を向けた。


「分かりました」


 奴隷部屋では誰を買うかという話や値段交渉などはせず、先程の応接室に戻ってからする――そう説明を受けていたので、そう告げてきびすを返し、部屋を出ようとするアレン。


 すると、えっ!? と驚きの声が上がった。


 それは一人や二人のものではなく、奴隷商人や他の女性達ばかりか、当の本人まで動揺を露わにしている。


「あの、失礼ですがお客様、本当によろしいのですか?」


 良いも悪いもない。条件を満たす奴隷がおり、購入する事を決めた。ならば、あとは応接室に戻ってからのはず。


 それなのにわざわざそう訊くという事は何かあるのだろう。奴隷商人の目や表情が言外に確かめに行くよう促しているような気がしたので、アレンは一番奥にいる女性のもとへ。


「こんにちは」


 正面に立ち、挨拶する。それに対して、その女性は俯いたまま小さく会釈えしゃくしただけで顔を上げようとしない。


「……ひょっとして、俺に買われるのが嫌なんですか?」

「い、いえッ! そ、そう…いう…ことでは…なくて……」


 意図的に伸ばしているのか、長い前髪で隠れていて表情がうかがえず、まるで何かにおびえるかのように小刻みに震えながら、しゃがれた声でぼそぼそと否定する女性。


 すると、奴隷商人が、お客様に対して失礼だからと顔を上げて答えるよう命じ、女性は、ビクッ、と躰を震わせた後、恐る恐るといった様子でおもてを上げ、恐々こわごわといった様子で前髪を左右に分けて顔を露わにする。


 その面差しは、美醜の基準がよく分からないアレンでも『醜』のほうだと分かった。何故なら、人よりオーク――豚を醜悪しゅうあくゆがめたような頭部をもつモンスターのほうに近いからだ。人の中ではみにいほうだが、オークの中では比較的整っていて愛嬌があるほうかもしれない。


 アレンは、そんな女性の目を真っ直ぐに見て、眉一つ動かさず平然と尋ねた。


「この中で一番料理が上手く、レパートリーが多いのは貴女だと聞きました。間違いありませんか?」


 すると、また、奴隷商人や女性達ばかりか当の本人までもが動揺を露わにする。


「違うんですか?」

「い、いいえッ! あ、あの……な、長くここでお世話になっていて……料理だけではなく、掃除や洗濯、裁縫さいほう、読み書きなど、いろいろ教えて頂きました。その中でも、料理は得意なほうです」


 女性は、まるで奇跡を目の当たりにしたような顔をした後、ほんの少し前までのオドオド、ボソボソが嘘のように話し始めた。


 アレンは、質問に答えてくれた事に対して感謝を告げるときびすを返し、そのまま部屋を出る――が、奴隷商人は唖然としていて動く様子がなく、


「いったい何なんですか?」

「も、申し訳ございません!」


 奴隷商人は、アレンが怪訝けげんそうに訊いた事で慌てて動き出した。


 奴隷部屋を退出して応接室へ。そして、テーブルを挟んで席に着いたところでアレンが改めて何だったのか訊くと、威圧したつもりはないのだが、奴隷商人は額ににじむ嫌な汗を拭いながら白状した。


 それによると、彼女を買うと決めているアレンに対して気を使って婉曲えんきょくな表現を使っていたが、要するに、醜い彼女を買おうというアレンの正気を疑っていた、との事。


 何でも、主人の目に付かない場所で働ける仕事を覚えさせ、もう何度も他の奴隷を買ったおまけに格安で引き取ってもらおうとしたのだが、全て断られていたらしい。


 現在、奴隷の相場は、男女共に13万ユニト。そこから、年齢や美醜、健康状態や身に付けている技能などで値段が増減する。


 彼女の名前は『エル』。薄墨色の髪は伸び放題で、その顔立ちと小柄な躰、猫背なせいもあって老女のように見えるが、年齢は27歳。


 奴隷商人はそれらを踏まえて値段を提示してから、更に不快な思いをさせてしまったおびにと値引きし、アレンはうまく言葉にできないモヤモヤしたものを胸に抱えながら、人一人を言い値のたった4万ユニトで購入した。




 エルは、その容姿のせいでひどい目にあった事があるらしい。そのせいで人が怖く、大勢に囲まれると躰が震えて動けなくなってしまうのだという。


 そんなエルを人通りの多い街中で連れ回す訳にもいかず、首に主人を持つ奴隷の証――禁則を破ると締まる鎖を意匠化したような呪印を受け入れ、長く奴隷商館で世話になっていたため必要になった着替えなど、最小限の私物を納めた布袋を抱えたエルと共に商館を後にしたアレンは、その足で彼女の着替えや日用品など必要なものを買いに行こうと思っていたのだが、予定を変更していったん家に帰った。


 そして、希望を聞きつつ〔拠点核ホーム・コア〕に指示し、彼女自身の部屋を作り、主な仕事場となる厨房を作り変えるなどしてから、


「行ってきます」

「お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 改装中は終始しゅうし唖然としていたが、ようやく落ち着きを取り戻した新しい家族――エルに見送ってもらい、改めて外出する。


「ここ、か?」


 アレンがやってきたのは、一見普通の民家にしか見えない建物。


 正面出入口の脇にある郵便受けにめ込まれている表札、そこに刻まれている『バーンハード』の文字を何度も確認してからドアをノックした。


 ――修理屋[バーンハード]


 この店を教えてくれたサテラの話だと、武器や防具なども含めた様々な道具の修理を請け負うかたわら、趣味で自作した製品を店で販売しているらしい。


「はぁ~いっ」


 コン、コン、とドアに付いている金具ノッカーで打つと、程なく聞こえてきたのは少女の声で、


「お仕事の依頼ですか?」


 防犯のためか、声の主は戸を開けず、ドア越しにそう訊かれたアレンは、いいえ、と答え、甲拳型の法武機を求めて来たむねを伝える。すると、右へ進んでそのまま裏にある店へ向かうよう言われた。


 それに従って移動すると、表の通りからでは見えなかったが、そこには見るからに工房といった感じの頑丈そうな建物があり――


「こっちだ」


 しかし、そう声をかけてきた男性がいるのは、表側の建物の裏口だった。


「…………」


 年の頃は30代半ば。黒髪黒瞳、精悍な面差しに無精髭の男性は、ライトグレーの作業着ツナギの上を脱いで両袖を腰の前で結んでおり、呼ばれて振り返ったアレンを視る眼差しは鋭く、タンクトップに包まれた上半身はしっかりと鍛えられている。そして、左手の甲には紋章が。おそらく根っからの職人ではなく、元冒険者だろう。


「……入れ」


 サテラから聞いた職人の名前は、『カイト・バーンハード』。


 彼は、アレンの全身を眺めてから左手で携えている刀剣に目を留め……きびすを返すと肩越しにそう促した。


 民家の裏口は、店舗の表口。店内へ入ると、そこは2脚の椅子と四角いテーブルがあるだけの小部屋で、続いている隣の広い部屋には所狭しと棚やショーケースが並び、商品が展示されている。


「甲拳型が欲しいのは聞いた。それで、注文は?」


 座るよううながされて椅子に腰かけると、立ったままのカイトにそう訊かれ、アレンは昨日見たスティーブ達の戦闘や、テッド達の装備を思い返しつつ、己の目論見もくろみを踏まえて思案し……


カートリッジは多くの霊力を込められる大型のものが良いです。多用するつもりはないので、装弾数は少なくて構いません。あとは、操作や整備が簡単で、とにかく頑丈で壊れにくいものが良いです」

「片手のみか、両揃いか」

「両揃いが良いです」


 しばし待つよう言ってカイトは奥のドアから部屋を出て行き…………程なく、台車を押して戻ってきた。


「手に取ってもらって構わない。質問があれば聞く」


 テーブルの上に並べられたのは、左右一対の甲拳ガントレットが三つ。


 アレンが一目見て気になったのは、自分から見て右の甲拳。


 攻撃を受け流すための洗練された形状と飾り気のない武骨さが気に入ったというだけではなく、直感的にどうにもかれてそれを手に取ろうとして、


おもッ!?」


 見た目から想像した以上に重く、持ち上がらなかった。改めて力を込めれば難なく持ち上げられるが、おそらく片方だけで5キロ以上ある。


装備してつけてみろ」


 言われた通り、指先から肘付近までを覆う甲拳を右手に装備してみる。すると、


「あれ?」


 軽かった。今は持ってきていない自分の篭手よりも明らかに軽い。


「見た目より重いのは、魔法鞄ガレージバッグに使用される空間拡張技術を流用し、本来その体積に納まるはずのない魔導機巧カートリッジ・システムを嵌め込んでいるからだ。付与されている【重量軽減】の効果で、持てば重いが装備すれば軽い。殴れば打撃にその重みが加わる」


 カイト曰く、この甲拳の名称は〔砲撃拳マグナブラスト〕。


「装弾数は2。大型のカートリッジを使用し、法武機エンチャンテッド・ウェポンとも魔砲機バレット・システムとも違う、弾に込められた霊力を純粋な破壊力に変換する独自の魔導機巧を搭載し、攻撃対象に拳を向けた状態で、射程の長い着弾炸裂型の霊力弾を、掌を向けた状態で、近距離を広く扇状に薙ぎ払う霊的衝撃波を発射する」


 それ以外には、魔法を発射する事も武器に一撃の威力を増幅する特殊付与もできないが、構造がシンプルあるが故にタフで連続使用しても暴発や不発を起こしにくく、


「気温や湿度など環境の変化にも強く、水中や砂嵐の中で弾を交換しても動作不良を起こす事はまずない」


 特殊付与なら自分でできる。これこそまさにアレンの理想を叶えたような代物で、一応、他二つの説明も受けたが第一印象が揺らぐ事はなく、アレンは〔砲撃拳〕と力晶石製の大口径弾を4発購入する事を決めた。




「これから長い付き合いになる。だから自己紹介しておこう」


 というのは、〔砲撃拳〕を売る条件としてカイトが提示した、点検整備メンテナンスは必ず修理屋[バーンハード]で行う事、使用したら必ずメンテナンスする事……などをアレンが承諾したからで、


「俺は『カイト・バーンハード』。元冒険者で職種ジョブ主職メインが【魔法騎士ルーンナイト】、副職サブが【錬金術師】。壊れた物を直すという趣味が長じて店をいとなむ事になり、冒険者時代の経験を基に、道具アイテムを製作して店に並べている」


 カイトは、そう自己紹介して手を差し出し、


「名は『アレン』。新参の冒険者で、師匠に武術の、老師に魔法の教えを授かり、技を磨き己の能力を高めるという趣味と日々の糧を得るため、この都市に来ました」


 アレンは、差し出された手を取り、握手した。


 そして、〔砲撃拳〕の操作説明を受けた後、譲渡前に一応と言って点検を始めたカイトの作業を見学しつつ、今日はダンジョンには潜らず旅の疲れを癒す、とアドバイザーと約束したので必要なものを買い揃えている最中だという話をすると、


「それなら、もう回復薬も買い込んだのか?」

「いえ、これからです。まだ備えが残っているので、他に必要なものを買い揃えた後、残金に余裕があったら買い足そうと思って」


 その答えを聞いたカイトは、そうか……、と言ったきり何かを思案しているようで……


「少し待っていてくれ」


 作業を終え、料金の支払いと商品の受け渡しを終えた後、そう言って席を立った。


 それから程なくして戻ってきた時、カイトが手にしていたのは、デリンジャーという名称の掌サイズで中折れ元込め式小型拳銃のような魔砲機バレット・システムで、


「…………。これは?」


 アレンが、手渡されたそれをしげしげと眺めてから訊くと、カイトは心なしか得意げに、


「聖法専用魔砲機、その名も〔回復銃リキュペレーター〕だ」

「聖法専用?」


 カイトは、あぁ、と頷いてから、


「一言に『回復薬』と言っても種類は実に様々だ。負傷した際に使う傷薬だけでも、【医師】系が扱う散薬、丸薬、水薬、塗り薬、【錬金術師】系が扱う〔魔法薬ポーション〕なら下級ロー中級ミドル上級ハイ最上級フル……などなど。しかも、即効性のものでも即座に傷が消える訳じゃない。血はすぐ止まっても傷自体はじわりじわりと時間をかけてふさがって行く。状態異常にいたっては、毒だけでも、植物系、哺乳類系、爬虫類系、昆虫系、鉱物系……それぞれに対応した薬が必要で、〔解毒剤アンチドート〕じゃその場しのぎにしかならない。可及的速やかにダンジョンを出て病院で医師の治療を受ける必要がある」


 だが、と言って、カイトは二つの晶霊弾カートリッジをテーブルの上に置き、


「〔回復銃〕があれば、負傷なら【光癒ホーリーライト】が封入されたカートリッジ1発で瞬時に傷が塞がり、状態異常も【状態異常回復リカバー】が封入された弾1発で事足りる」

「おぉ――~ッ!?」

「今、世に出回っている魔砲機は、攻撃系の上級や極大魔法を放つ事を前提としているため、弾から解放される際の圧力に耐えられるだけの強度が求められる。だが、そもそも攻撃力を伴わない回復系や防御系の聖法なら、そのための強度が必要ない。故に、構造を単純化し、強度が低い反面、伝導効率や増幅率の高い魔法金属を使えば、比較的安価でありながら高性能でここまでの小型化が可能になるって訳だ」

「なるほど……」

「それをお前に無料タダでやろう」

「えッ!? 良いんですか?」

「あぁ、実際に使ってみて感想を聞かせてくれ。まだ改良の余地があるかもしれないからな。――ただし、条件は〔砲撃拳〕と同じだ。聖法は俺が込めるから、点検整備と弾への封入ごとに代金を請求する」

「…………」


 自分は時空魔法の【異空間収納インベントリー】が使えるため、どれだけ荷物が増えても苦にならない。はてさて、万が一に備え数々の回復薬を買い揃えて常備するのと、聖法の恩恵にあずかり事あるごとに代金を払い続けるのと、どちらが良いのだろう?


 アレンは〔回復銃〕を眺めながら思案して……


「別に嫌なら断ってくれて構わないぞ」

「嫌というか……これって小さ過ぎて、甲拳マグナブラストを装備したままだと使いづらそうだな、と思って」


 〔回復銃〕は、ポケットに収まるサイズで、銃把グリップも小さい。素手なら薬指までかかるが、甲拳を装備した状態だと、親指と中指だけで保持して人差し指で引き金を引く事になる。


 それを聞いたカイトは目をみはり、


「それは……確かにそうだな。ふむ……高性能のまま小型化すれば全ての問題が解決すると……、隠し持つ必要はないんだから……、だが今の大きさで十分……、無駄に大きくする必要も……」


 アレンから受け取った〔回復銃〕を手にしばしブツブツと呟きながら思案していたが、程なくして、よしッ! と名案が浮かんだらしい。そして、


「今日は預かる。明日、工房のほうに取りに来てくれ。朝早くても構わん」


 そう一方的に告げると、やはり実際に使う側の意見は参考になるな……、などと呟きながら、既に受け取る事になってしまっている事に戸惑うアレンをよそに、裏口のほうから出て行ってしまった。

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